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一話完結の短篇集

決して開けてはいけない缶の詰

作者: 雨霧樹

「部長、ソレを本気で開けるんですよね……」

「やっぱり……やめておいた方がいいのでは……」

「バカモン! 覚悟を決めろ部員たち! オカルト部として爪痕を残すにはコレしか方法は無いのだ!」


 直後、男たちの悲鳴が、どこからともなく聞こえてきた。

 

 

 最近、この学校は校舎を新しく建築した。建築してから相当時間が経ち、一年ほど前にも、生徒が廊下を走ったら床が抜けて下の階に落下する、なんて事件があったから当然の判断だ。そうして、新たな校舎が完成し、今まで使っていた旧校舎は取り壊して終わり、ではなく、荷物の引っ越しがをする必要があった。

 

 それは、どんな部活の規模だろうと変わらず、部員の半数以上が幽霊とかしている、我らがオカルト部も、駆り出されることになった。

「はぁ……」

 Uはため息を隠す事すら憚らず、盛大に息を吐く。うちの部活からは最低でも二人出さねばならないとの要請があり、責任者である部長と、もう一人をきめる壮絶な争いに身を投じ、無事に敗北を喫した。

「なんであの時グーを出したのかな……」

「んないつまでそんなことグチグチ言うのさ、モテないわよ?」

 隣に歩く部長は、呆れた口調でUに問いかけてくる。

「だって、みんないつもチョキを出すんですよ! それを読んでグーを出したのに、あいつら絶対結託したって……」

「わかったわかった、じゃあ気分が上がる事教えてあげる」

 ハイハイと手を軽く振って、部長はUの言葉を受け流す。

 

「今回は部室の荷物を運び出すだけで終わるから、そんなに時間はかからない筈よ。なんたって、弱小部ですから、荷物は少ないわ」

「それって、もしかして一時間とかもかからずに……?」

 Uはその言葉に希望を見出した。それならば、こんな面倒なことをすぐに済ませる事ができるのではないかと。ふふん、と笑みを浮かべ勿体ぶる部長を希望に満ちた目で見つめた。

「そうね、真面目にやってくれたら、30分もかからないでしょう。更に――」

「いやっほう! 俺めっちゃ頑張ります!」

「落ち着きなさい、まだあるわよ。実は部室には先輩から受け継いできた、お宝があります」


 お宝、その言葉を聞いたのは久しぶりだった。だが、それだけに心が躍る

「いいですね、それ自分の物にしていいですか!?」

「当たり前でしょ。ただ、中身は見た事ないけどね」

「――それ大丈夫なんです?」

「先輩から受け継いだものだから内容は知ってるのよ。けど、いつの間にか無くしちゃって」

 そうして話しながら歩いているうちに、目的地に到着した。白かったはずの標識は、黒く汚れて見えずらいが、確かに『オカルト部』と刻まれていた。


「捨てたかもしれないからその時は諦めてね」

「わかってますよ。じゃあ、やりますか」

 Uは腕まくりをしながら、出来る限り最速で、そのお宝を見つけようとやる気を出す。先ほどまでウダウダ言っていた時とは別人のようだった。

「――ホント、単純な馬鹿ね」

 部長がボソッと呟いた言葉は、Uの耳には届かなかった。




「――あっと言う間に終わってしまった……」

「だから言ったでしょ。まさか疑ってたわけ」

――正直、めちゃめちゃ疑っていたとは口が裂けてもいう事が出来ない。

 部長を怒らせたら、面倒なことになるのは身をもって体感している。以前毛虫のおもちゃを鞄に仕込んで驚かせたときは、1か月近くも粘着して、毛虫を使って脅かされたときはストレス禿げるかと思ったのだ。だから、そのギロリと睨む鋭い眼光に口答えは出来る筈なかった。

 

「なわけないじゃないですか! けれど、お宝は見つかりませんでしたね」

「いや、私が見つけたから渡すタイミングを待っていただけよ」

 その返事に納得したのか、部長はゴミを仕分けた段ボールの中から、ツナや鯖が入ってそうな、未開封の缶詰を取り出した。

 

「……その缶詰が、どうかしたんですか?」

「アナタ話聞いてたの? これがお宝の『決して開けてはいけない缶の詰』よ」

 そういわれ、改めて外見をじっくりと眺めてみた。ラベルが全く読めない言語だが、それ以外は特に変哲もない缶詰だった。だが、底面を覗き込んでみると、消費期限が刻印されていて、1年以上先であることが分かった。

「中身開けていいですか!? 自分、腹減りました」

「勿論構わないわ。ただ、中身は魚系統だったことは覚えてるけど、体調崩しても知らないからね」

 そういって部長は再び段ボールを漁り、缶切りを取り出した。

「私はトイレ行くから先に食べちゃってていいわよ」

 そのまま扉を開け、部長は足早に去っていった。なぜか鞄を一緒に持っていたが、信頼されていないのかと思い、少し悲しくなるが、今はそれは後回しだ。


「まぁいい、開けようか!」

 ここまで頑張ってきた自分へのご褒美。鯖でも入ってるのだろうか。Uはワクワクしながら、切れ込みを入れた。



「うわああああ臭っっせぇぇえええ!」

 Uの絶叫が、旧校舎に響き渡った。

 

 部長が1年生だったころ、先輩たちがその缶詰を開けて、その場の全員が気絶するほどの悪臭を放った。その場に無理やり同席させられ、いつか自分も仕返ししてやろうと思っていて、遂にその日がやってきたのだ。

 

「しつこい男は嫌いだし、シュールストレミングもアナタも味わってね」

 上機嫌な声で、部長は呟いた。


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