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  作者: 雫喰 B
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4.


 そこに現れたのは一人の従者を連れた美しい少女だった。


 夜兵衛を見てクスリと笑う。

 その姿を目にした途端、夜兵衛の頭が割れんばかりに激しく痛んだ。

「っぐぁッ!!」

 堪らず頭を抱えて蹲る。


「桐姫!」

 異形の男が少女の方を振り返り名を呼んだ。


柳羽(やぎゅう)様、如何に貴方様と(いえど)も妾の玩具を取り上げるような真似をしないでいただきたいですわ。」

 扇子を広げて口元を隠すようにしてコロコロと笑う。


 柳羽と呼ばれた異形の男は苦虫をかみ潰したように顔を顰めた。

「戯れが過ぎるぞ。以前の其方ならこのような事せなんだではないか。」


 閉じた扇を握り締め、キッと睨み付け

「貴方様の方こそ、そこな女子(おなご)に岡惚れでもなさったか。それ程までに肩入れなさるとは…。」


「戯れ言を…。」

 軽く首を横に振りながら呆れたように溜息を吐いた。


 桐姫は怒りに顔を朱に染め、わなわな震えながらも柳羽の目を睨み付けた。

 だが気不味さから目を逸らした桐姫は、その視線の先にいたお富を見るや否や扇子で打ち付けた。


「な?!桐姫!!」

 咎めるような柳羽の声が聞こえたが、構わずお富を打ち据える。


 柳羽がそれを止めようと一歩踏み出したのを見て、不味いと思ったのか従者が主である桐姫とお富の間に割って入り止めた。


「は、離せ…離し遣れ…!」

「姫様、これ以上はなりませぬ。」


「大丈夫か?」

 打ち据えられ、蹲るお富を柳羽が抱き起こす。


 肩で荒い息をしながらお富を睨めつけ

「柳羽様にどのような媚を売ったのじゃ!たかが鳥の分際でようも…!!」


「止さぬか!!」

 柳羽に叱責され、血が滲むほど下唇を噛んだ桐姫の目から涙が零れた。


「もうこの様な馬鹿な戯れは止めよ。そして、この二人の因縁も今生で終わらせてやれ。」


 諭すように言う柳羽に

「…何故にございますか?…何故、柳花(りょうか)(お富)を気にかけられるのです?」

 悲しげに問う。


「其方にこれ以上非道な行いをして欲しくないだけだ。そもそも何故それ程までに柳花を厭うのだ?」

「……。」

「また黙りか…。」


 何故この夫婦に対して桐姫が非道な振る舞いをするのか柳羽にはわからない。

 当然、柳花に聞いても思い当たる事などなかった。

 故にこれまでにも何度も同じ遣り取りが交わされたが、頑として桐姫は黙して語らず今生まできてしまった。


 柳羽は、如何した物か思案に暮れる。


 夜兵衛が柳花を家に招き入れ、柳羽達の棲む世界と此方の世界(時の流れの速さが違う二つの世界)を繋げた事によって、時は止まったままである。


 桐姫に視線を戻すも、此方を見たままだった。



~~~~~~~



 Side:桐姫(回想)


 桐姫と柳羽は樹木の精である。

 元々は同じ山に棲んでいた。


 自分よりも長く生きていた柳羽の傍で庇護されながら霊力を宿すほどに成長した。


 そして、桐姫は恋をする。

 相手は他でもない柳羽である。

 幼い頃から守られ、優しくされる度に心は傾いていく。

 だが、想いを告げられぬまま月日は流れ、一人の商人がその山の持ち主に連れられて自分達のもとに来た事によりその運命が大きく変わる。


 あろう事か商人が、見事な桐の木だから娘が嫁入りする時に箪笥にするからと、自分の屋敷があるこの町に運ばせる為に桐姫が宿る桐の木を切るように言ったのだ。


 木を切り倒される時、桐姫は泣き叫んで柳羽に助けを求めたが、彼にも如何する事もできなかった。


 そしてこの町に着いた時には瀕死の状態で、何とか若木に姿を変え、その商人の屋敷の庭に避難するのがやっとで、霊力が戻るのを待つしかなかった。


 ただ只管(ひたすら)、霊力が戻るのを眠り続けて待った。


 だが、霊力が戻ったところで柳羽から引き離され、如何すれば彼に再び会えるかわからず、長い年月泣き暮らした。


 けれどそんなある日、驚くべき事に柳羽が桐姫の居所を探し当て、会いに来てくれて現在に至る。


 喜んだのも束の間、柳羽の傍を飛び回り戯れる燕が二羽。


 柳羽に会いたくとも以前のように会えず、苦しい恋心を持て余していた桐姫には、雌の燕がこれ見よがしに飛び回っているようにしか見えなかった。


「あな憎らしや。」 


 いつも憎々しげにその燕の雌を見ていた。

 そして、その番の燕が商人の屋敷の軒下に巣を作っているのを見つけた。

 やがて雄の燕が商人の末娘に熱い視線を送っているのに気付き、ちょっとした意趣返しのつもりで雄燕に声を掛ける。


「人間の男に変化させてあげようか。」


 初めは遠慮していた雄燕だったが、やはりあの人間の娘への想いからか「是非ともお願いします。」と言ってきた。


 それを聞いた桐姫は、彼に気付かれぬようにほくそ笑んだ。

 これであの忌々しい雌燕に思い知らせてやれると。


 


 

 






お読みいただきありがとうございます。

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