柳の下に佇む女
ここは鵲 忠部ってお殿様が治めている鵲藩の鷗城がある城下町。
小糸川という川が町中を流れ、その川縁を一人の男が鼻歌交じりに歩いている。
俺ぁ夜兵衛。この先にある路地を入った所にある“お化け長屋”って呼ばれている長屋に住んでいる。
え?
何で“お化け長屋”なんて名前なんだって?
そりゃあ、今にもお化けが出そうなほどボロいって事さ。
そんな事なんざ、どうだっていいじゃねぇか。
……ッと!?
今にも夕立が来そうな蒸し暑い夏の日、川縁の柳の木の下に佇む一人の女を見かけた。
小股の切れ上がったいい女だねぇ。男と待ち合わせか?
チキショウ!
羨ましい限りだぜ!
一度でいいから俺もあんな女とお近づきになってみてぇもんだぜ。
そんな風に思いながら見ていた所為か、その女と目が合ったような気がした。
え?!
今、俺を見て艶っぽく誘うように笑ったんじゃねぇか?
いやいや、そんなこたぁねぇか。
見た目でわかるぐれぇ、金なんざ持ってねぇし、色男でもねぇしな。
けど、いい女だぜ。
ま、俺には一生縁がねぇだろうがな。
とっとと、#帰__けぇ__#るか。
~~~~~
ところがその日を境に、毎日夕方頃にそこを通ると、その女が立っていて俺を見ると軽く首を傾けて艶っぽい笑みを見せるんだ。
勘違いだと思いながらも、期待しちまわぁな。
そして、とうとう夜兵衛は覚悟を決め、思い切って声を掛けた。
「よぉ、姐さん。男と待ち合わせかい?」
上目遣いに俺の顔を見て微笑む女に、俺ぁ惚れた。惚れちまったんだよ。
「やっと声を掛けてくれた。あんまり釣れないから、脈が無いんだと諦め掛けてたんだから。」
「そいつぁ……。」
嬉しい事言ってくれるじゃねぇか!
チキショウめ!
と、女が俺の左肩に両手を置き、その上に頬を乗せて撓垂れ掛かってくる。
ち、近い!近い!近すぎるって!
俺の心臓が、これでもかってぐれぇ早鐘を打ちやがる。
え……ほ、本当に?
本当の本当に、俺に“ほの字”だってぇのかい?
もう、俺は本気にしまった。
が……確かめた方がいいよな?
「またまたそんな事言って。どうせ……アレだろ?美人局。金なんざ持ってねぇぜ。」
すると、上目遣いに俺を見て、着物の袖で口元を押さえて吹き出した。
「ぷッ。やだもう。そんなの一目見ればわかるわよ。」
そして、くすくす笑う。
か、可愛いじゃねぇか。
っていう事は、本気って事か。
なんだかムズムズしてきやがった。
まだ暴れるには早いぜ#俺__・__#。
「もう、本気にしちまったぜ。今更、違うなんて野暮な事は言いっこ無しだ。」
「なら、あんたの家に連れてってよ。本気だって#わからせて__・__#あげるから。」
流し目で言うから、期待しちまうぜ。
「もう、後戻りは出来ねぇがいいのか?」
「ここまで言ってる女に恥かかせる気?」
耳に息を吹きかけるみたいに言うから、頭がクラクラしそうだ。
女の肩を抱いて俺の家まで並んで歩いた。
この時の俺は、浮かれて鼻歌でも歌いたい気分だった。
次話に続きます。
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お読み頂きありがとうございました。
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