62.ワンアース運営
――レイドボスが現れた。
このことだけを見ればシステムで組んだ仕様なので問題はない。
しかし、出現場所が大問題となっていた。
「誰だ! フィールドの最奥ではなく、その手前にレイドボス出現位置を設定したのは!」
怒声を響かせているのはワンアース運営の室長だった。
「い、今、接続履歴を遡っています!」
「急げよ! 設定した奴は、減給程度では済まないからな!」
誰が犯人かわからない以上、室長はフロアにいる全員に聞こえるよう大声をあげる。
自分が犯人ではないとわかっている者も、室長の迫力に押されてその表情を青くさせていた。
「し、室長!」
「今度はなんだ!」
「レイドボスに接触したユーザーがいます!」
「な、なんだと! もう接触したのか!!」
ユーザーが接触したという報告を受けて、室長は人目もはばからず舌打ちをした。
「ちっ! このままそいつがレイドボスを倒すようなことがあったら、今回のギルド対抗イベントは終わったようなものだぞ!」
レイドボスを倒したギルドがギルド対抗イベントの1位になる。
ポイント設定的にも間違いなくその通りなのだが、そうしたのにも理由があった。
フィールド最奥――単にフィールドの一番端というわけではなく、とある洞窟の中を進んだ専用のダンジョン、そこの最奥に現れるはずだったレイドボスを倒せるだけの実力を持ったギルドが1位になる、というものだ。
自ずと最奥でレイドボスを発見したギルドは実力者揃いであり、その時点でランキングでも上位に位置しているだろうと考えられていた。
しかし、レイドボスが出現した場所は最奥に続く洞窟の手前のフィールド上だ。
現在接触しているユーザーだけではなく、今後他のギルドが接触する可能性も少なくはない。
もしも下位ギルドが横取りする様な形でレイドボスを倒してしまえば、上位ギルドは怒り心頭となり、今後のギルド対抗イベントへの参加を見合わせる可能性も少なからず考えられる。
「ちくしょう! だから俺は嫌だったんだ! こんな無理やりねじ込んで、詳細をしっかり詰めれていないイベントをやるのはよ!」
今回のイベントは、室長が出張で外に出ている間に決定されていた。
彼への報告は一切なく、出張から戻ってくるや否や怒声を響かせていた。
「接触したユーザーは誰だ! 上位のギルドの奴か!」
もしも上位ギルドのギルドメンバーであればまだ許せる。
そのまま倒してくれてもランキングが大きく変動することはないからだ。
しかし、そのユーザーの名前を聞いた途端、室長の表情からは笑みが消えてしまう。
「接触したユーザーは――ゴールドです!」
「……なんだと?」
この瞬間、室長は全てを理解してしまった。
(……あ、あいつらああああぁぁっ! 無理やりこんなイベントをねじ込んだだけじゃなく、レイドボスの出現位置にまで手を出していたのかよ!)
言葉にこそ出さなかったが、室長の表情を見た社員の一人はびくりと体を震わせてそそくさとその場をあとにしていた。
「おい! 天童寺財閥から出向してきた奴らはいるか!」
室長は怒声でそう呼び掛けたが、誰からも返事はない。
そのせいでさらに苛立ち、こめかみに青筋を立てていたのだが、恐る恐るといった感じで接触を報告してきた社員が口を開いた。
「……あ、あの、室長?」
「なんだ!」
「ひいっ! ……じ、実は、天童寺財閥から出向してきた社員は、全員有給を貰っています」
「…………なんだとぉ?」
「な、なんでも! 本日は天童寺財閥社長のお誕生日だということで! 全社員が誕生日パーティへ出席しているとのことです!」
報告を受けた室長の表情が徐々に無表情となり、それが逆に社員たちへ恐怖を与えていた。
「……おい」
「は、はい!」
「レイドボスの近くには他に誰がいるんだ?」
「ほ、他のユーザー、ですか?」
「いいから調べろ! 今すぐにだ!」
「か、かしこまりました!」
室長の目の前からすぐに離れたかったその社員は元気よく返事をすると、早足で自分のデスクへと戻っていった。
(絶対に天童寺の奴らの思い通りにはさせんぞ! このままではワンアースが、天童寺財閥の私物と化してしまう!)
怒りの中にも冷静さを保っていた室長は、頭の中でどうやってギルド対抗イベントを成功へ導こうかと考え始めていた。
そして、この成功が今後のワンアースを大きく左右することになるだろうとも考えていたのだった。
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