11.プレイヤーキラー
ゴブリンの集落を出てしばらくすると、俺は前から現れたユーザーに声を掛けられた。
「あー、もしかして新人の方ですか?」
「……そうですけど、あなたは?」
あんまり他のユーザーとは関わりたくないんだけどなぁ。何を話せばいいんだよ。
なるべくフレンドリーに答えようと平静を装っているが、俺の表情は引きつっている。
「あぁ、すみません。私は新人ユーザーへレベリングを効率的にできる狩り場を案内しているコープスというものです」
「……狩り場の案内、ですか?」
「はい! 最近は新人ユーザーも少なくなってきていて、ワンアースに定着してもらいたくて活動しているんですよ」
うおっ! 俺が興味を持ったと勘違いしたのか、コープスと名乗ったユーザーが急に詰め寄ってきた。
とはいえ……怪しくないか? 普通なら狩り場を独占してレベリングをするのが定石だろう。
「そうなんですか。……そういうことでしたらぜひ教えてくれませんか?」
「もちろんです! では行きましょう、こちらですよ!」
しかし、ゴブリンの集落以外でレベリングできる狩り場が本当にあるならありがたいと思い、俺はコープスについていくことにした。
まあ、それ以外にも確かめたいことがあったんだが……なんだよ、後者じゃないか。
俺たちが歩き出したのに合わせて、茂みの方が小さく揺れた。
……なるほどねぇ。こいつら、あれかぁ。とりあえず……よし、録画開始。
茂みに隠れているユーザーがいることに気づいたのだが、俺はそんな素振りを見せずに歩いていく。
「この先ですよ。あちらのゴブリンが見えますか?」
「あっ、はい」
すると、コープスの目的地に到着したのか前方を指差してきた。
……ってかさぁ、俺としてはさっきいた場所の近くに戻ってきただけなんですけどねぇ。
「この近くにゴブリンの集落がありまして、傷つけて逃がしてやれば仲間を呼んできます。そいつらを一匹ずつ倒すんですよ」
効率悪いなぁ。集落を壊滅させた方が効率いいだろうが。まあ、すでにコープスが口にしている集落は壊滅済みなんだけど。
「へぇー、そうなんですねぇー」
「それでは行ってきてください」
「わかりました」
俺は従うふりをして隼の短剣を抜き、ゴブリンへ近づいていく。
横目でコープスを見ていたのだが、こいつは隼の短剣に目をやると、ニヤリと笑いやがった。
「そうそう、ゆっくりと。ゴブリンはまだ気づいていませんよ」
ゴブリンは気づいていないし、お前も俺に気づいていないけどな。
おっと、この野郎。腰の剣を抜きやがったな。ということは、敵対意思ありと判断していいんだよな?
「バレバレなんだよ!」
「んなあっ!? ぐはっ!!」
俺は素早く振り返ると瞬歩を使い間合いを詰め、隼の短剣でコープスの胸を一突き。
「……こ、こいつ、気づいていやがったのか!」
そんな捨て台詞を残しながら、コープスの体は光を伴いながら消滅すると、代わりに所持していたアイテムが入った宝箱がその場に転がった。
「コープスさん!」
「て、てめえっ!」
「ぶっ殺してやる!」
「ご、ご主人様! どうするにゃああああぁぁっ!」
コープスがやられてからとか、遅くないか? このタイミングでようやく隠れていたプレイヤーが茂みから姿を現した。
ニャーチは慌てているようだが、俺からすると全く問題ない人数だな。
「1……2……3……なんだ、5人か。なんだ、PvPが趣味なのか? それともPK好きか? もしも後者だったら、PK集団の割に少ないんだよなぁ。俺を殺すつもりなら、倍以上を揃える必要があるぞ?」
まあ、わかり切った質問だけどな。
対人戦が好きならこんなところで一人を囲むようなことはせず、アリーナでPvPを楽しめばいいのだから。
「こいつ、ぶっ殺すぞ!」
「「「「おぉっ!!」」」」
リーダー格っぽいユーザーが声をあげると、全員が一斉に襲い掛かってきた。
「……はぁ。こいつら、レベルいくつだ――よ!」
「ぐはっ!」
「ほいっと!」
「あべっ!」
「ふっ! はあっ!」
「げびゃっ!」
首、首、胸、首と、俺は弱点になる部分へ隼の短剣を振り抜き、あっという間に四人を倒した。
すると、残るリーダー格のユーザーが恐怖に顔を染めながら後退り始める。
「ま、待て! すまなかった、俺はもう何もしな――」
「今さらだな!」
「があっ!」
全員を一撃で仕留めると、コープスの分と合わせて六個の宝箱がその場に転がった。
「はわわわわっ! プレイヤーキラー集団をあっという間に倒しちゃったにゃ! ご主人様は本当にすごいのにゃ!!」
「これくらいなら簡単だよ。しかし、コープスが言っていたみたいに、確かにいいレベリングになったよ。今のでレベル7になったしな」
レベル5から二つ上がってレベル7だ。まあまあ強い奴らだったのか?
……まあ、どうでもいいか。この場で一番重要なのは、転がっているアイテムだからな!
「おぉーっ! まあまあいい装備を持ってるじゃないか!」
俺はアイテムを吟味しながら、使える装備があることに大満足。
始まりの村で装備を揃えるとしても、売られているものだと一般級のものしかないから、こいつらが使っていた希少級装備はありがたい。
そのまま身につけていくと、PK集団だからなのかはわからないが、俺の暗殺者スタイルにあった暗い雰囲気の装いになっていた。
「格好いいじゃないか! こんな装備をつけている奴いたかな? ……まあ、いっか。もう俺のものだしな。しかし、初めて数時間で全身希少級以上とは、さすがの俺も驚きだわ」
「か、格好いいのにゃ! さすがは僕のご主人様なのにゃ! 一生ついていくのにゃ!」
「ありがとな、ニャーチ。……よし、録画終了っと! それじゃあ、今度こそ戻ろうぜ!」
俺はニャーチの褒め言葉に満足気な表情を浮かべて、今度こそ始まりの村に戻っていった。
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