縮まる距離
クイークスはルナへの態度を日に日に酷くさせていった。水の入ったバケツを頭にひっくり返したりものを盗んだり。全て「婚約者に近寄りすぎている。牽制だ」という理由だと言う。私は自分の立場が悪くならないように毎回ルナとクイークスの間に立っている。
「クイークス様。クイークス様はあのような人と結婚して幸せになれるのですか?能力で言えば私だってフィオリーナ様と同じくらいです。身分を追い求めないならば平民でも良いので本当に愛する人と結婚するべきですよ」
「ルナ嬢……」
ちょっと性格は悪かったがクイークスは優秀だったのに私と入れ替わってから行動が変だ。入れ替わりが解消された後の自分の立場に不安になって日々ストレスを感じながら生活している。それに、今までやってこなかった公務を皇太子としてやっているので睡眠時間も減った。もう懲り懲りだ。
「貴女は優しいですね。私には貴女のような暖かい人が良い。貴女と一緒にずっといたい」
目頭を押さえながら言う。ルナが頬を赤らめてもごもごと口を動かした。
「ん?」
よく聞こえなかったので聞き直すとルナはさっと顔を背け「何でもありません」と呟く。
私は何だかルナを可愛く感じてきて後ろから抱きしめた。令嬢同士のスキンシップのつもりだった。
ルナの体から熱が発せられて「クイークス様!?」と慌てた声がした。
「ちょっと、このままで」
ストレス緩和に、ルナの柔らかい体はちょうどよかった。クイークスを抱きしめてもよかったが体が自分のものなので変な感覚になる。抱きしめられる人はルナしかいなかったのだ。
それからルナとの距離が急激に縮まり、ずっと一緒に行動するようになった。たまに目を離した好きにクイークスがルナをいじめていたがその分結束力は強まった。
そうして王宮で公務に追われていた休日の事。
従者が走って部屋に、クイークスの執務室に入ってきた。
「殿下の御学友の、ルナ嬢が強姦に襲われてさらわれているとの話が……」
「それは!?」
椅子から立ち上がって勢いよく椅子を倒し、話の続きを促す。
「どうも、フィオリーナ様の差し金との噂があって……」
私は唇に歯を食い込ませて唸った。
クイークスは、何をしたいんだ?
もうすぐで完結です!




