三角関係の噂
「ちょっと、お待ちになって」
クイークスはあの少女に噛み付いていた。だから、私はそんなこと言いませんって。
「殿下になれなれしく触れて良いの、私だけだから」
だから!
私そんなこと言わないってば!
「……フィオリーナが申し訳ないね。私には普通に話しかけてもらって良いから。困ったことがあれば何でも相談して」
「殿下!」
物凄く不機嫌な顔で私を睨んだ。自分に睨まれることってそうそうないんじゃないかな。
「私のものに手を出して、無事でいられると思うな」
そういうクイークスに向けてピンクの少女、ルカは少し怯んだものの、決心したように顔を険しくさせた。
「私のような庶民が口を出すようなことではないと存じておりますが、フィオリーナ様の、クイークス様に向ける好意は重過ぎますし、束縛しすぎです」
実際にはクイークスがフィオリーナに言っているのよ、と私は心の中で叫んだ。そして、いつかクイークスがルカを不敬罪でしょっ引かないか心配になる。まさか、ね。
「言っておくけれども、それを嫌に思う人もいれば嬉しく思う人もいる。それを忘れないで」
ツン、と顔を逸らして私の腕を強く引っ張るクイークス。やめて。私の評価が地に落ちてしまうではないか。私の真似をするとか言っておきながら全然していないし。もしかして、私に対する宣戦布告?全然似ていないぞ、クイークスの真似に励め、という。
その時、ピカーン、と私の頭が冴え渡った。
私の評判を落として、クイークスの妻に相応しくないと世間に知らしめ、自分の好みの人と結婚するための策略?勝手に婚約破棄できないからそれなら私の行動に問題ありという噂を流せ、という知能戦?
なるほど。そういう事か?という目をすればクイークスはご機嫌そうに頷いた。そうだ、と言いたげに。
腕を掴まれたまま、私はルナに向かってとろける笑みを浮かべて言った。
「私の心配をしてくれてありがとう。でも、私は別に婚約者の行動に不満は持っていないし大丈夫だよ。ね?だから、一緒に教室に行こうか」
朝、馬車から降りた途端にこんな会話をしていたのだ。
一週間も続けて。おんなじような会話。付き合わされる私の身にもなってくれ。
そうして、学院内は『皇太子を巡って恋のバトル!?婚約者フィオリーナ嬢とルナ嬢の決着やいかに!そして、おしとやかだったフィオリーナ嬢の豹変の真相とは!?』という話で半年持ちきりだったそうな。
だから、付き合わされる私の身になってくれ。




