出会いイベント
学院につき、馬車から真っ先に降りたのはクイークスの方だった。不敵な笑みを浮かべて私に手を差し出す。
「変な気持ちだな。自分に自分で手を差し出すなんて」
取れよ、と手をひらひらさせる私の姿にちょっと変な心持ちになる。何故、中身が替わっただけでこんなに自分が魅力的に見えるのか。
むすりと顔を顰めるとクイークスはため息をついて手を下ろした。
「とにかく降りろ、自分の姿がそんなに不安そうな雰囲気を醸し出していると気分が悪い」
「すみません」
「普段の私のように振る舞え。私も普段のフィオリーナを真似て努力するから」
「え、高飛車に?」
「しれっと失礼な事を言うな」
「すみません」
馬車から身軽に降り立ち、目を目の前に向けた。鉄柵に、豪奢な噴水。私はため息を一つついて不敵に笑って見せた。
「ほら、行くぞ」
クイークスの口調を慎重に真似れば私の格好をしたクイークスは一瞬ニヤリと笑って「はい」と頷いた。
腕を差し出してクイークスを導くーー
ドンッ
「きゃ」
ピンク色の髪にピンク色の瞳を持つ少女が私にぶつかってきた。そして、そのまま転んだ。外面の良いクイークスはこんな時ーー
「大丈夫ですか?」
こういう風に笑顔を向けて腕を差し出すだろうなあ、と思いそのまま行動をした。
側から見ればクイークスを放り出して身知らぬ少女を助けているように見える。
が、外面の良いクイークスは絶対にこうする。
「あ、ええ、あ、あ、あ、ありがとう、ごさいます」
その少女は顔を真っ赤にしてしどろもどろにそう感謝を伝えた。
「いいえ、目の前で女性が転んでいれば手を差し出す、それが紳士たるものですから」
こーんなキザなことまで言うだろうなあ。
「ちょっと。お待ちになって、殿下に馴れ馴れしくしないで頂戴」
そこに、クイークスが乱入。私、そんなこと言いませんよ!?
「ええと。すみません!」
そして、転んだ少女はそそくさと逃げていった。
「「そんなこと、言いませんよ?」」
私とクイークスの声が重なった。




