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黒忌み姫のお輿入れ  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第1章 お暇させていただけませんか?

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02

 今回の輿入れに関する行き違いを話し合うにあたって、リラクシオン国の要人が集まるまでに時間が少々かかるらしい。

 王城に招き入れられたオリヴィアは、話し合いがはじまる前のひととき丁重なもてなしをうけていた。


(ああ、美味しい)


 顔が見えないよう黒いベールを少しだけ持ちあげ、美味しいお茶と甘いお菓子に舌鼓を打ち、しみじみ喜びを噛みしめる。


 フィローンを出立してから二ヶ月。チュリブルム山脈越えは厳しく、粗末な馬車はがたがたと容赦なく揺れてオリヴィアの体力をガリガリ削った。

 その間、同行していたのは騎士や兵士など男性ばかりで、女性の体力の無さを考慮してくれる者はいなかった。

 宿に泊まる時以外は、逃げられないようずっと馬車の中に閉じ込められていたから、食事に関しても硬い黒パンや干し肉、ドライフルーツ等の保存の利くものばかり。水分は水筒に入った水で、父王が旅費をケチったのか、宿でもほぼ白湯ばかりを飲まされていた。

 こうして温かで薫り高いお茶を飲むのは本当に久しぶりだ。


(前世の世界なら、お茶もお菓子も簡単に手に入ったのにね)


 ちょっと捜せばすぐにコンビニが見つかった。

 紅茶に緑茶、珈琲にジュース、そして炭酸飲料。スナック菓子に美味しいお弁当。庶民でも安価な甘いお菓子を口にすることができた。

 便利で贅沢な、懐かしい世界。



     ☆☆☆



 異世界に転生したことにオリヴィアが気づいたのは、七歳の時だった。

 というか、オリヴィアとして生きていた少女の心が絶望の果てに死んだことで、今のオリヴィアが目覚めたのだと思う。


 目覚めてすぐに目に入ったのは、死んでからずいぶんと時間が経った女性の遺体。


「ミ、ミイラ⁉」


 慌てて逃げようと立ち上がろうとして、身体の力が入らないことに気づいた。

 同時に、自分の身体がまだ幼い子供であることにも気づかされた。


「なにこれ? どういうこと?」


 粗末な黒いワンピースを着た少女の身体は、ガリガリに痩せ細り立ち上がる力すらない。

 生きているのが不思議なぐらいだ。


 なにが起きたのかと焦っていたら、それに答えるようにオリヴィアの記憶が流れ込んできた。


 黒忌み姫として産まれ、虐げられて生きてきた哀れな少女の記憶。

 産褥で死んだ母に頼まれたからと、ずっと側で支えてくれた乳母の死。黒忌み姫と呼ばれて忌み嫌われている自分を守ってくれる者はもうこの世にはひとりもいない。

 この先、寿命で天に召されるまで、ずっとひとりきりで生きていかなければならないのか……。


 七年しか生きていない少女の心は、その過酷な運命と孤独に、とてもじゃないが耐えられなかったようだ。


「だからって、いきなりバトンタッチされても困るんですけど……」


 少女の記憶を受け取ったことで状況を認識したオリヴィアは頭を抱えた。


 だが、それでも生きていかなくてはならない。


 というか、むしろオリヴィアは生きたかった。

 無残に殺されて終わった、前世の無念を晴らすためにも……。



 不思議なことに、前世の自分の名前は覚えていない。

 記憶もところどころおぼろげだが、死に至った原因と経過だけはしっかり覚えている。


 前世のオリヴィアは幼くして両親を失い、親戚の家に引き取られて育った。親戚は両親が残した遺産を横領し、彼女を使用人扱いして虐げていたようだ。

 だが彼女は決して負けてはいなかった。

 高校を卒業すると同時に弁護士に相談して、両親の遺産を取り戻すべく訴訟を起こしたのだ。訴訟に勝利した彼女は、取り戻したお金で大学に行こうと心を弾ませていた。


 ――私の人生これからよ。絶対に幸せになってやる。


 そこに現れたのが、彼女を使用人扱いして散々セクハラしていた従兄弟だ。

 裁判の際、従兄弟のセクハラに関しても公にしたことで、逆玉予定の婚約が破談になったらしい。

 それを逆恨みした従兄弟は、彼女にナイフを突き立てた。

 そして、オリヴィアの前世の人生は終わったのだ。



 はじまる前に終わった前世の無念の記憶は、今生のオリヴィアの弱り切った身体に生きる力を与えた。


「これからよ。もう一度人生をやり直せるんだから、良かったと思わなきゃ。ボーナスステージにしては、ちょっと過酷すぎるけど……」


 そして乳母が死んでからほとんど食べ物を口にしていない少女の痩せ細った身体を回復させるために、オリヴィアは這って食べ物を捜しはじめたのだ。



     ☆☆☆



 あれから十年、オリヴィアは黒忌み姫と呼ばれ虐げられても、したたかに生き抜いてきた。


 いずれフィローン王家から自由になるために、こっそり準備も整えていたのだ。

 今回の輿入れで、それもすべておじゃんになってしまったが。


 それでも、なにがあろうと負けるつもりはない。


(今度こそ、幸せになってみせる)


 望まぬ輿入れだったが、考えようによってはこれは好機だ。

 忌み子と後ろ指をさされるフィローンから離れることができたのだから。


(あの頃と同じだわ)


 前世で親戚に勝訴し、これで人生をやり直せると希望に満ちていたあの頃と……。


 フィローン王家の古い因習から解き放たれた今なら、新しくまっさらな人生をはじめることができるかもしれない。


(とりあえず、この婚姻をチャラにすべきよね)


 強引に輿入れして、イケメンの王様とうっかりどうにかなってしまったりしたら、この国の令嬢達から本気で呪われそうだ。

 すでに産まれながらの呪いを抱えている身としては、これ以上の呪いはいらない。ごちそうさまだ。

 早々にこの結婚話を白紙にして、密かに市井に紛れて平民として生きる許可を王様からもぎ取りたいところだ。


(少し惜しいけど……)


 前世でも今世でも、恋愛とは縁のない人生を送ってきた。

 あんなイケメンとどうにかなれたらなんて、考えるだけで心が浮き立つ。


(自由にさえなれたら、私にだって恋人ぐらいできるわ)


 さすがにあの王様レベルのイケメンは無理だろうけど……。


 とりあえずできることから頑張ろう。

 オリヴィアは、ぐびりとお茶を飲んで意気込んだ。

読んでいただき本当にありがとうございます。


日々コロナ包囲網が狭まってきているのを感じてます。

出口の見えない戦いはつらいものがありますね。

それでも、この状況もいつかは終わります。

その日が来た時に後悔しないよう、感染予防につとめていくつもりです。


自分の感染を予防するのではなく、自分から人への感染を予防する。


お年寄りや病人を守る為にも、もしかしたら自分も保菌者かもしれないという心構えで日々を過ごそうと思ってます。


この窮屈な日々の中、ほんの少しでも楽しみに思ってもらえるよう、すっきりほっこりできるハッピーエンド目指して頑張ります。←エイプリルフールネタではありませんw



ブクマやポイント等、励みになりますのでよろしくお願いします。

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