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黒忌み姫のお輿入れ  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第3章 私なら慣れているので平気です

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04

「もう大丈夫です。この部屋に仕掛けられた魔道具は全て破壊しました」


 デニーがそう言うと同時に、「姫様、本当に申し訳ありませんでした!」と、フィリダが深く頭を下げた。


「私が魔道具を仕掛けました。ですが寝室に仕掛けた魔道具は、目の役割を果たせないよう目隠しを施しておりました。姫様の寝室でのお姿は誰にも見られていません」

「確かに。寝室の魔道具の前には花瓶が置いてありました。お声は聞かれたでしょうが、お姿は見られてはいないとおもわれます」


 デニーの言葉に、オリヴィアはほっとした。


「そう。……フィリダ、ありがとう。私を気遣ってくれたのね?」

「いいえ。いいえ、姫様。お礼を言われるようなことじゃありません。私は魔道具だけじゃなく、姫様に毒まで……」

「フィリダ!」


 それ以上言っては駄目、と腕を掴んで止めようとしたのだが、もう手遅れだった。

 フィリダの発言を聞いたフェルディナンドは、「毒? どういうことだ」と鋭い眼でフィリダを睨みつける。


(うう、こんな時でも格好いい……けど、怖い)


 直接睨まれているフィリダはもっと怖いだろう。

 オリヴィアは励ますように、ぎゅっと両手でフィリダの手を握った。


「説明しろ」

「……は、はい。私は王宮の侍女として庶民枠で雇われていますが、実際はセラダ男爵の庶子なんです」

「セラダ男爵? デニー、知ってるか?」

「は。クラレンス侯爵の派閥です。代々、騎士の家系ですね」


 フィリダの母は平民の売り子だった。セラダ男爵に見初められて小さな家を与えられ、そこでフィリダと弟のシモンは産まれたのだ。

 だが、去年の春に母が死に、ふたりは男爵家に引き取られた。

 そこからは、ありがちな庶子イジメに苦しむ日々がはじまったのだそうだ。


「それでも私は、すぐに王城へ働きに出されたのでまだマシだったのです。庶子であることを隠しての平民枠でしたが、先輩達は皆優しい方達ばかりでしたし……。ですが弟は……」


 面会に行くたび、八歳になるフィリダの弟は痩せていき、目に見えて傷も増えていった。このままでは殺されてしまうのではないかと不安に駆られるようになった頃、王城で父親からこっそり話し掛けられたのだそうだ。


「私を姫様の……フィローンの二の姫の侍女にするから、これを部屋に仕掛けろと魔道具を渡されました。そして、あのハチミツも……」

「ハチミツ?」

「ど、毒が入っていると教えられました」

「それをオリヴィア姫に飲ませようとしたのか」

「……はい」

「フェルディナンド様、待ってください。――ねえ、フィリダ。そうしなければ、弟に危害を加えるって脅されてたんでしょう?」


 オリヴィアがフィリダの顔を覗き込むと、そばかすが浮いた頬が涙で濡れていた。


「父から、お、弟を殺すって……言われて……。わたし……私はどうなっても構いません。ちゃんと罰を受けます。ですが、どうか……どうか陛下、弟を助けてください!」


 フィリダは、フェルディナンドに深く頭を下げた。


(父親が息子を殺すだなんて……)


 前世の世界では大罪だが、派閥や家督争いがあるこの世界の貴族家では悲しいことにままあることなのだろう。


「フェルディナンド様、どうかフィリダに御慈悲を! 私は彼女をなんとか助けたくて、今まで毒を飲むふりをしつづけてきたのです」


 実際にはぺろっと美味しくいただいたのだが、さすがにそれは言えない。

 そこら辺は誤魔化しつつ、フィリダの様子から誰かが監視していることに気づいて、彼女と一緒に演技をし続けてきたことにした。


「彼女自身に私に対する害意はありません。むしろ、見張られている中でも精一杯仕えてくれました。だから私も彼女の行動を見て見ぬふりし続けてきたのです」

「だが、毒を飲まされていたのだろう?」

「最初だけです。幸いなことに、すでに慣らしてある毒だったので影響はありませんでした。二度目からは、フィリダと協力して飲んだふりをして誤魔化してきました」

「え、でも……っ」


 フィリダが怪訝そうになにか言いかけたが、握った手にぎゅううっと強く力を入れて黙らせた。


「そうか……。あなたがどうしてもその侍女を助けたいと望むのならば、そこは考慮しよう」

「フェルディナンド様、ありがとうございます」


(ああ、よかった。懐の深い男って素敵)


 オリヴィアは満面の笑みでフェルディナンドに感謝した。


 喜びに上気した頬がほんのり色づき、さっきまで緊張のあまり白くなっていた唇に血の色が戻る。

 ふうわりと花が開いたようなその微笑みに、フェルディナンドは一瞬見とれた。


「ああ、うん。安全が一番だが、あなたの心の平安もできる限り守るつもりだ。――ところで、さっき毒を慣らしていると言っていたが、昨日のクラレンス侯爵邸でのお茶会では異変はなかったか?」

「……ありました。私にだけ出された菓子からジャスミンに似た香りがしました」


 オリヴィアが正直に言うと、フェルディナンドとデニーがぎょっとしたのがわかった。


「ミーロスの花毒か!」

「それを食べたのですか?」

「はい。フィローンにいた頃に香りを嗅いだことがありましたし、それがどういう風に効く毒なのかも知っていたので、王城に戻ってから全て吐き戻しました」


(そういうことにしておこう)


 実際にそれがミーロスの花毒に対するただひとつの対処法だ。


「そんな……。全然気づきませんでした」

「フィリダには気づかれないようにしていたのよ。これ以上、あなたを悩ませたくなかったから。――ですが、今は後悔しています」


 フィリダに優しく微笑みかけた後で、オリヴィアはフェルディナンドに視線を向けた。


「フェルディナンド様にはご報告すべきでした。そうすれば、少なくとも三人の子供の犠牲は防げていたでしょうに……。私の怠慢で、リラクシオンの民を三人も損なってしまいました。本当に申し訳ありません」

「いや、それは違う。オリヴィア姫に報告されていたとしても、子供達は救えなかっただろう。――本当に怠慢だったのは私だ」


 フェルディナンドは辛そうに言葉を絞り出した。

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