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1ー2 異種族間野球

歩きながら話すと言っておきながらウィンダは黙ったまま街の中を進んでいた。星も杖で殴られるのが怖いので黙ったままついていった。


(それにしても……)


街中はそこそこの人通りがある。星の風体はやはり目を引くようで、すれ違いざまにすごい見てくる。みんな外国人のような見た目だ。アジア系の人種が見当たらない。


「星悠馬」


ウィンダから突然話しかけられた。


「なんだよ」


「あそこの角を曲がった辺りから世界が変わります。今のあなたはたたでさえ人目を引くのですからあまり取り乱さないように」


「はあ……」


やっと話したかと思えばそれだけだった。星としてはもっと聞きたいことが山程ある。ウィンダから伝えられたのは「現実世界の星悠馬は気を失っている」のと「元の世界に戻るには野球の試合に勝たないといけない」ということだけだ。


ウィンダは星を構う様子もなくそのまま先に進む。先には大通りがあるらしく人通りが多い。星は走って追いかけてそのまま角を曲がると大通りに入った。


「なんだよこれ……」


昨日の夜と同じ台詞を吐いた。大通りはさっきまでとは比較にならないほど賑わっていた。通りの両側には市場が出ているらしく店がずらりと並んでいる。だがそんなのは些細なことで問題なのは行き交う人々だった。


化け物だらけだった。


化け物という表現が適当なのかはわからない。とりあえずみんな二足歩行で歩いているし服を着ている。よく見れば普通の人間もいる。その隣で立っている人はやたら耳が長い。エルフとかいうやつか? 星もファンタジー映画で見たことがある。その後ろを通り過ぎていった人は頭が狼だった。服からのぞいている肌も動物の毛だった。


何かが背中からぶつかってきて星はよろめいた。振り返ってみるとそこにいたのは巨人だった。背の高さは2m以上ある。もしかしたら3m近くいくのではなかろうか。上半身裸で肌は赤茶色をしており禿げ頭の下にはいかにも醜悪で牙を覗かせた顔がついている。声を失っていた星もこれには叫び声を


ぼかっ


本日三発目の痛みだった。星が頭を押さえて悶絶しているとウィンダが襟首を掴んで引っ張っていく。


「すいません、この人田舎から出てきたばかりで人ごみに慣れていないんです」


「ああ、こっちもすまないね、小さくて見えなかったよ」


巨人は軽く謝罪するとなんでもないように去っていった。物言いこそ失礼な気がしたが悪気はないようだ。


「い、今のは、な、なに」


「なにって、どうみてもオーク種の男性ですよ。見た目は怖いけど7種族の中で最も温和ですし、ドワーフみたいにぶち切れられたり、エルフみたいに陰湿なことしてこないからから安心してください」


「いや、そういう話でなくて」


「いいから行きますよ、あなたがお寝坊さんなせいで試合が終わってしまいますよ」


ウィンダは肝心な質問には答えてくれずそのまま星をひきずっていった。





「ここは……」


大通りの終点で星がたどり着いたのは巨大な円形の建物だった。もっとも円形なのはあくまで見えてる部分だけである。古代ローマのコロッセオでも髣髴とさせる。不ぞろいなレンガを積み重ねた壁には甲子園みたいに蔓が張り巡らされている。そのせいか星はなんとなく球場だと思った。中には相当な人が入っているらしく間隔を空けて歓声が聞こえてくる。


「なあ」


「ええ、お察しのとおり球場です、中に入りましょうか」


特に入場券はないらしく、星とウィンダは一番近い入り口から階段を上っていく。中は普通の球場らしく外周に通路のスペースがあり、出店が出ている。店を出しているのは先ほどのオーク種と、耳の長い人々だった。ここまでくると普通の人間は一人も見当たらなかった。二人は寄り道せずそのまま通路を抜けて中に入っていった。


星は絶句した。


球場は熱気に包まれていた。出たところは外野席だった。周りにいるのはオーク種の応援団だった。全員が席から立ち上がって応援している。仕切り役らしい一人が前に躍り出てて叫んでいる。


「チャンステーマ!!!」


角笛の音色が響く。巨人たちがウェーブを作りながら合唱する様は壮観だった。


確かに状況はチャンスだった。星は外野席の階段を駆け下りて一番前の手すりから身を乗り出す。攻撃しているのはオークだった。2死でランナーは2、3塁。バックスクリーンには電光掲示板ではなく木彫りの板のスコアボードが掲げられており、六回の裏で12対13とかなりの乱打戦だった。数字はアラビア数字でわかるのだがチーム名はよくわからない。この世界の文字なのだろう。


内野も外野も極端に下がっていた。特に外野はフェンスギリギリまで下がっている。星にはエルフの左翼手を頭頂部から見下ろすことができた。これでは内野を抜かれた時にバックホームは間に合わない。


「星悠馬、このシフトどう思いますか?」


ウィンダが尋ねてきた。これがこの世界の野球の常識なのだろうか。星は思ったことをありのままに言ってみた。


「長打を警戒するにしても下がり過ぎじゃないか?」


「そう見えるかもしれないけど対オークのシフトとしてはこれは定石なんです、まあ見ててください」


エルフのピッチャーが振りかぶった。ランナーがいるのにセットポジションに構えないのも不思議だったが、ゆったりとしたモーションにも関わらずランナーはベースから半歩の位置で止まっており、リードを全然取っていなかった。


異世界のピッチャーが投げるボールがどんなものかと思って星は注視した。オーバースローのフォームからボールが投げられる。


ストライク


「あれ?」


星は間抜けな声を上げた。ボールが見えなかったのだ。審判は何事もなかったかのようにストライクを宣言しているし、キャッチャーは普通にボールを返球した。


「別に今のはあなたの腐った目がさらに腐ってボールが見切れなかった訳ではありません。エルフの幻惑魔術でボールが不可視状態になっていただけです」


「はあ?」


そうこうしている内にピッチャーが二球目を投げる。今度はボールの宣言。星には相変わらずボールは見えていない。


「別にボールが物理的に消えてるわけではありません。ただ魔術で視覚的に見えないだけです。魔力耐性のある種族には普通に効きませんが耐性の低いオークにはほとんど見えないでしょうね」


ウィンダが解説してくれるのだが途中から星は理解するのを放棄した。ピッチャーが三球目を投げるとこれまで全て見送っていたバッターが初めてバットを降った。木製バットが硬球を叩く音がした。


「当たった?」


「言ったでしょう、ボールが物理的に消えるわけではないし、オークでもバッターボックスから見ればうっすら見えるんです」


外野スタンドから大歓声が上がる。ただし星にボールは見えない。オークの応援団にも見えていないらしくみんなあさっての方向にボールを探している。よくわからない内に審判はホームランの動きをしていた。スタンドは更に

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