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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
一章【夢幻空疎の楽園聖都市】前篇
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僕の仕事は船頭だ。

船を操って、他の島から島へと人を乗せて移動する。いうなれば海のタクシーのようなもの。

これが、単純なようでちょいと難しい


そして売り上げ=給料という世界。


僕の船は屋根付きの小振りな船体に、ヨットのような帆が付いているような形で、4・5人位なら乗ることが出来る。

今日は風が少し強い分、操縦には気を付けなければ・・・・・・僕はそんなことを考えながら、港に向かった。


この島の港は、ドーナッツ状の島の内側にある。

島の広場を通り過ぎ、岩場にある木で作られた階段を降りていけば、扇状の漁港がそこにある。


まあ、この時間帯だと殆どの船は出航しているけどね。


現代日本のようにコンクリートが打たれた防波堤や、消波ブロックなどがある漁港というわけではない。

自然の岩場に、木の桟橋や浮き桟橋を組み立てて作られている。

都会というよりかは、すこし田舎の方にある漁港のような感じかな。


勿論漁港の周辺には、市場や食堂などがある。

島の人達主要の店もあるため、簡単に言えばここは簡易商店街に近いかもしれない。


ちなみに、ワンフラワー食堂のエビフライ定食がオススメだ。食べ応えのあるドデカいぷりっぷりのエビフライが6本も乗っているその様は、まさに爽快といえよう。


今は、時間が少し遅いためあまり人気は無いが、もう少し早ければ此処は賑やか────というよりは喧騒な港になる。







「おーうゲイルか、おはようさん!」


桟橋を歩いていると、ここの漁師の1人であるアネモスさんが話しかけてきた。カラカラと笑いながら、自慢の銛を手にしている。



豪快な喋りだがこの人 女 である。

生物学上の事も勿論産まれも、だ。


銛1本で大物しか狙わない、大物専門の漁師。

それがこの人である。



「アネモスさん、おはようございます。今日も良い天気ですね」

「ああ、こんだけ穏やかなら大物もいるだろうな。カンパチ、カジキいけるか」

「そのノリでキハダも是非!」

「いいよいいよ、任せておきな!」


カラカラと笑いながら、アネモスさんは僕の頭をグシャグシャと撫でた。ちょっと痛い。

僕ってなんだか、この人によく撫でられてるような気がする。


ちなみに2回目だが、こんな喋りでもれっきとした 女 である・・・・・・

しかも種族は、海のニンフと謳われているあのネレイデス。

ニンフって確か、美しい妖精や精霊って聞いたんだけど・・・こんな豪快な妖精もいるんだな・・・・・


先程言った、カルカロクレスを1人で仕留めた漁師っていうのもこの人の事だ。



ニンフって本来なら、長い髪の色白の美しい女性として描かれているのが、ほとんどなんだろうがこの人。栗色の髪は短く切り、ほどよく日焼けした健康的な小麦色の引き締まった身体をしている。


よくよく見れば体中には細かい傷がある。



「そいやぁ聞いたかい?カルカロクレスの群れの退治でハンターが派遣されるそうじゃないか」



そう言うと、槍のようにヒュンヒュンと銛を回して穂先のある方を肩に乗せる。

この人身長170ぐらいはあるんですが、それと同じぐらい長い銛ってそれもう槍じゃん。

ちなみに、主に投げて使うらしい。完璧に槍じゃん。



この人マジでニンフか?実は人間寄りの見た目をした魚人でした、とかそういう落ちはないよな?


「えーと、ハンター・・・ですか?」

「ああ、村長に聞いたが・・・今、西の崖下付近に居座っている鮫の退治で、ハンターを一人派遣するそうだ・・・・今日」

「・・・今日、ですか」

「今日、だな」


村長はタコの人魚種の老人である、らしい。

僕はあまり会ったことは無いし、そもそもまともに話したことすら無い。

基本的に自宅にいるらしく、そもそも交流するという、そういう機会もなかったわけだが。


この村長、時折この様に伝達漏れが発生する。


問いただそうとすると、ボケたふりをする強かなババア・・・と近所のオッサンが愚痴っていた。

昔はかなり名を馳せた高名な魔女だったらしく、王族の血を引いているとか、第一王女だったとかなんとかかんとか。


ちなみに近所のオッサンが愚痴ったその瞬間、突如宙に現れた金タライがオッサンの頭上に直撃した。

見事にクリーンヒットした。



「まあ、そういう事だから気を付けろよ」


そう言いながら、アネモスさんは漁へと出るために船へと向かった。

うーん、男の僕が言うのもなんだがカッコいい人である、ニンフだけど。



これで腰に旦那さんが張り付いていなければもっと完璧なんだけど・・・







ええはい、結婚してますよ?アネモスさん。


ピヨピヨと情けない声を出しながら腰に張り付いている旦那さん、シエルさんといいます。ハーピーの男性です。


ハーピーって女性だけじゃないんだ・・・


とても線が細い人で、女装しなくても女性とよく間違われます。

まるで着物の袖のように腕に翼が生えていて、肩甲骨の部分と腰の部分にも翼があります。

手足は僕と同じ様な感じですが、僕よりエグイ爪してます、しかも若干赤い・・・


つーかこれもう鳥の足じゃねぇし、ドラゴンかワイバーンだろ。


女子のように細い足になんつうモノが・・・というかよく見たら、恐竜のラプトルみたいに凶悪な鉤爪が見える・・・僕は何も見てない。うん。



ああ見えて、昔はそれなりに腕のいいハンターだったらしい。ああ見えて。

らしいというのは、アネモスさんと結婚する前にとある依頼にて大怪我をしてしまい、引退したからだそうだ。

風切羽もやられてしまい、一生空を飛べなくなってしまったらしい。

確かに、滑空する所は見るけれども、羽ばたいてる所は見たことがない。



そんなこんなで彼は結婚してからは主夫として、アネモスさんと仲睦まじく暮らしている。




さてここで話は変わるけれど、今の会話で話に上がったハンターについて、僕が知っている限りの説明しようと思う。


この世界にはハンターギルド、というものが存在する。

男性をハンター・女性をハントレスと分けているが、両者はまったく同じ職業だ。

詳しくは知らないが、このギルドは〈ターフェルンデ騎士団〉という騎士団が管理、運営しているそうで。


騎士団というと、ほとんどのファンタジーのラノベ系の小説では、王や貴族に従えてるタイプのものと想像するんだろうが・・・・・



ええはい男ですが読んでましたともラノベ。

ライトだけどライトじゃ無い方は読んでない。


話を戻す。


こちらの世界では、この騎士団はどちらかというと傭兵団の扱いに近い。

始まりは、昔にあった大戦の時にこの国に投入された、厄介な生物兵器を退治するために作られた組織・・・だったそうだ。


昔といっても千年以上も前の話。


これは当時、国は国らしい形を保っていなかった為だそうとかで、大戦後でゴタゴタが長続きして処理とか色々と問題があったそうだ。

そんなゴタゴタが続いて、この生物兵器の方に目が中々行かず国中でどんどん被害が拡大していった。


なんで対応にするのにそんなに時間がかかるんだと、思う人もいるのかもしれないが、兎に角その大戦は酷い戦争だったらしい。


なにせ攻めてきた国は、戦争には中立を貫いていたある国を襲撃して、民間人を虐殺し尽くしたそうなのだから。

しかも、攻めてきた理由だってかなり理不尽な内容だったらしい。


ともかく、国のかわりにその生物兵器を退治する勇士を集い、なんの力も持たない人々を護るための専門の組織は誕生した。



母さんから聞いた話では、この生物兵器は生き物の魂を食すそうだ。

そして、ある程度食べ尽くすと卵を産む・・・らしい。

誰もその瞬間を見たことがないので、これはあくまでも推測の範囲らしいそうだ。


全自動で人を襲い、そして勝手に増える害虫よりたちの悪いkillマシーン・・・というのが僕の第一印象。




この世界にはドラゴンがいる。

ワイバーンがいる。

恐ろしく大きな巨大蛇や鰐などもいる。

そして先ほど言った巨大鮫、カルカロクレスやそれよりも厄介なモンスターも存在している。 


生物兵器も含めた、これらの脅威から人々を守るために、国に雇われている組織。


それがハンターギルド



と、小さい頃母さんから教えてもらった。

母さんも昔は、それなりの腕のハントレスだったみたいだ。

居間には母さんが使っていた双剣が、鞘に収まった状態で今も飾られている。



そして、シエルさんから教えてもらったこともある。

このハンターギルドは基本的なルールはあまり無く、暗黙の了解の元動いている節もある。

それでも、騎士団の中において“絶対”に守らなければいけない決まりがある。

 


―ハンターの武器・防具を対人に使用することを禁止する― 


つまり、ハンター用の武器で人を殺傷したり、防具を着て戦いに赴くことを禁止しているということだ。

ハンターの扱う武器屋防具は全て、人々を〝護る〟為であり戦う為の道具ではない。

という意味らしい。





あ、シエルさん蹴り飛ばされた。

ドボーーンという音と共に水飛沫が此方まで飛んでくる。今日は随分とまあ、ご立派な水柱が立ったものだ。


ちなみにこれ、アネモスさんが毎朝漁に行くたびに繰り広げられている夫婦漫才。






  



さて、話を戻すとしよう。

僕の仕事に使う船は、漁港から少し歩いた小島に停泊してある。


小島といっても距離は砂浜から6mぐらいしか離れていないし、ドーナッツ状の島の内側にあるし、足首までの浅瀬を歩くぐらいだが。



まるでイタリアのイソラベッラのような、本当に小振りな島なんだけど、自分だけの島を持てたみたいに嬉しい。

申し訳程度の木々と岩場があるその島には、これまた小さな島に似合う小さな小屋がある。

仕事の依頼は、この小屋にある無線機で受ける。


直接お客さんとやりとりするときもあるが、大体は観光関係のガイドなどが仲介する形で此方に依頼としてくる。

ちなみにこの無線機は、電話のように会話するタイプではない。


文字を機械で打って相手や自分の所に、ファクシミリのように紙に印刷された形で届く仕様だ。



僕は、早速何枚か届いていた紙を確認する。



「えーっと、観光に商人の護送、遊覧に・・・」


仕事の内容を細かくチェックしながら、種類ごとに振り分けていく。仕事は観光や商業関係が殆どだが、どうやら今日の依頼は一軒だけらしい。しかも早朝に届いた依頼のようだ。


なになに・・・・・・・


「凪の島・ハンター1人・時間 午前10時指定〟」


噂をすればかよ。

どうやら噂のハンターさんは、僕の船を紹介されたらしい。

あーあとため息を吐いてベッドに倒れこんだ。


正直面倒くさい。だってハンターの武器と防具って、重いんだもん。

これ、あるあるね。車を運転したことある人ならわかるかもしれない。


まあ僕には、車を運転した記憶は無いけど。





風の村は、本土からは比較的沖合のほうにある。凪の島は、風の村のお隣さんに位置する島だ。

こちらは比較的大きな島で、旧市街に歓楽街にビーチに飛行船用の空港やデカい漁港などがある。

まさに、観光メインで稼いでいる島。



ちなみにこの小屋には無線機の他に。

粗末なつくりの木のベッド、簡易机と椅子。

非常食と緊急用のサバイバルセットのようなものがある。元々は僕の家出用に作ったものですよ。

昔は僕も、いろいろとやんちゃだったんです。



時計を確認すれば、現在午前7時30分。

今出発すると、ゆっくり行っても僕の船なら8時には余裕で到着する。


持っていくのは、櫂・携帯ラジオ・ロングブレードのサバイバルナイフ・非常食・水掻き靴下・水中ランプ。

そして財布である。

サバイバルナイフは、途中サメなどに襲われないための護身用。意外とかなりスパスパ切れる一級品。


「さあて、と。お金も持ったし行きますか」


僕は独り言のように、いや実際周囲に人はいないから確かに独り言といえば独り言なんだけど。

財布を持ち、風を纏わせながら僕は船に乗り込んだ



なんで財布も持っていくのかって?

勿論、センニンナシを買うためだ。

僕は諦めたわけではないし、それに諦めがかなり悪いのだ。

特に好物に関しては。





アルバイトではなくお仕事です

海のタクシーと思って下さい

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