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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】後篇
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まさに漆黒の闇、とも言えるかのようなその空間に、一人の少女が現れた。

彼女はまるで、まるで例えるのであればそれは地面から水がさらさらと湧き出すかのように、その場に静かに現れたのであった。


それは着物を着た、まるで日本人形のような少女だった。


艶やかな黒い髪は、高く団子にして結っている。そして、珊瑚のような赤い簪で交差させるようにして留めている。

頭部の左側に飾られた赤や桃色の牡丹のような髪飾りは、彼女が歩く度に揺れて、シャラシャラと音を立てた。

牡丹の柄の赤い着物に、金の刺繍がされている帯を巻いたその姿は、真っ暗なその空間にとても綺麗に映えている。



「ん、なんとも懐かしい姿だな。60年ぶりぐらいか?」


彼女の口から、その言葉の一つ一つが発せられるその度に、硝子よりも透き通った雫が一つ一つ零れていき透明な波紋が広がっていくのを感じた。




「・・・・・だれ?」


まるで成人式に出るような鮮やかな振袖に身を包んだ彼女は、懐かしげに袖を掴んで眺めている。


見たことはないが、どこか懐かしさを感じるその少女は。汚泥に沈んでいく僕を見てくすりと笑った。


本当に誰だろうか・・・・何処かであったような気はしないでも無いが、中々思い出せそうにない。


しかし、グルグルと頭を回転させながら記憶をさらっているそんな僕を尻目に、彼女は何やらブツブツと呟いていた。



「・・・・まあ“この姿”で過ごしたことはないからなぁ、無理もないか・・・さて」


どうやら、彼女は彼女で納得の出来る答を導き出したようで。

僕の方まで歩いて来ると、器用に僕の顔を覗き込むようにしてしゃがみこんだ。

いや、これなんか見下されているみたいでちょっと気になる。


しばらく・・・・とは言っても数秒間ぐらいだろう。

こちらを見下げてくる少女を視界の端に留めながら、ただ黒い汚泥に浸っていたが。


はたっとあることに気が付き、僕は慌てて身を起こそうとした。


いや・・・・・彼女が一体どこの誰なのかとかは正直言って今はどうでもいい。

問題はそう・・・・“如何にして此処までやってきたのか”・・・だ。

自分でもどうやって迷い込んだかわからないようなこの場所に、彼女はどうやって来たのだろうか。


しかし、これは一体どういうわけか。

力を入れても僕の身体は全く起き上がれることが出来なかった。

せいぜい動かせるとしたら、手や頭をちょっとばかし動かせるぐらいか。



「君は・・・一体誰なんだ?どうやったってこの場所に・・・・いや僕も此処が何処かなんてわからないんだけれども」


ソコだ。

自分でも気が付かないウチに迷い込んでいた“この場所”に、一体何時来たというのか・・・・

投げ槍で破れかぶれになっていて、霧がかかったような思考だったのが、段々とクリアになっていくのを感じた。



「まあなに、細かいことは気にするな。来ようと思えば直ぐに来られるし、帰りたくないと思えば何時までも居ることが出来る。此処はそんな場所さね」


まあそんなことよりも・・・・彼女はそう言いながら、しっかりと僕の方へと視線を向けた。

一瞬黒い瞳の中で深紅の光が宿ったのは気のせいだと思いたい。


「私は君を迎えに来た、ただそれだけのことだ」


そう言って、彼女はニヤッと笑みを浮かべた。






─・・・・・・・・・・─





平静な態度を装っていたとしても。

あの日の出来事は今でも脳裏にこびりついて剥がれてはくれない。


あの日僕は焼かれていく島を見た。

小さい頃から見慣れていて、そしてずっと変わらずにそのままで在ってくれると思っていたその景色は。


──あっさりと 一瞬で 崩壊したのだ──



髪がジリジリと焦げ付く嫌な匂いを感じた。


熱を持った地面は靴底をジワジワと溶かしていく。

熱は僕の肌を舐めるように容赦なく焦がしていく。

熱に弱いこの身体へと容赦なく熱風が襲い掛かり、喉をジリジリと焼いていく。

崩れた瓦礫の下には、きっと助けを求めていた人もいたのだろうか。


死にたくないと、意地汚くあがいていた自分は。

実は死んでも仕方なく文句すらも言えない立場の人間だったのだと、改めて突き付けられた瞬間だった。



“俺”はこのまま幸せにはなってはいけないのだと、そう嘲笑うかのように、汚泥はそのままいっそう僕の身体へと巻き付いていった。




「なるほど・・・・それでこの様という訳か」


彼女は周囲をぐるりと見回して、そう呟いた。


そう・・・・・

だからこそのこの様だ。


だからこそ、ほおって置いて欲しいと再び沈みかけた僕の身体を、少女はなんのためらいも無くガシッと掴んだのだ。


いや、力強いなおい。

棒のような細腕の一体何処にそんな力があるんだよ。


「まあ、お前さんはそれでいいのかも知れないが、生憎とこっちはそうもいかなくてな。すまないが、無理にでも引っ張り出させて貰うよ」


元はおそらく相当上等・・・らしき着物の袖が、汚泥にずっぷりと浸り見るも無惨な形になってしまう。

ズズズと僕を引っ張り上げようとしているが、その反対に白い足はどんどんと汚泥に沈んでいく。


少女は、一休みとばかりにやれやれと一息吐いた。


「全く、強情だなお前さんも」

「そんなことを言われても・・・・」


一体僕にどうしろと言うのだろうか。

僕だって一度は出ようと藻掻いたさ、だけれども身体はビクともしないんだ。

しょうがないじゃ無いか。



「まあ・・・・そこにずっといるのは、私的には別に構わないのだがなぁ・・・・お前の無事を祈っている人がいるんだ。心配のあまり自身の心を砕いたとしても足りないぐらいにな。それが見ていられなくなって、しょうがなく来たというかなんというか」

「はぇ・・・?」

「まあアレだ、簡単に言ってしまえば・・・お前の意見なんぞかんけーない」

「なんかむちゃくちゃすぎるんですけど・・・・」

「だからほれ、さっさと観念するのじゃ」

「さっきからキャラぶれてない?」


観念しろー!

そう言いながら少女は、再び僕の腕を掴んで持ち上げようとするが・・・・なんか段々痛くなってきたぞ。


「いたい、いたい・・・痛いってば!それにこんなに沈んでるんだ、力尽くで持ち上がるわけ無いじゃ無いか!」


ミシリと腕が悲鳴をあげるのを聞いて、思わず強い口調になってしまう。

しかし、それを聞いても少女は僕の腕を放さずに、再びニヤリと笑ったのだ。


「だからさっきも言っただろうに、言わなかったか?いや、言ったな。忘れたか?じゃあもう一度言うとしよう。此処は来ようと思えば何時でも来られるし、出たいと思えば出られる、そんな場所だ。汚泥?そんなモノは私には見えやしないな。しいて言うのであれば、地面にみっともなく転がっているいい歳の子供がいるぐらいか」


そう言うと、彼女は呆れたように腰に手を当てて、再び僕を見下ろした。


この空間いっぱいの汚泥が見えない?

そんな事は無い、だって現に僕の身体は・・・・


「だから言ってるだろに・・・出たいと思えば何時でも出られるということは、出たくなければずっとこのままだということだ。私には、お前をつなぎ止めている汚泥は見えないよ。そりゃあそうさ、だって私にはとどまりたいと願うことは無いからね。お前が起き上がれないのは汚泥のせいじゃない、お前自身がここから出ることを拒絶しているからこそさ」

「僕が・・・・?」


遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

ゲイルくんはゲイルくんでかなり気にしていた様子。

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