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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】後篇
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主人公というものは、大体が強いものですが今回はゲイル君がなぜ貧弱なのかという




波というものはそう。

それは自然と同じで予測不能。己に突如として襲い掛かってくるものだ。



心臓が締め付けられるほどに苦しく、顔から出る水分は生憎無い為出るものは出ない。

だけれども“俺”の時と同じように、まるで泣いている時のような激しい頭痛が襲い掛かってくる。


感情というものは、それは言葉として表すのはとても難しいことなのだろう。

それにしても。こんなにも涙を流さずに、このぐるぐると渦巻く黒い気持ちをやり過ごすことが難しいなんて思わなかった。

発散されるべきモノがだんだんと降り積もり、そして段々と溢れるまで注がれていく。

そしてその表現のしようがない真っ黒な感情は、体の中で渦巻いてそれが力となり周囲に現れ始める。






・――――――――・





「さて・・・まさかここまで抱えていたとはなぁ。おおよそ、まだ16年ぽっちしか生きていないはずなのに、この深い闇は一体なんだ?まるでその何十倍は生きているようなものじゃないか」


ナイアはどこからか引っ張り出してきた椅子に座り、花茶を飲みながらゲイルの様子を伺っていた。

脚がリングのように交差したその椅子は、彼女お気に入りの一品だ。

ゆらゆらと、ゆっくりと揺られながら彼女はこれから先の事を思案する。


椅子に揺られている彼女の視界の先には、まるで檻のようにして造られた水球があり、その中にはゲイルが入れられていた。

獣のような低く太い唸り声を上げるかの如く、どす黒い色をした風が渦を巻きあげて彼を包んでいる。




本来、多種族同士での交配によって子供は産まれない。

いや、産まれにくいといった方がいいのだろうか。

それはハマるはずのないパズルのピースを、無理矢理にねじ込んだ。言わば突然変異種のようなものだ。

だからこそ、ハーフというものは希少価値が高い。

それこそ“その手”のバイヤー達にとっては涎が出るほどに貴重で、裏の方では高値で取引がされている。

下手をすれば、どんな宝石よりも価値がある。


それでも実際に誘拐などの被害が出なかったのは、やはり母であるテンペストの力があってこそ・・・ということなのだろうか。

それでもまあ市場の火災の時等々の、所謂“危うい時”というのは過去に何度もあったわけだが。

・・・・・犯人達が一体“どうなってしまった”かについては、皆様の想像に任せましょう。

(まあ絶対碌な目にはあっていないだろうが、命があるだけまだマシなものなのだろうか?)




とりあえず話を戻すとして。

ゲイルは、彼は産まれた時から力のバランスが不安定だった。

それはまあそうだろう。

彼の母、テンペストは今でも知る人ぞ恐れる最強のハンターで。ギルドを仕切っている古参の騎士達も、彼女の名前を未だに恐れている。

片や父親は普通の人間。どこにでもいる一般人。

それでも鍛えてはいたため、平均よりは力や魔力はあった方なのではないのだろうか。

しかし、彼女と比べてしまえば巨象とありんこ・・・・・いや、シロナガスクジラとミジンコ位もの差がある。


そんな、エベレストとマリアナ海溝のような力差なんてあれば、下手に交配なんてしようものなら彼女の方の膨大な力によって、産まれる云々以前に力が暴走して死んでしまう可能性があるだろう。

それこそまさに、生きた爆弾をお腹に抱えて生活しているようなものだ。

それは、簡単に言ってしまえばある意味、ニトロよりも不安定なものなのだろう。


その暴走状態を抑えていたのは、他でもないナイアの力があってこそだった。

しかし勿論、副作用やデメリットというものはある。


それはつまるところ、力の流れを無理に抑えているために身体の発達の方にも影響が出てしまっているわけだ。

現に、ゲイルは平均よりも筋肉が薄いし成長が遅い。

本来身に着けていなくてはならない、セイレーン特有の“魅了”の力が使えない。

人間の血を引いている為、人と同じように“涙”を流すことができるのに、彼にはそれが出来ない。

真っ先に開花する能力は、両親のどちらかの先天的能力の筈なのに、何故か全然関係のない“風”の力を覚えている。

(ちなみに父親は“水”だったらしい)

まあ、彼女も生まれて早々に覚えたのは“火”の力だったのだけれども。それは彼女の両親のどちらかの遺伝だったわけで。


「ふむ・・・今思えば、産まれたときから不自然ではあったな」


思い返してみれば、不自然な点というものはどんどん出てくる。

遺伝した覚えのない能力。

幼い頃からの、年齢にそぐわない思考。

そして彼は、何処かが欠けている。それが精神なのか魂なのかはわからないが、彼の身体が弱くなっている事の原因の約8割を占めているのではなかろうか。



「まあ・・・それでもこのままいけば、今押さえている力が内側から暴走し・・・ボンッ!死ぬだけだろうな」


無理に力を抑えれば、当然の事ながら本来発散されるはずだったその力は行き場を無くし、その体に蓄積されていく。

しかし無理にでも力を抑えなければ、そのコントロールの方法をまだ知らないゲイルでは、耐え切れずに暴走してしまう。

だからこそ、コントロール方法を教えていき、徐々に抑えていた力を開放していく予定、だったわけなのだが。



謎の集団による、住んでいた村への襲撃。

連絡の取れない、無事なのかどうなのかもわからない家族や親しい友人。

それらの負が一気に重なり合い、そしてそれらがストレスとして彼の体を圧迫してしまい、暴走してしまったという事だ。



そしてまさに今現在、ナイアがもっとも危惧していた状況といえよう。

先程も説明したように彼女の力で暴走状態を抑えているものの、ゲイルの力はニトロよりも不安定なのだ。

下手をすれば、少しの動揺で爆発するぐらいに。

それに、たとえ今の状況を乗り切ったとしよう。しかし、それはあくまでも一時的な処置でしかならない。


その時はまだ持ちこたえたとしても、後悔というものは後からジワジワと浸食を始めるのだ。




しかしながら、彼女は本来他人の面倒を甲斐甲斐しく見るほどの、御人好しではない。

水球の中に入れたのは、あくまでも周囲への被害を最小限に抑えるため。

まあ、適当な荒野にでもほおって置けば、勝手に自滅して周囲への被害もゼロになるのだろうが。



それでもこうやって甲斐甲斐しく面倒を見ているのは、彼が知人であり戦友の子供でもあるからだ。


「もう限界か・・・・それでも一応は義理を立てねば」


先輩の大事な子供なのだから・・・・そう呟くと、彼女はゆっくりと水球へと近付いていった。




ナイアにはゲイルの気持ちはわからない。

何を抱えているのかさえも知らないであろう。

彼女は本人ではない。

でもきっと同じぐらいの闇を抱えている。

だからこそ、下手な慰めは必要ないということもわかる。


「さあて・・・そろそろ終いとしますかね」


そう言って立ち上がった彼女の両手には、それはそれは美しいナイフが握られていた。










・───────────────────────・








どうして逃げなかったの?


どうして見捨てたの?


どうして殺したの?


どうして?


どうして?


どうして?



どう  して?





そこはどこまでも広く、どこまでも暗く、どこまでも黒い。

まるで汚泥のような、そんなどろりとした液体に“俺”は沈んでいる。

黒い影が僕の周囲をぐるりと取り巻いて、次々と問いかけてくる。

だけれども、どんな言い訳を言おうとしても、僕の口はまるで金魚のようにパクパクとするだけで、言葉なんてものは中々流れてこない。

そうしている間にも、一つ一つ重い問いかけが増えるそのたびに、体はどんどんと汚泥に侵食されていき・・・そして沈んでいく。




「(どうして・・・こうなったんだっけか?)」


まるでその疑問に答えるように、ゴポリと泥から気泡が立った。


「(ご飯食べて学校に行って・・・どうして学校に行ったんだっけ?・・・・・・・ああ、そうだ補習だった。その後昇降口に出たところで異世界に召喚されて・・・・・?)」




ーほんとうに?ー



「え?」


急に、問いかける内容が変わった。

それはまるで、今までの記憶を否定するかのような問いだった。



ーほんとうにそれだけ?ー



「そう言われても・・・・・」


それ以外に、一体何があるというのだろうか。

それとも、“俺”は何か忘れていることでもあるのだろうか。

思い返してみても、一度忘れてしまったことは中々思い出せない。

そうこうとしている間にも、僕の体は段々沈んでいく。



「(もういっそ・・・・このまま沈んでしまったほうが・・・・)」


楽なのではないのか?









「あぁまったく。後悔をするなとは言わない、立ち止まれとも言わないさ・・・だけど、一寸は周囲を見回してみてもいいんじゃないのか?」

ナイアさんは英雄視されていますが、正義の味方というわけでは無いですねー。

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