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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
一章【夢幻空疎の楽園聖都市】前篇
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生前は、元々は日本人だったと思う。

多分学生。


多分というのは、もうその辺の記憶が朧気だからなのだが・・・

悔しいことに、僕が前世で生きていた時代の、世界の知識や出来事のことは覚えているのに。

冷蔵庫とか電車とかアジアやヨーロッパの国々とか。


なのに、肝心の“僕自身”が一体何者だったのかと言う点だけは、どうしても思い出せないでいる。

それは家族構成や名前も含めてだ。

自分が生前は、大学生だったのか、高校生だったのか、中学生だったのか、小学生だったのか、幼稚園児だったのかすらも分からない。


いや、外国の事とか知っているから、幼稚園児と小学生は絶対無いな。




逆に、この世界に産まれた時の事は今でも覚えている。


気が付いたら硬い殻の中にいた。

ゆらゆらと揺れながら、いつも温かいぬくもりに包まれていた。

殻を破って外の世界に出た時、母さんは泣きながら笑いながらが混じったようなそんな顔で、僕をずっと抱き締めてくれたっけ・・・・・・




はい、回想終了!


名残惜しいが布団に別れを告げて台所へと向かう。

ご飯は僕と母さんの担当だ。ちなみに父さんはいない。

これには、まあちょっとした事情があるのだが・・・・・


それはまあ後日にでも。





部屋の扉代わりの幕を開けて廊下に出ると、まだ幼い弟妹達が丁度起きてきたようだ。

ゴシゴシと、未だに襲い掛かってくる睡魔と戦いながらよったよったとつたない足取りで、僕の足にピタッとくっついてくる。


可愛い。




「にーにぃおはよー?」

「にーにぃおきた?」

「・・・おーはー?」


上から。

クローム・セイル・フウ、三つ子の弟妹だ。


セイルはまーた枕引き摺って来たな、フウに到ってはそのまま二度寝に入りかけている。

クロームはキチンと起きて・・・いや、よく見たら鼻ちょうちん作ってる・・・だ、と?


人間でいうとまだ三歳ぐらいのこの子達には、まだ成人のような羽根があるわけでもなく、灰色のふわふわとした羽毛に包まれている。

いや、もふもふぁ~な感じだ、マジで。

まるでわたあめのようにふわふわとしたあの感触は、下手なぬいぐるみよりもベストな触り心地といえよう。


断言する、うちの弟妹マジ可愛い。

何度でも言うわマジで可愛い。



しかし幼くてもそこは人外、歯は生後半年で全て生え揃った。




ぴーりゃぴーりゃと空腹を訴えながら足に縋り付いて鳴き始めた弟妹達を、そのまま引きずりながら台所へと向かった。


あーもうマジで至福。





居間に入ると、台所からいい匂いが漂ってきた。

どうやらちょっとばかし遅かったらしい、母さんは既にフライパンで何かを焼いていた。匂い的にはパンケーキかなこれは。

勿論朝食用なので甘くは無いタイプ。

片手にお玉を持ち、なにやら鍋をかき回している。

今日のスープはなんだろうか。




「おはよう、母さん」

「おはよう、今日は遅かったね。なにか良い夢でも見てたのかな?」

「うーーん・・・覚えてないや」


カラカラと笑いながら、母さんは「なにそれ」と返した。




さて、手伝うとしますか。


とはいってもパンケーキとスープは母さんが作っているし、サラダは作り置きしたのが保冷庫に(これは現代でいうところの冷蔵庫のようなものだ)にある。


では、アレを作るとしましょうか。




「さてと」


TVや映画館で見た人なら、一度は食べてみたいと思うだろうアレ。卵とベーコンのアレだ。


意外とパンケーキにも合うしね。


卵はちび達は半分ずっこ、食べきれないし。

母さんは一個と残った半身、俺は二個。

ベーコンもちび達は半分ずつ、母さんは一枚でおれは一枚と残った半分。



育ち盛りなんだよ、だから食い過ぎとかのツッコミは受け付けん。


パンケーキを焼いている母さんの隣で、僕はいそいそと準備する。



まず先にベーコンを焼く。

僕が今いるこの世界と現代日本と違うところは、厚切りのベーコンが主流というところだろうか。


厚さは平均でも軽く2.5㎝位はある。


これがちび達がベーコン半分の理由。

28㎝ぐらいのフライパンも、流石にベーコン4枚も焼くとなるとみっちりとしてしまう。


余談だが我が家は全員ちょいカリ派だ。




フライパンに油をひき、先ずは中に火が通るまで弱火でじっくり焼く。

じゅうっ~っという油の音で、空腹感が増す人は少なくはないのではないのだろうか。



っていうかマジでおなかすいてきた。


ひっくり返して、軽く塩コショウ。ちょいカリが確認出来たら卵投入。

差し水を入れて、蓋をして蒸し焼きにする。


めだま焼きって、焼こうとすると沸騰したような油で焼いたような不思議な音しない?


余談だが我が家は全員半熟派だ。



蒸している間に皿を用意する、四角いちょっと大きなやつ。

母さんが、焼けたパンケーキを皿に次々と乗せていく。

厚みのあるふわふわパンケーキだ。


あ、僕のホットケーキ1枚多いラッキー。



ちび達は二枚ずつ、母さんは三枚、俺は四枚・・・

そんなに食べたらデブる?ほっとけ。

むしろ、僕はガリガリだから少しでも肉がほしい。冬とか大変なんだよこう見えても。



パンケーキの上に、油が入らないようにベーコンとめだま焼き乗せて今日の朝食完成。



メニューは・・・




めだま焼きベーコンパンケーキ

にんじんと玉ねぎのオリーブオイル漬け

卵とコーンのとろとろスープ


ちび達の野菜の好き嫌いが無いのが、我が家の自慢だ。


本当は、センニンナシという果物を食べたいところだが、今は生憎きらしてしまっている。

いつもは週に二回来る商船が持ってくるのだが、その商船はここ2週間くらい見ていない。

村の西の方に行けば自生したのがあるので、今はそれをチマチマとつまんでいる状態だ。


だがしかし、自生しているのと店で売っているのって味とかが微妙ーに違うんだよなぁ。

あーあ、大人買いしとけばよかった。



僕はこのセンニンナシが大好物なのだ。

フレッシュな甘さで、さっぱりとしていてクセのない味。梨と西瓜の中立のようなこの感じ。

しかも夏バテ防止にもなる。



もう一度言おう、僕はこれが大好物なのだ。



ちなみにナシと言っているが、これは木から収穫するのではなくサボテンから収穫される。

平たい形の何処にでも自生するサボテンで、実は黄色から赤へと段々と熟していく。


あ、想像したら更に食べたくなってきた。

それなのに・・・・・・・








「今日は、西の崖に行ったら駄目だからね」


カチャリと、ナイフとフォークを上手につかい朝食を食べながら、時に優雅さを見せながら母さんはそう言った。

これを見ると、時々母さんは実は良いところの出身なのではないのかと、そう思ってしまう。


ちなみに僕は箸でカチカチと器用に切り分けてつまみながら食べている。

ちび達はスプーンで掬いながらちゅるちゅると食べる。歯が生え揃うのが早くても、流石に食器類はまだ上手くは扱えない。



「どうして?母さん」


朝食と格闘しているちび達に代わり質問する。

あ、西の崖ってナシがあるところじゃん。


現実は無情すぎる。




「最近この島の周辺でサメの被害が出ていることは知ってるね?」

「うん。沖合いの漁の網が食い破られたりしたんだって?」

「そう。でもあれ、実はハクガクの仕業じゃなかったらしいのよ」


ハクガクとは、ここいらに生息しているサメである。

卵食・共食い型。

凄みのあるガラの悪いおっかない顔。

平均3mぐらいの大きさで、主に春から夏にかけて沖合からやってくる。




「どうやら、カルカロクレスの仕業だったらしいわ」

「え、それってとってもヤバいんじゃ・・・・」

「見た人がいるそうなのよ」


──カルカロクレス──

そういう種類のサメが、この世界には生息している。

たかがサメと思うかもしれないが、このサメは他の普通のサメとは違う。


まずデカい。

僕一人なんて、一口で咀嚼せずにパクりと食べられるくらいはある。

噂では腹を捌いたときに、人一人の死体が丸呑みにされたままの状態で出てきたって話もあるらしい。


その大きさは軽く見ても19mは超えると、対峙した人はそう言った。


そしてかなり硬い。

そのサメ肌は、発達しすぎてまるでウロコのように見えるほど硬くなっている。サメ自身も、その鋭利なウロコを利用してくるぐらいだ。



そういえば2年ぐらい前だろうか。


一度だけ、偶然猟師が討伐した一匹を見たことがあるが・・・・あれはまさに化け物、あるいは恐竜のようだった。

不用心にも触ろうとしたヤツは、その硬くて鋭利な肌で掌をスッパリと切ってしまったが。



しかしながらこの鮫は、もう少し沖の、しかも深海の方に生息している筈なのに・・・・・・

でも母さんの話では、今年に入ってからは何故か近場でも目撃されるようになったのだという。



1匹くらいなら猟師達でもなんとかなる、筈なのだが。



「なんでも、4匹で群れで行動しているらしくてね。西の崖下の海中にある洞窟を拠点としているらしいの。それにほら、そろそろ・・・」

「あー・・・あーねー、なるほど」


「商船も襲われているらしくてね、ほらここ2週間くらい見ていないでしょ」


母さんはちび達がいる手前ぼかした言い方をしたが、ようは今の時期カルカロクレスの期繁殖期が近いのだ。


この世界に限らず、現代日本においても繁殖期を迎えた生き物は、気が荒くなり攻撃的になりやすいというのは周知の事実だろう。

そんな状態の危険なデカい生物が、今現在西の崖下の海に集まっている。


ちなみにコイツらは、卵をお腹で孵化させてから産む卵胎生。そして共食い型。


流石に危険を冒してでも食べに行こうとは思わない。自分の命が大事・・・


つーか僕がナシ食べられないの、全部お前らの仕業かよ。



「うんわかった、気を付けるね。ちび達返事は?」

『はーい』

「うん、元気があってよろしい」 


未だに眠気を引き摺るちび達は、少し反応が鈍いものの揃って可愛い返事を返した。






朝食を食べ終えた後は仕事の時間だ。


この世界は、というよりこの国では教育は義務教育ではない。

教育を受ける権利はあるが、行けないのなら行かなくてもいいという軽い感じだ。


僕の場合は、母さんが基本基礎知識を教えてくれたので。というか学校まで遠くて通えないというのと、寮のある学園には学費が高くて通えないというのがある為で。


母さんは申し訳なさそうだったが、僕はあまり気にしてはいない。

前世と比べると環境的にはサバイバルに近く大変なんだろうが、だけど前の生活よりは気楽な感じがする。





朝食を食べ終え、洗い物をした後仕事へ向かう。

ちなみに生活用水は、僕達が住んでいる岩柱の一番てっぺんに貯水タンクがあって、そこから水を下へと引いている。





「いってきまーす」

『いってらっしゃーい』


母さんとちび達に見送られる形で、僕は家を出る。

玄関扉は、流石にカーテンのような幕ではなく、木の簡易扉になっている。


扉を開けて外に出れば、さわやかな潮風が僕の頬を撫でた。

眼下には、どこまでも青く透き通るような青い空と、美しく輝くエメラルドグリーンの海が広がっている。



うん、今日は良い風が吹いている。

人間だった頃は、風が良いとか悪いとかそういうのは全然わからなかった。


多分、そう思うほどの余裕も無かったんだと思う。





  




この島には、僕達セイレーン種の他にも。

人魚・ハーピー・ローレライ・魚人・ネレイデス・そして人間等の多種族が、互いに協力しあって暮らしている。


僕達の住んでいるこの風の村は、国──というか本土からは約1000㎞は離れた所にある島の事をいう。

村と言っているが実際は島だ。




例えるのなら、大体日本から小笠原諸島位の距離かな。



形はドーナッツ状の島の中に小さな島がある感じ。

まあ小さいとは言っても沖縄の離島位の大きさはある。


水納島ぐらい?



砂浜があり、岩場もあり、そしてきちんと畑が作れるぐらいの森がある。

回りと比べれば小さな島だが、それなりに環境は整っている方だと僕は思う。


島の岩場には、天まで高くそびえ立つ柱のような大きくて太い岩柱がいくつも並んでいる。数は約15~20。

僕達家族や、他の住民達がくりぬいて住処にするぐらい太くて丈夫だ、天然の集合住宅って感じだな。


ドーナッツ状の島の部分にはいくつか洞窟があり、そこを住処にしている人達もいる。



まあ大雑把に別けるのなら。

セイレーン種やハーピー種は僕達のように、岩柱をくりぬいて。

人魚種や魚人種、ネレイデス種等はドーナッツ状の島の内側にある海岸や洞窟内に。人間は岩柱や、森の方に家を作り暮らしている。





さて、では仕事仕事っと。



唐突に始まる飯テロ・・・・飯テロになってるのかこれ

朝ご飯食べると、その日一日の入り方が違うよねーという

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