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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】後篇
37/42

第一話⦅-脱出-⦆1/3






・・・・・・・目が、覚めた。


まるで風邪をひいた時のように、頭がガンガンする。



俺として生きてきた記憶。

そして僕として過ごしてきた記憶。


それらが複雑に絡み合いながらも、脳内をどんどんと侵食していく。

一人分の脳味噌の中に、二人分の情報なんて急に入れるわけがない。


自分でも処理切れない膨大な情報の数々に、“俺”の頭はショート寸前だ。

ダラリと生温い鼻血が垂れてくるのを感じるが、正直言ってそれを拭う動作さえも出来ないほど、僕の頭は混乱している。


思うように腕を動かそうとしても、それは自分の腕ではないのではないのかと。そんな錯覚さえしてしまう。

それでも。

ぐるぐると回るぼやけた視界の中で目に入るのは、見慣れた“僕の家の”玄関だ。



今までのは夢だった・・・?


両親が事故で死んだのも?

勇者として召喚されたのも?

悪臭の漂う地下で化け物から逃げたことも?



首を刎ねられたことも?





それとも、今こうしているという事こそが夢であり、目が覚めたら再び自分の自室にいて・・・・・



いいや、これ以上の逃避はやめておこう。

これは夢ではない、間違いなく現実だ。

その証拠に・・・・・僕を討伐しようとやってくる、あのルミニエールの兵士達の足音が聞こえてくる。



あーあ、この名前が簡単に出てくるという事は、僕と俺の記憶は完全に統合を果たしたという事であろうか。

頭も胸もまだまだ痛むが、それでも動けない程ではない。


母さん達は船で脱出すると言っていた。今からじゃ向かっても、多分間に合わない。と、いうか兵士達がいるからそもそもそっちには逃げられない。

なので僕は、自分の船を使って脱出することにした。


居間に飾られている母さんの剣。

僕はその双剣を手に取る。



ハンターさんから送られた氷の剣もあるが、何故だか直感的にこれも持って行かないと・・・・と俺はそう思ったからだ。


剣を手に取ると、耳飾りの石が一つ。キィンと鳴った。




貰った剣がダガーの様な形をしているのなら、この剣はまるで日本刀のような形をしている。

普通の日本刀とは違い、刀身は太くて大きい。それでも長さは脇差よりちょっとあるぐらいだろうか。


柄巻きの部分は巻かれてはおらず、それっぽい模様が刻まれているだけ。鍔はないが鬼灯のような飾りがついている。

色は峰から刃にかけて、鮮やかなガーネットからピンクホワイトへとグラデーションがかかっている。

樋の部分はまるで血のように赤く、波紋を光に照らせばうっすらと桜の模様が浮き上がった。



なんちゅーおっかない武器使ってたんだ母さんは。





僕は未だにゆらゆらと揺れる己の体を叱責しながら、自分の部屋へと急いで向かう。


部屋へ戻って先ずする事といえば、棚やクローゼットを出入り口の所にに移動させて簡易バリケードを作る事。

まぁ、うちはカーテン一枚で仕切っているから、壁と勘違いしてくれないかなーという考えもあったりする。


そこから部屋を急いで漁り、仕事用の小屋の鍵と滑車を用意する。

貨車とはいっても、建設現場などで使うような墜落防止用の安全帯につけるCリングに近い。


実は自室からあの仕事用の小屋へは、ターザン用の頑丈なロープが繋いである。

うんこれ、昔に家出用で作ってもらった黒歴史の産物。

(村長にタライ落とされた)近所のおじさんに、ノリノリで作ってもらったもの。

最近じゃあ、弟妹や母さんが遊ぶぐらいにしか使い道はなかったんだけど・・・・・

まさか、こんな形で役に立つ日が来るとは思ってはいなかった。


窓際へ移動して、滑車を急いで装着してそれに掴まる。

滑車の下に、輪っかになったロープがついていて、そこに腕を通して掴まる仕組みだ。



窓枠を思いっきり蹴って外に飛び出すのと、部屋のバリケードが破られるのはほぼ同時だった。



元々が子供用に作られた物なので、猛スピードとまではいかないけれども、それでもそれなりの速さで下っていく。


宙から下を見下ろせば、今の事態が一体どれ位の参事なのかというのが嫌でもわかる。

それはまるで、飛行船の窓から見下ろした時の景色と被り、一瞬頭が痛くなる。



家々は殆どが崩壊し、未だに黒い煙が燻っている。

森や畑は半分以上が焼かれ、兵士達がゾロゾロと入っていくのが見える。

その中には戌江もいた。

ふらふらと、あまり乗り気ではない足取りで兵士達の後ろをついて歩いている。



「(大丈夫・・・だろうか)」


だけれども、会うことはきっと叶わない。

狐々野やおっさんにしても、リンヨウにしてもそうだ。

今の僕はゲイル・ヴェントであり、鷹野 颯ではない。

もし会ったとしても、きっと信じてはもらえないだろう。


再びマイナス思考へとグダグダと考え始めた僕の視界の端で、キラリと何かが光った。




光ったと認識した瞬間と、ロープが切れたと分かった瞬間はほぼ同時だ。

僕の体は、宙に投げ出される。

誰がやったかなんて、そんなこと“俺”はわかってる。

アストルフォス王子第一王子。アイツの槍に違いない。

恐らくは、次こそは僕を仕留めようと再び槍を放つであろう。


だけど・・・そうはいくものか!



再び襲い掛かってきた王子の槍を、僕は宙で身を翻してそれをかわす。

普通の人間ならまず不可能な離れ業だが、今の僕は人間ではない。

身体に風を纏わせて、体制を変えるなんてお茶の子さいさいだ。


そして、次は“俺”の番。

再び俺は渦を作る、今度はとても大きな渦だ。海の中でサメと対峙した時の比ではない。

正真正銘、今の僕の全身全霊である。


「食らいやがれ、バーカ!」


制御しきれないほどにまで巨大化したその渦は・・・いや、最早あれは渦なんて可愛いものではない。まさに竜巻だ。


巨大な竜巻は、途中家々を焼いていた炎を巻き込むと、そのまま王子達のいるところへとまっすぐに飛んで行った。


別に、これくらいで彼等が死ぬとは思ってはいないし、この程度ではきっと火傷一つ付けられないだろう。

だけれども、格下だと侮っていた相手に反撃させられるのは、きっと大いにプライドを傷付けられることだと思う。

まあ、それを狙ったんだけれども。


「ざっまぁみろ」


そう言いながら“俺”は中指を立てると、真っ暗な海へと真っ逆さまに落下した。






・─────────────────────・


「あーー・・・・死ぬかと思った」


幸運なことに、僕は地面ではなく港近くの海に落下できたようだ。

仕事用の小屋は、もう直ぐ近くである。

これは走っていくよりかは、泳いだほうが格段に速い。


が、僕は致命的なミスをしていた事に今更ながら気が付いた。


「・・・・!っあーーーーーーー!!僕の船海の上じゃん!島まで泳いできたから、船置いてきちゃったんだよ僕の馬鹿野郎!!」


そうだった、忘れていたけど確かハンターさんを凪の島まで送っていく途中で、この事態に気が付いたんだっけ。

これはあまりやりたくはないが、もう一つの船を使って逃げるしか手はないだろう。


あの時、第一王子は港の船を焼き払えば、僕達が脱出できずに逃げ惑うだろうと踏んでいたわけだが。

お生憎ながら、この島の生計は殆どが漁で賄われている。

長年使っていた愛船が、ある日寿命を迎えて使えなくなってしまうことだってある。

まあ、外部からやってきた人が港の船を盗む・・・なんて事件もあったしね。


だから、島で船をメインとして生業をしている人達は、予備として外側のドーナツ状の島に予備の船を隠しているのである。

まあ、場合によっては三艘とか四艘とか持っている人もいる。


僕も、小屋近くに予備としてもう一艘隠してある。

こっちは、いつも使用している船よりはちょっと大きく重い。

形は屋根のついた部分がある、ヴェネチアンゴンドラに近いのだろうか。



・・・・・うん、これ本当に重いんだよ。本当にあまり使いたくはないのだが、今は緊急事態。背に腹は代えられない。


草陰に隠してあった船を出して、直ぐにでも出発できるように準備をする。

とはいえ、船は盗難防止のために鍵付きの鎖で繋いでるので。

しかも鍵は小屋の中にあるので、取りに行かなくてはいけない。


「ちょっと時間がかかるけど・・・しょうがないか」


階段を上がっていき、小屋の扉に手をかけようとした時だった。







中で、ゴトリと物音がしたのは。

始まりました後篇です

無事に脱出出来るのでしょうか

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