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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
35/42

4/5



何が引き金を引くだけだよ馬鹿野郎。

どっちも同じじゃねーか畜生め。

そんな事をちょっとでも考えていたと思うだけで、そんな自分自身が嫌になる。

まるでおぞましい化け物にでもなった気分だ。



どこからどうやって部屋に戻ったかなんて、そんなの覚えてはいない。

途中、戌江や孤々野とすれ違ったような気がするし。

リンヨウとすれ違ったときは、彼は何か言ってきたような気もする。

だけど正直言って、なんて言っていたのさえも俺はわからない。


幽鬼のようにふらふらと、だけれども足早に廊下を駆けていく。

自室として宛がわれた部屋の扉を力強く音を立てて開けると、ベッドへ思いっきりダイブして頭から布団を被った。




正直言って、その辺にある物でも手当たり次第に放り投げて、八つ当たりしたいようなそんな滅茶苦茶最低最悪な気分ではあるが・・・・・生憎物に罪は無い。

結局被害者はクッション一つ、一発殴った程度で済んだ。

いや、人じゃ無いから者はおかしいよなうん。


布団に包まれても、あのアロマの臭いはもう流石に臭ってはこない。

ああ、流石は偉大なフ●ブ。



まるで寝不足のように頭がグラグラとしていて気分が悪いが、それでも考え事が出来るぐらいには妙にすっきりしていた。

今までもやがかかっていたのが、綺麗さっぱり無くなったような感じだ。


引き金を引く前の、あの魔物の顔ははっきりと覚えている。

吃驚で目を大きく見開いたまま固まっていた彼女の、あの顔が瞼の裏に張り付いて中々離れてはくれない。


そういえば、彼女は飛行船とかひっくるめて全部見えてたよなぁ。なんでだろうか。






・・・・・・・・・・・・



パァンと思いっきり自分の顔を両手で叩く。

ここでグダグダと腐っていたら、結局初日から何も変わっていないじゃないか。


結局引き下がれない所までずるずると引き摺り、ここまで来たのは全部自分。

地下から帰ってきた後からでも充分逃げる猶予はあった。それなのに、もう逃げるの無理だとか何だとかずっと言い訳してて、ココまでデモデモダッテチャンで来た自分のせい。


ハッキリ言ってしまえば、船に乗った以上はもう後には戻れない。それは確実。

今ここにいる以上は、何をどう理由を付けたとしても、戦いに引っ張り出されるだろう。

だったら必要以上に考えず、後は行動あるのみじゃないのか?

そしたら、後は引っ張り出されたその先で、適当なタイミングで逃げ出せば大丈夫だろうか。

その後は・・・・・


そうなったときにまた考えればいい。




─プツンと、頭の中で何かが切れるような音がした─





「・・・・・よし」


覚悟を決めて、俺はさっきの場所に戻ろうと部屋の扉を開ける。

あの魔物の女性は、無事に逃げていると信じよう。


・・・・勇者として召喚されている俺が言うのもなんだけれども。




「あ、ハヤテ・・・・・」


入った時と同じように勢いよく扉を開ければ、ノックをしようとした状態で固まっているリンヨウの姿がそこにあった。

よく見れば、手にはマグカップらしきものがある。


「あ、あの・・・・ハヤテ元気なさそうだったから・・・その」


おろおろとしながら、次にどんな言葉をかけようかと悩んでいる彼に、俺は大丈夫だと声をかけた。


「ありがとうリンヨウ。心配して来てくれたんだよね?だけど・・・・俺はもう大丈夫」


そう言えば、リンヨウはホッとしたようにため息をついた。


「よかった、安心したよ。いつもと様子が違ったから・・・その、怖いのかなって」

「怖い?」

「うん。俺はね、戦うの怖いよ。だって魔物も人も沢山死んじゃうから・・・・まさかあんな簡単に死んじゃうなんて、思いもしなかった。ハッキリ言って、僕は怖い・・・・でも怖くても逃げたくても、目を逸らしちゃ駄目なんだって思った」


そう言ったリンヨウの言葉が、ストンと胸に落ちたような気がした。

あわなかったパズルのピースが、カチンとハマったような感じだ。



「(そっか・・・・俺はきっと怖かったんだ。初日のあの時から、俺はずっと怖がっていたんだ)」


初日から感じていた、なんとも言えないあの感情の正体を、俺はやっとわかったような気がする。


「あ、あとこれ。気分落ち着くかなって思って持ってきたんだけど・・・・・冷めちゃった」

「ううん、ありがとう。頂くよ」


マグカップを受け取れば、ココアっぽい飲み物が中に入っていた。

いや、色合い的にはチョコかなこれ。

少し冷め始めたそれをゆっくりと飲んでいけば、その温もりがお腹に溜まっていくような感じがする。




─プチリと、最後の1本が切れたような音がした─



ふっと視線を感じて廊下の先を見てみれば、孤々野と戌江の二人が隠れながらも(いやバレバレだけど)こちらの様子をうかがっているのに気が付いた。

どうやら、俺は自分が思っているよりも結構心配されていたらしい。


リンヨウは二人の視線を確認すると、グッと親指を上げた。

いや待てグルかお前ら。


しかし、ほっと一息をつく暇すらなく。





-ジリリリリリリリリリリ-



再び鳴り響いた召集のベルに、俺とリンヨウはすぐに身を硬くした。


とうとう島に着いたのだ。

遅れてしまいすみませんでした。

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