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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
32/42

第六話⦅-開戦-⦆1/5




あれから更に数日が過ぎていった。


いよいよ魔王のいる魔の大陸へと、俺達は足を踏み入れる事となったのだ。

魔の大陸への進行は、俺がおっさんと地下をさ迷っていたその日に決まったことらしい。


しかし何故、急に決まったのか。

それは、国王の体調不良が実は魔王の呪いということが分かったから・・・らしい。

事態を少しでもよい方向へと向かわせるために、先ずは揺さぶりをかけることになったのだとかなんとか。


しかも、その大陸への進行にはどうやらフォスファ第一王女も同行するそうだ。

彼女はといえば、視力こそはある程度回復はしたものの、日に日にその体は痩せ細っていっている。臥せている国王ならまだしも、兄弟である王子達が見舞いに行っているのを、俺は今まで見たことがない。



防具や武器は改めて、訓練で使用しているものではなく、それよりももっと上質な実戦用のものを渡された。

いきなり本拠地に攻め入るのではなく、先ずはその手前にある魔物の拠点の一つを潰す予定らしい。

そして占拠したそこを足場にして、魔王のいる城へと徐々に進行していく予定だそうだ。

移動は船ではなく飛行船(のようなもの)で向かうらしく、この飛行船には敵に見つからないように鏡とギフトの力で作り上げた光学迷彩の効果が付けられているそうだ。

他にも、太陽光を利用したレーザー砲のような物まで積み込まれている。


それを聞いて、俺は何とも言えない気持ちになった。



本当に俺達の力が必要なのか。

俺達なんて必要ないのではないのか。

そんな兵器をもってしても魔王には勝てないのか。



そんな考えがぐるぐると頭の中を回っても答えなんて出ないし、それを問いただそうという勇気さえ今の俺にはなかった。






そして俺はといえば、結局はあの地下に丸一日と半日もさ迷い歩いていたらしい。

あの汚水の臭いは服に染着いていて、水でもみ洗いしても取れることはなく。

俺は泣く泣く、慣れていない人ならば耐え難いほど凄まじい悪臭を纏わせながら城へと戻った。


・・・・・あの時の、門にいた兵士達のあの顔は忘れない。

服は結局使い物にならず全部捨てる事となり、俺はといえば風呂を5回も入ってやっとこさマシになった。




あ、フォスファ王女へのお見舞いのことなのだが、材料は結局取り返すことはできず地下にきっとそのままの状態だろうし。

っというかそもそも、あんなひどい悪臭の放つ場所に落ちたものなぞ人には贈れないし。

なので、おれは再び材料を一から買い直す羽目となった・・・・・のはいいのだが。

紙がどの店でも売り切れ状態で(どこぞの金持ちが買い占めたらしい)、俺は泣く泣く戌江に相談した、その結果。

何故か彼が持っていた折り紙用の和紙を使うことになった。

ちなみに柄は淡い京友禅だ。

そしてその会話に、偶然そばを通りかかった孤々野と佐曽利も乗り気になり、4人でお見舞いの品を作る事となったのであった。



俺が黙々と鶴を折っているのに対して、戌江はせっせとバラを折っている。

い、意外と器用なんだな・・・・・立体のバラやリボンなんて、俺は生まれて初めて見たぞ。


孤々野と佐曽利はといえば、俺達の折った物に水性ニス(これも戌江が持っていた)を塗っている。

時折、二人が持っていたラメ入りのマニキュアや爪に使うストーンも器用につけている。


裁縫道具やらTピンやニッパーも持ってるなんて、マジで何者なんだよ戌江お前・・・・



そんなこんなで出来たものは、髪留めやキーホルダーのようなもの。

ネックレスやピアスは、人によっては好き嫌いはあるからだ。

ちなみに俺は、鶴と風船で髪飾りを作った。パールのビーズ等は、戌江が持っていたものを貰った。

・・・・・・・俺はもう何も突っ込むまい。


直接渡すのは、俺と戌江の二人で。


「私達がいきなり行っても、王女様は驚くだけでしょー?」


と、孤々野はそう言って笑いながら、佐曽利を連れて部屋へと戻っていった。

手伝ってくれたことは素直にうれしいが・・・・・

孤々野。お前俺が地下から城へと戻ってきた時に、笑いながら俺にタッチして。


「エンガチョー!」


と言いながら佐曽利と追いかけっこしてたのは、許してないからな?

ってか佐曽利・・・お前もそれなりにノリノリだったよな・・・・・泣きそう。




その後はとりあえず戌江と・・・リンヨウと共に王女のいる部屋へ向かった。


リンヨウ・・・彼のことなのだが、俺は彼の事は信用しようと思っている。

戌江や孤々野に後で聞いたところ、あの各部屋にあったアロマは自分達でこっそりと処分したらしい。

俺の場合は、リンヨウがひっそりと処分してくれた。それを考えれば彼は、少なくともアロマを使う事を気に入ってはいなかったのかもしれない。


まあ、たったそれだけの事なのだが。

こればっかりは、俺は自分の勘を信用しようと思う。









城から出て街を通り過ぎたその場所に、戦場へと赴くための飛行場はあった。

エンベローブは大きいのが二つ連なっており、プロペラがついている。その下にあるゴンドラの底はまるで船の底のようだ。

飛行船とは言っていたが、その形は船に近いのかもしれない。


リンヨウに聞けば、どうやら水辺でも着水出来るような作りだそうだ。

実際に船としても使えるらしい。


そう説明したリンヨウの手が震えていることに、俺は気が付かないフリをする事しか出来なかった。

彼も俺達と同じように戦地へと赴くらしい、フォスファ第一王女の護衛として・・・・・



兵士達が次々と物資や武器等を積み込んでいくその中、皆は勇み足で船へと乗り込んでいった。




いや、皆ではない。

戌江・孤々野・佐曽利・・・


3人とも、俺と同じように不安げな表情で船の前に佇んでいる。

だけれども、俺達はもう後に戻ることは出来ない。

俺達は引き返せる時に引き返すことが出来ず、かといって逃げ出すなんてことも出来ずにズルズルとここまで来てしまったからだ。


それに今更「やっぱりやめます」なんて言えるわけがない。

俺達は互いに顔を見合わせると、重い足取りで船へと乗り込んでいった。





敵の領海へと辿り着くのは、フルスロットルで進んでも丸1日はかかるらしい。

その間は自由行動となり、到着前に再び集合することとなる。

勇者として召喚された俺達は、おそらくはこの船の中でも上級に入るであろう個室へと案内された。



部屋の扉を開ければ、初日に嗅いだあのアロマの臭いがした。

捨てようにも窓を開けることは何故か出来ず、その代わりに俺は弁当を入れるためにずっとカバンの中に仕舞いっ放しだった、チャック付きの袋にアロマを放り込む。

袋はまだ余っていたため、3人にも分けることにした。


・・・・・俺は、正直言ってこの3人以外には近寄りたくはない。

俺達と違い、今までずっとアロマの臭いを嗅いでいた連中は、どこかおかしくなっていた。


まず目付きがおかしい。

どこか血走っているような“正気”を感じさせない視線で、そしてこっちを見ているようで、全然違うところを見ているかのようなそんな狂った目付き。


そして一言目には。

「正義のため」

二言目には。

「魔物は殲滅」


何を言っても、きっと彼らには届かない。むしろ余計なことを言ってしまえば最後、こちらが切り殺されそうで怖い。

流石に俺も我が身は可愛い。





偶然佐曽利が持っていた無臭のデオドラントスプレーを借りて、俺は部屋にまんべんなく振りまく。

そうすれば、部屋に染着いていた臭いが、少しはマシになったような気がした。


ちなみに制汗剤の類は、孤々野も戌江も持っていたそうだが、初日の城内の自身にあてがわれた部屋で使用したその次の日に、“紛失”してしまったそうだ。






どうやら、このアロマには若干の睡眠薬のような効果もあるらしい。

若干臭いを吸いすぎてしまった俺は、そのままベッドに倒れこむようにして眠りについた。









余談だが王女様へとお見舞いの品を送った時、二人とも。


「こんな綺麗なものは今まで見たことがない」


そういって、とってもびっくりしていた。

レジンやマニキュアもいいそうですが

自分はニスをオススメされたことがあります

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