表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
30/42

4/5





「どうやら、そろそろ中間地点のようだな」

「ああ」


カンカンっと音を響かせて階段を駆け上っていけば、そこにはホールのような広い空間が広がっていた。

どうやら、見上げた時に見えた光はこのホールのようなものから漏れていた光みたいだ。

そのホールの中心に、工事現場などでよく見るようなエレベータがポツンとあった。

階段は、このホールのような場所で終わっている。

工事現場・・・というよりは、昔の映画などで見るような古いタイプのモノに見える。

どうやらこのエレベーターは、上の階まで直通のようだ。


下の様子を窺えば、化け物は移動速度を増してこちらへと這い上がってくる。

俺達がいる所とは正反対の場所にいるが、追い付かれるのは時間の問題だろう。



ふっと、自分の身体に何かが巻き付いた・・・・・ような気がした。

化け物の動きが止まる・・・・・というよりは、こっちを見ている?化け物の身体がブワリと大きく揺れはじめた。



その瞬間だった。


化け物の身体がふわりと浮かび、こちらへと飛び移って来た!!

巨体にあった重量の物体が、壁に激突するようにしてこちらの方へとへばりつく。

ズウゥンと階段全体が大きく揺れる。


「アリかよそんなの!!」

「っていうかあんな重量で、どうやってあんな飛距離が出せるんだよ」


地震のように大きく揺れる階段から落ちないように、必死に手摺へとしがみ付く。

そんな俺の足に、再び何かが触れたような感覚が訪れる。

化け物は再び雄叫びを上げると、真っ直ぐにこちらへと這うように昇ってくる。


「おいおいおい・・・これは不味いぞ」

「早く上に・・・“バキン”


ふっと浮遊感が俺を襲った。

どうやら、さっきの揺れで手摺に限界が来ていたようだ。しがみ付いていた手摺が、俺の体重を支え切れずにへし折れる。


やばい・・・というよりは不味い。ここから落ちたら確実に死ぬ!

咄嗟に両手を出せば、運よく突き出たパイプにしがみ付くことができた。

衝撃で体が大きく揺れるが、何とか持ちこたえる。

よかった・・・本当に城で鍛えていてよかった!


下で再び雄叫びが聞こえる。先程までは感じなかった、奴が這い上がって来ている振動をひしひしとその手に感じる。

おっさんの助けは期待しない。俺だって似たような状況になれば見捨てている。

だから、例えこれで死んだとしても恨みはしない。


これは鉄棒の要領だ。懸垂をするようにして腕に力を入れれば・・・下さえ見なければ大丈夫。

プルプルと震える二の腕を叱責しながら、手が滑り落ちないように何とか身体を上げていく。

しかし。化け物が這い上がってくる振動により、中々上手に力が入らない。


「(もう少し・・・あと、もう少し)」


もうそろそろで顎が手の所まで届く・・・・次の瞬間。


化け物の声と共に、再び大きく空間が揺れ始める。

これはさすがに不味い!!

何とか体制を整えようと指に力を入れるが、汗で滑って上手にしがみ付けない。


「(もう・・・・むりだっ)」


ズルリと、俺の指が汗で滑り手摺から離れていった。

一瞬だけ見えた化け物のその背中に、きらりと光る何かが見えたような気がした。












強い衝撃を覚悟していたが、それは一向に訪れてはこない。

恐る恐る目を開ければ・・・・俺の腕をつかんで引き上げようとしているおっさんの姿が目に映った。

あの細い腕に、一体どれだけの力があるのか。

おっさんは、片腕で俺の腕をつかみ。そしてもう片手で自分自身の身体を支えながら俺を楽々と引き上げる。


「・・・もう少し体重は増やした方がいいんじゃないか?坊主」

「余計なお世話だよ・・・・ってかおっさん、逃げたんじゃなかったのかよ」

「お生憎だがな、ガキ一人置いて逃げるほど俺はそこまで落ちちゃいねぇ。それにだな・・・助けんのに理由なんてものが必要か?」

「・・・・」

「さあ立て坊主。さっさと逃げるぞ」


おっさんに急かされるようにして、俺は階段を駆け上った。





「・・・・何だありゃあ」


おっさんはどうやらエレベーターは知らないようだ。この世界にはないのか?

だとしたらあれは、俺達の世界との交流によって作られたもの・・・なのだろうか。


そうこうとしている内に、どうやら化け物は俺達に追いついたらしい・・・

背後で、巨体がズルリと這い上がる音がした。


「・・・本当に、どうやったら出来るんだよあんな行動」

「まあ、その謎は大体検討が付いてる・・・目を凝らしてアイツをよく見てみろ」

「?」


おっさんの言葉に、俺は化け物をよく見てみる。

きらきらと、透明な糸のようなものが化け物の身体から出ている?


「おそらくアレは菌糸体だな」

「なるほど、アレを操って目や手足の代わりにしていたってわけか」


タネは簡単だが、攻略は難しそうだ。

だがしかし、希望はある。


「それはそうとおっさん。手錠の鍵見つけたぜ?ついでに武器もな」

「何?どこだ、どこにあった坊主!」

「あそこあそこ」


俺は、こちらまで迫ってきている化け物を指さす。

その背中、子実体に絡まる形で再びそれはきらりと光った。





「さて、先ずはどうやって回収するかだな・・・」

「俺に任せてくれおっさん・・・身軽さならそれなりに自信はある」

「・・・やれるか?」

「大丈夫。それに・・・さっきよりは掴まりやすそうだしな」

「余裕じゃねーか・・・飛ばすのは任せな」


タイミングは重要。

ポワズンが直接出す胞子でなければ、あの子実体に触れても大丈夫だというのも聞いた。

つまり俺があの化け物に触れたとしても、ミイラ取りがミイラになるわけではないってことだ。


「それじゃあ行くぞ坊主、準備はいいな?」

「ああ、大丈夫だ」

「よし・・・じゃあ・・1・・2・・・3!」


3の合図で俺はおっさんから少し距離をとると、おっさんに向かって走り出す。

おっさんは、手を組んだ状態で中腰に構えた。

俺は減速はせず、そのままおっさんの手の平に足を乗せると、そのままの勢いで思いっきり化け物へと向かって飛んで行った。


若干の浮遊感と共に、俺は化け物のその馬鹿でかい体へと着地した。


うわぁ・・・おぇ。なんかすっごいぶよぶよする。

無数に突き出た子実体に掴まりながら、俺はなんとか目的の場所まで移動する。

どうやら感覚は死んでいるらしい。化け物が、己自身の身体に乗っかっている俺を気にしている節はない。

それはそれで好都合だ。


「おーい、見つけたかー?」

「もうちょっとだ」


おっさんはおっさんで、どうやら化け物から逃げまくっているらしい。

ぶよぶよとする足場を何とか歩いていけば、おっさんの武器と鍵は化け物の首元付近にあった。


聞いていた通り、掌サイズの金色の鍵と・・・銃にしては大きすぎる部類に入るソレがあった。

いや、ってかマジででかいな。大型のごついライフルみたいだ。

俺は鍵をポケットに入れ、銃は持って・・・行くのは無理なので。引きずりながら比較的高低差のない尾の方へと向かうと、そこから一気に飛び降りた。そこから、逃げ回っていたおっさんと合流する。


「あったか?」

「ああ、ほら」


そう言って、俺はおっさんに鍵を渡した。


「よっしゃ、これで手錠とはおさらばだぜ」

「早くしてくれよ?アイツこっちに来てるからな」

「まあそう急かすな・・・・・・・・・・・・・・・あ」

「・・・あ?」



パキンっなんてまるで何かが折れるような音がしたのは・・・・気のせいだと信じたい。


「ってか・・・あーーーー!折れてるよね?それ確実に折れてるよね!?」

「・・・・・目の錯覚じゃね?」

「いやいや折れてるから!現実から逃げないで!!」


元々がもろい作りだったのか、それとも一連のごたごたで止めを刺されたのかは不明だが。

おっさんの手の中を覗けば、そこには見事に折れている鍵がそこにあった。


「どうすんの?」

「まだ手はある。そうだな・・・今度は坊主、お前が囮になれ。この状態じゃあ立って撃てねぇからな。なあに簡単だ、あいつを隅の方に誘導する・・・それだけでいい」

「・・・わかった」


とりあえずおっさんから距離を取り、化け物の方へと向かう。

化け物の動きはそんなに早くはない。俺なら簡単に振り切れる。

俺は急いでホールの端の方へと移動した。

おっさんはというと、俺から離れて座り込むとそのままの状態で銃を構える。どうやら足で起用に固定しているようだ。


先ずは一発目。バンっと、まるで爆発音のような音が鳴り響き、化け物の身体に穴が開く。

ぐらりとその大きな体は揺れるが、どうやら気にもしていない様子。真っ直ぐに俺の方へと向かってくる。

今のはどうやら試し打ちだったらしい。

おっさんは、そのまま俺に合図を送った。



あの巨体をここから落とすには、どうやらもう少しはみ出るぐらいではないと駄目のようだ。

化け物は大きな口を限界にまで開けて、俺へと突っ込んでくる。ギラリと鋭い歯が見えた。

ギリギリのところで俺はそれを避ける。

どうやら突進してくるときは、それなりにスピードが出るようだ。

しかしそのコントロールは上手に出来てはいないらしい。

その巨体は完全に止まることは出来ずに、まるでドリフトをしているみたいに大きく身体を揺らしてから止まる。


あ、いいことを思いついた。


俺は再び、化け物から距離をとる。今度はホールの中央に向かってだ。

化け物は、再びその顔を上げるとこちらへと迫ってくる。


「(離れすぎたら、きっと突進してくる・・・それだとエレベーターを巻き込むから、あまり離れずに・・・・)」


ゆっくりと後ろを確認した俺は、化け物が大体中心の方へと来たのを確認すると、再びホールの端へと向かう。

今度は全力疾走。


獲物にかなり距離を取られた化け物は、一気に差を縮めようと再び突っ込む体制へと移る。

ホールの端の手前、ギリギリのラインで俺は止まった。

そして化け物は、俺に喰いつこうと思いっきり力を入れて飛びかかって来た。

浮き上がった巨体の下、俺はそこへ飛び込むと転がりながら再び化け物の突進をやり過ごす。


どうやら成功したようだ。

急に止まることのできない化け物は俺が端の方へと誘導したためか、グラグラと身体を揺らしながら落下するギリギリのラインで何とか踏ん張っている。

そこへ、止めを刺すように再び爆発音のような銃声が一発二発と・・・休む間も与えずに次々に撃ち込まれていく。


流石に、こればっかりは耐えられなかったようだ。

化け物の身体は今度は大きく揺れると、ぐらりと端から滑り落ちるようにして消えていった

ようやく決着ですね。

銃は本来は軽い乾いた音がするそうですが、おっさんの扱う銃は威力も火力も強いため爆発音のような大きな発砲音がします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ