第四話⦅-聖都市の闇-⦆1/2
この話は結構短いです
エレクの街へと、今日は俺一人で向かう。
臥せっているフォスファ第一王女に、何か元気になる物をプレゼントするためだ。
あれから、俺と戌江はリンヨウと一緒に第一王女のお見舞いへと、ちょくちょく顔を出している。
最初の訪問時には輪からなったが、彼女はどうやら今現在食が喉を通らないらしい。
城に努めている医師が処方している薬を飲んで、やっと今の状態まで回復してきたらしい。
「本当は、こんな薬なんて飲んでほしくはないんですよ」
リンヨウは苦笑いしながらそう言った。その薬はどうやら強い副作用があるらしく、その中には『ギフトが使えなくなる』というのもあるらしい。
それでも最近は、微かにだが視力が回復してきたらしく、段々と彼女の視線が定まってきている。
俺は二度目の訪問となるが、どうやら他の人達は積極的にエレクの街によく行っているらしい。
あれから何日ぶりだろう、20日ぶりぐらいかな。
とはいえ、どうやら全員が全員行っているわけではないみたいだ。
今日は途中廊下で孤々野と会ったが、彼女はどうやら気分的に行く気がしないそうだ。
その理由としては。
「うーーーんと、そうですねぇ・・・・綺麗すぎるから・・・とでも言っておきましょうか」
「?街が綺麗なのはいいことじゃないのか?」
俺がそう言うと、彼女は小馬鹿にした感じで。
「そういうんじゃないんですよねー。何と言いますか・・・・・・・鷹野くんって、意外と“純粋”なんですねぇ?まあ純粋は無知とも言いますが・・・まあわからないのなら、わからないんでいいんですケドー」
そう言って自分の部屋に引っ込んでいった。その時に。
「あー、理由ですね・・・・しいて言うのならあの街、臭いんですよね」
そう言っていた気がした。
臭い?
俺的には、都心にしては、あの街は結構清潔感を保っているほうだと思うんだけれども・・・・
一体、彼女はあの街のどこが気に入らないのだろうか。
さてともかくとして。休憩時間というと、もっぱら城内の図書室か王女のお見舞いだったからな。
本当は、今日は戌江とも一緒に行きたかったのだが。彼は生憎訓練の時に足を痛めてしまい、今日一日は安静にしているように、とドクターストップがかかってしまった。
正直、女性に一体何を買っていけば良いのだろうか。
ウンウンと悩んだ先の末と末に・・・髪飾りを送ることにした。髪飾りっていうか、髪留め?ヘアピンタイプの小さいヤツ。
小さいぼんぼんの下に、小さい折鶴が3つばかし連なっているヤツを作ろうと思ったので、その材料を買いにだ。
レジンみたいなのがあればそれも買っておこうかと思っている。そうすれば、紙は少し丈夫になるからだ。
一回だけ、リンヨウとフォスファ王女の前で折鶴を折ったことがあるのだが・・・・・正直、まさかあそこまで折り紙がウケるとは・・・予想外だ。
現実世界に似ているとはいえ、ここは異世界。
娯楽品用の紙なども、俺の知っている紙とは全然手触りが違う。
一通りの材料を買い、城へと戻ろうとしたときだった。
俺は、ここが異世界だとは認識はしていたが、あくまでも認識だけだった。
現実世界でも、海外旅行等に行く際は、きっと耳にタコができるほど言われていること。それが出来ていなかった。
つまるところ、俺は注意力が散漫になっていたのだ。
ドンっと、背中から誰かがぶつかってきた。
危ないなぁと思いながら、振り向こうとしたその一瞬だった。
左手に持っていた荷物の重みが無くなったのは。
「んん?・・・・ん・・・!!・・・ない!・・・・・・・・ああーーー!!泥棒ー!」
叫び声も空しく、盗人はそのまま振り向きもせずにドンドンと先を走って行く。
だがしかし、過ぎ去る人々は盗人を捕まえるわけでもなく。
かといって盗人を助けるわけでもなく
傍観・・・・・そう、ただ傍観していただけだった。
俺は、そんな街の人達に疑問を覚えながらも、盗人を追いかける準備をする。
舐めるなよ。こちとら徒競走は、運動会&体育大会共に校内で連戦連勝一位独占連覇中なんだよ。
軽くジャンプして体をリラックスさせると、手を地面に着ける。手の開きは肩幅と同じぐらい。
(位置について・・・・よーい・・・)
先ずは、腰を肩までの高さにまで上げて、頭は上げすぎず下げすぎず。
後ろ足は少し曲げて・・・
(ドンっ!!)
腰をそのままの高さで、背中から頭にかけて姿勢を真っ直ぐに。
足を地面から高く上げずに、一歩を力強く蹴り上げる!
俗に言う、クラウチングスタートというやつだ。
足がちょっと速いのが、俺の唯一の長所。これだけは誰にも負けたことはない。
風を切るように、グイグイと先へと走って行く。
周囲の人々の視線が、まるで駅伝のランナーを見ているかのような拍手喝采にさえ思えてくる。
この瞬間が、まるで空を飛んでいるような感じで俺は好きだ。
感だろうか、不意に振り向いた泥棒の顔が驚きに染まるのを確認する。
泥棒は、そのままくるりと向きを変えると、今度は狭い路地へと入っていった。
慌てて俺も路地へと入れば、その狭い路地には恐らくは泥棒がぶちまけたような、様々な物が散乱ししているが。俺はそれらに構うこと無く泥棒の後を追っていく。
久々の“競走”で、こちらは脳内のアドレナリン全開。まさにフルスロットル状態。
普段なら足を引っかけて転んでいるであろう障害物も、難なくひょいひょいと跳び越えていく。
やがて、普通の通路から坂道へ、そして階段になっていたのに気が付いたのは。
泥棒を壁際へと追い込んだそのすぐ後だった。
気が付けば、俺はここが何階層かもわからない場所で泥棒を追い詰めていた。
アドレナリン全開で全力疾走をしたおかげか、顔には出さないが、今の俺は満身創痍。
人間、途中で走りをやめてしまうと、次また走り出そう・・・という気になかなかならないのが悲しい現実である。
しかし、それはきっと相手も同じこと。
うん、見てわかるぐらい肩で息しているし、ゼーゼーと荒い息づかいも聞こえてくる。
だけれども・・・此処は一体第何階層だろうか。
無我夢中で追いかけていたせいか、正直ハッキリ言ってしまえば・・・・
周囲の景色が変わったことがわからないほど、夢中で追いかけまわしてました・・・・
泥棒を視界にとらえながら、ちらりと視界の端で周囲を確認する。
廃墟のように廃れた通路、道にはゴミやガラクタが散乱していて、どこか生臭いようなすえた臭いがする。
これを例えるのならそう、ニューヨークの下水道。・・・・まあ、行ったことないから実際はどんな場所なのかわからないけどね。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・よぉし、追い詰めたぞ・・・それを返してもらおうか」
「・・・・・・・」
悪役臭いセリフというツッコミはスルーの方向で。
「まったく・・・金目のものなんて入っていないってのに・・・」
俺がそう呟いた瞬間だった。泥棒が、こちらに向かって・・・俺に向かって走り出した。
その手には、鈍く光るナイフが握られていた。
「あっぶな!」
間一髪のところでギリギリ避けるが、泥棒はそのまま走っていく。
あ、今のフェイクか!いやフェイントか?
いやいやそうじゃなくって!
「逃がすか!」
そういって俺は一気に飛び掛かった。
今度はガッチリと肩を取り押さえたが、そのまま勢いも誤ってかガシャンと思いっきり壁にぶつかってしまう。
しかしその瞬間、その階層が丸々大きく揺れたような振動が響き渡り・・・・・・
気が付けば俺は、床にぽっかりと空いた穴へと吸い込まれるようにして落下していった。
召喚された勇者達も、なんだかバラバラになってきました。
どんどん雲行きは怪しくなっていきます
さて、次は以前登場したあの人物が出てきます。