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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
24/42

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ここで話は少し飛んで、災害跡地を見学した日から再び数日が経過したある日のことだった。


今日も今日とて、厳しい訓練を終えた時のこと。

ふっと外を見ると、城のはずれ、というよりは離れのほうに一人の兵士が何かを運んでいるのが見えた。というより、運んでいる人物は・・・





「あれは・・・リンヨウさん?」





こそこそと、そして周囲をキョロキョロと見まわしながらリンヨウさんが廊下を歩いているのが見えた。

手には、大きなバスケットを下げている。

布がかかっているため、何が入っているのか中身はわからない。


しばらく見ていると、ふっと、リンヨウさんの前方に別の兵士達が歩いてくるのが見えた。



リンヨウさんはそれに気が付くと、見つからないように物陰に隠れてやり過ごし、そして見えなくなるとまた周囲を気にしながら歩きだしていった・・・・・本当に彼は何をしているのだろうか。





「・・・おい」


かなり怪しい事この上ない行動に、まさか敵のスパイか?!とも一瞬横切ってしまう。



「おい」


いやいやいやいや、ひょっとしたらさぼりとかつまみ食いとかそっちのほうかもしれないし、変に疑うのも悪いだろう、うん・・・


「おい!」

「ぎゃん!!」


ぽんっと軽い感じではなく、パンっと少々強めに肩を叩かれて、やっと誰かが自分を呼んでいたのかと気が付く。

後ろを振り返ると、そこには自分と同じくこの世界に召喚された戌江 久美がそこに立っていた。


自分の反応が遅れてしまったためか、彼は少々機嫌が悪いように見える。



「おい・・・お前何やってんだ?」

「えー・・・っと」


ちらりと、俺の見た方向を見て納得したのか、彼は更に俺に話しかけてきた。



「んで?」

「え・・・そういわれても・・・見られたくないものの一つや二つはあるだろうし」


うじうじと俺が判断を決めかねていると、彼は深い溜息を吐いて、俺の手を掴み歩き出した。


「んなもん、付いていきゃあ良いだけの話じゃねーか」

「ええ、でも」

「ばっかやろう、悩んで無駄に時間つぶすよりかはまだましだぜ。うじうじしてるより、手っ取り早く聞いたほうが楽ってもんだろ」

「うう・・・うーん・・・?」


戌江に引きずられるようにして、俺達はリンヨウさんの後を追いかける。もちろん、見つからないように気を付けながら。



廊下をしばらく進んだその先、恐らくは城の端の更に端まで行ったところで、リンヨウさんは周囲を警戒するように見回すと、とある部屋に入っていった。

俺達は扉に近づいて、そっと扉に耳を当てる。中の様子はわからない。


俺はもやもやとしながら戌江のほうを向くと、彼はなんと、どこから調達したのかガラスのコップを耳に当てて中の様子を聞いていた。


えー・・・っていうかそれいったいどこから。



戌江はしばらく部屋の中を伺っていたが、急に扉から顔を離すと、近くの部屋へと入っていく。俺も急いで後を追うようにして中へと滑り込んだ。そして、扉を少し開けて外が見えるようにする。



そのすぐ後に、リンヨウが扉から出てくるのが見えた。

彼はバスケットを抱えて深いため息を吐くと、来た道をそのまま戻っていった。



その日の夜。


戌江の。

「アイツお前の食事当番なら、その時に聞けばいいんじゃね?」


という全くありがたくないアドバイスを受けて、こうして今に至る。





―――――――――





「ハヤテー、今日はハヤテに聞いた“ワショク”っていうものを作ってみたよ。無い材料のもあったから、それっポイものだけど」

なるほど。


そう言いながら出てきたのは、カルパッチョや魚のステーキのようなもの。キュウリやパプリカ等のピクルス等々。


「“ミソ”や“ショウユ”“カツオブシ”・・・どれもとっても興味があるね。この国にないのが残念だよ。いんすたんとだっけ?ハヤテがくれたあのスープの素はとっても不思議な味がしたよ」

「ありがとう、本当は実物を食べさせたかったんだけど・・・」


俺の鞄には、昼御飯用のインスタントの味噌汁の素や、コンビニ弁当を食べた時の醤油の袋がいくつか突っ込まれている。

鞄を整理したときに丁度リンヨウがやってきて、俺の世界の食べ物や調味料だと説明すると目をキラキラとさせてこちらを見てきたので、しょうがなくいくつか分けたのだが、どうやら好評だったようだ。


というより、彼の料理人魂に更なる着火剤を与えてしまったようにも見える。




と、違う違う。あの時の事を聞かなくては。






「そ・・・っかぁ。誰かが後をつけて来ているような感じはしていたけど・・・ハヤテとイヌコウ様だったのか」

「ごめん。わざとじゃなくって・・・その、結構目立ってたから気になって」


オドオドと説明する俺に、リンヨウは浅い溜息を吐く。


「まあ・・・・ハヤテとイヌコウ様だったら大丈夫かな・・・明日は訓練休みだったよね?そしたら明日、お昼頃にあの廊下で待ち合わせってことで」

「わかった、戌江にも話してみる」





ご馳走様。

俺はそう言ってフォークを置いた。











「・・・わかった」


翌日、早速と部屋へと赴いて話をしてみれば、戌江はただそう言っただけであった。

ってか、確かこの人盗み聞きしてましたよね?


「そういえば・・・」

「あん?」

「戌江は街に出かけないのか?」


ちょっとずれるが、二日目にさんづけで彼のことをそう呼んだら、人一人殺せるぐらいの凄まじい顔で睨みを利かされた為に、以降は呼び捨てで呼んでいる。



「あ?・・・あーーー・・・・・めんどくせえからな」


そう、ポツリと彼は呟いた。そういえば、街によく出かけてるのって四人ぐらいだよなぁ。

そう考えながら待ち合わせ場所に向かう。そこには、リンヨウが昨日と同じバスケットを抱えて俺達を待っていた。


「では、行きましょうか」




昨日と同じように、周囲を警戒しながら進んでいく。

そして再び、あの城の奥にあるあの扉の前へとたどり着いた。

恐る恐るリンヨウがノックをすると、中から。







「どうぞ」


というか細い女性の声が聞こえてきた。


っというより、今の声は・・・・


「失礼致します・・・・フォスファ第一王女様」


そこには、俺達を召喚した第一王女が、ベッドに横たわり、俺達を見ていたのだった。


「リンヨウ・・・今日はお客様が一緒なのですね」

「はい。誠に申し訳ございません、フォスファ第一王女様・・・ご迷惑だったでしょうか?」

「ふふふ・・・いいえ、賑やかなのは良いことです」


二人は話しているが、第一王女様のリンヨウを見ている視点がどこかおかしい。

その違和感は戌江も感じたみたいである、が・・・しかし、彼は何も言わなかった。




「そういえば今年もガーベラの花が満開になりましたよ、フォスファ第一王女様」

「そうですか・・・それは楽しみですねぇ」

「あとですね、実は新しいお菓子を考えたのです」

「そうなのですか、それは是非とも味わってみたいですね」

「あの・・・早く体調が戻るといいですね」

「ええ、でも今日は一番調子が良い方なの」

「えっと・・・・」


二人の会話は世間話から始まり、とりとめのない会話が続く。


だけれども・・・・背中を向けているので此方からは顔ははっきりとは見えないが、リンヨウの背中はどこか泣いているように見えた。


様子を見ていた戌江は、黙ったまま部屋を後にする。俺も慌てて、「失礼しました」と断ってから部屋を出た。

第一王女様は。


「ええ、また来てくださいね」


王女は、こちらを見ているようで見えていない視線を送りながら、そう言ってほほ笑んだ。








「戌江、戌江!お前一体どうしたんだよ?いきなり部屋から出て」

「鷹野、お前は・・・・魔王討伐の話を受けたこと・・・どう思ってる?」


彼は、そうポツリと呟いた。


「俺は・・・誰かが困ってるから助けたいと思って・・・でも後悔はしてない・・・と、思う・・・・けど・・・」


改めて問われたとき、俺はあの時のような決断が出来なくなっていることに気が付いた。

戌江はそれを聞くと。


「・・・・そうか」


そう言ってその場を後にした。そのすれ違いざま。


「俺は・・・・後悔している」


そう呟いて、今度こそ部屋へと戻っていった。


「こう・・・かい?」


でもあの時、はっきりと決意表明はしたはず・・・・なのに。

どうして“今更”そんなことを・・・・




そういえば・・・此処の廊下は、あの甘い匂いのアロマは焚いていないんだな・・・











後日リンヨウから聞いた話によると、第一王女は召喚の際に自身のギフトの力をゴッソリと持っていかれてしまい・・・・・・その後遺症で一時的に視力が無くなってしまったらしい。







なぜあんな場所にある、あんな部屋にいるのか・・・・




リンヨウはそれだけは・・・・絶対に教えてくれなかった。

気が付きましたか?

実はリンヨウと第一王女とのやりとりも何処かずれています。

戌江くんはそれに気が付いたみたいですね。颯くんはその辺鈍感みたいです。



さて、始まりました中編の第三話はこれで完結です

「よかった」「面白かった」と思っていただけましたら、感想やブックマークなどお待ちしております。それが次回への励みになります。


※今現在、書き溜めたものを出している形なので暫くは更新は早めです。



キャラへの質問なども受付中です、お気軽にどうぞ。

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