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不気味なまでに抉られた土地、そこからはただひたすらに、まるで地獄の釜のように延々と灼熱の炎が燃え続けている。
城から1時間ほど車で揺られて辿り着いたその場所。
初日に城の窓から見えた、件の魔王が放った攻撃により不毛の地と成り果てた場所だ。俺達は今そこにいる。
実際に、魔王がどのような被害をもたらしたのか。それを改めて再確認することにより、魔王討伐に向けて気を引き締めるという。これは第一王子の提案らしい。
そこにはアリ一匹通さないとでもいうかのように、立ち入り禁止の塀が天まで高くそびえ立っている。まるでベルリンの壁だ。
とにかくそのぐらい厳重な警備の元隔離されているその場所を、俺達は塀の上から眺める。
さて、改めてこの国の情報を確認しようかと思う。
とはいっても、主にリンヨウから聞いた程度なのだが
この国は千年も昔に、建国者である初代の王ソルティス・ルミニエールの名前をとり、ルミニエール聖王国として誕生したらしい。
現在の王であるソルティス・ルミニエール王は、第27番目の王だそうだ。
ちなみにこの“ソルティス”という名前は、王位第一継承者にしか受け継がれないらしく、就任式の時にこの名前を授かるそうだ。そして、産まれたときに胸に薔薇のようなアザがある人物しか王位を継承出来ないらしい。
なので、アストルフォス王子は第一王子だが、胸にアザが無かったため継承権は無いらしく、名前はソルティスではないそうで。
ちなみに現在継承権があるのは今の所、四男のライト・ルミニエールだけらしい。産まれたときに、胸に薔薇のアザがちゃんとあったそうだ。
ただ一つ、問題があるとするのならばその継承者は、まだ産まれたばかりの赤ん坊・・・だ、そうで。
ちなみに継承権から外れた王子及び王女は、他国に嫁ぐか、又は王の側近として国の繁栄の手助けをするか、の道があるそうだ。
第一王子の仕事は、基本的には王の補佐である。
今のように現王が倒れたとき、そして継承者がまだ幼いとき、臨時で政策をおこなうのだそうだ。
とりあえずアストルフォス王子の姉弟を、上から順に紹介したいと思う。
第二王子、名前はオクスロート・ルミニエール王子
総軍をまとめている大将である。
アストルフォス王子は、爽やか白馬の王子(蝿河談)な感じだが。オクスロート王子はどちらかというと、ガタイの良い爽やか騎士様(蝿河談)な感じだ。
基本的にはフレンドリーで、常に人当たりの良い笑みを浮かべている。
第一王女、名前はフォスファ・ルミニエール王女
この人は、俺達を召喚した人だ。
彼女は普段は聖女として教会などで奉仕活動などをおこない、そして時折様々な事情により教育を受けられない子供達へ、無償で授業等を開いているらしい。
第三王子、名前はルクス・ルミニエール王子
学園に通う首席の優等生、一番ギフトの扱いに長けている。
いわゆる秀才という奴だそうで。
会った事はないので、どういった人物かはわからない。
第二王女、名前はルーチェ・ルミニエール王女
同じく学園に通う才女、一年生ではあるが上級生顔負けの力の持ち主。
こちらも、会った事はないのでどういう人物かは不明。
第四王子、名前はライト・ルミニエール
生後間もない赤ん坊。
現在の王位継承者である。
まだ赤ん坊のため、こちらも会った事はない。
・・・・・・といった具合だろうか。ちなみに僕達の訓練は、サラザードさんと第二王子のオクスロート王子が中心となって教えてくれた。
・・・彼は見た目によらず、スパルタ教育だ。
さて、説明はここで終了。引き続き話を戻すとしよう。
俺達は再び車に乗り、エレクの街へと戻る事になっている。
忘れていた。
エレクの街とは、城下町――城から見えた街のことだ。
災害跡地の見学。それが終わった後はエレクの街を見て回る事になっている。
これはオクスロート王子の提案で。ほぼ毎日の厳しい訓練に耐えたご褒美だそうで。
それを聞いた皆は、ウキウキと浮き足立っている。主に女子が。
アクセサリーとか洋服とか・・・やっぱりそっち系が気になるそうで。
反対に、俺を含む男性陣の反応は薄めだ。まあ・・・ほら、花より団子?
興味関心が強いのは、飲食店の方だなやっぱり。
改めて見ると、エレクの街はとても綺麗だ。白く美しく輝いている。
SF・・・とまではいかないが、街の周囲をとても高い壁がぐるりと取り囲んでいて、時折ダムのように水が壁から流れ落ちている。
空は、透明な天井で覆われている。そのためこの国では雨や雪は降らないし、強風の心配もないそうだ。
街の建物は基本白を基準とした色のデザインで、四角やひし形等といった角のある形の建物が多い。
大体がガラス張りで、汚れ一つともない窓ガラスは、まるでよく磨かれた鏡のように反射している。
空には線路が通っていて、流線を描いたような鳥のような飛行機のような形をしたモノレールが走っている。道はアスファルトではなく、石畳でキチンと整備されていて、正直いうと現代よりも綺麗だ。その証拠に道っ端には塵一つとして落ちてない。
ぶっちゃけて言ってしまえば、正直今の所異世界に来たのだという感覚が無い。
建物は変わっているが、基本的に店や街並みは近未来的なデザインのヨーロッパ・・・といった感じだからだ。
ちょっとガッカリなのと、やっぱり昔のヨーロッパみたいに悲惨な道路じゃなくてよかった、と思うのと半々で複雑な自分がいる。
ちなみに昔のヨーロッパ云々については、汚い話になるので割愛。
もしぐぐるのであれば、食事中以外の時間帯で。
しいて、建物以外で異世界らしさがあるとしたら、それは街の形だろうか。
このエレクの街は階層のような造りをしていて、ここ、地上第1階層は主に城下街のような少し高めの飲食店や様々な店。高級ホテルや貴族達のタウンハウスなどがある。
たとえるのであれば、東京の銀座のようなセレブな場所・・・といったところだろうか。
第二階層からは少しランクが下がり、第一階層と同じように観光向けの飲食店やらホテルなどがあるが、内容は庶民向けになっている。
その下、第三階層も見たような作りだ。
その更に下、第四階層は一般的な市民専用の店などが並び。第五階層から下は市民達の居住区となっている。
余談だが、第一階層からはっきりと見えるのは第三階層まで。
第四階層から下はガラス張りになっていて、あまりはっきりと見えることができない。
というか、よくよく見れば観光客っぽい人達以外は、ほぼ皆白を基準とした服を着ているな、うん。
それが余計に、この街がどれだけ神聖なものなのであるのかと証明しているかのようだ。
・・・と、その中に一人だけとてもよく目立つ男が一人だけいた。
後ろ姿からしか見えないが、身長と背格好的には男に見える。
よれよれの、ネイビーのストライプスーツに身を包んでおり、細身で姿勢が悪い。
なんていうんだっけ・・・そうだ、長身痩躯だ。
しかも縦のストライプ模様のため、余計にガリガリに見える。
ああ、でも確かあれって丈の長いほうが細く見えるとかなんとか。
そして猫背だ。ポケットに手を突っ込みながら歩いているその様は、とてもガラが悪く見える。
スーツと同色の帽子をかぶっているが、その下から見える髪はボサボサとしていてまるで鳥の巣のよう。
とにかくそんな感じの男は、まるで白い画用紙に墨汁を垂らしてしまったぐらいに、かなり異質で浮いた存在だった。
ゆらゆらと揺れるように、ふらふらとうろつく様にその男は、路地裏へと消えていった。
ドイツの絵葉書の中には、ベルリンの壁の欠片が入った透明なカプセルが埋め込まれているのが売られていたりもします。
結構大きかったです。