第三話⦅-第一王女-⦆1/3
それは、ある日のことだった。
いつものように朝食を用意していたリンヨウが、ふっと思い出したようにこう言った。
「そういえば聞いたかい?ハヤテ。今日はあの災害跡に向かうそうだよ」
リンヨウは成人の儀式を迎えるために、兵士として城で働いている。それでもやることは殆どが雑用メインなのだが、一応は見習い兵士として扱われるため大体の兵士達の予定や情報は共有されるのだ。
「災害跡って・・・あの魔王の攻撃を受けたとされる?」
「うん、そうだよ。魔王との戦闘に備えて、実際にどんな被害が起こっているのか・・・今日は改めてそれを確認するらしい」
「そう・・・なんだ」
ニ週間過ぎた後でも、いまだにあの光景は忘れたことがない。
あんな恐ろしいことを平気でやってのけてしまう魔王に・・・・・・はたして俺達は勝つことが出来るのだろうか・・・・?
いつの間にか、俺は不安な顔になっていたらしい。
それを見たリンヨウが、俺を安心させるように話を続けた。
「大丈夫だよ、ハヤテ。正直僕より戦闘の才能あるから」
「・・・・それ、自分で言って悲しくならない?」
「ごめん・・・・・・ちょっと目頭が熱くなってきたや」
「無茶しやがって」
彼は戦闘関係の才はまったくと言っていいほど無い。らしい。(ちなみに料理の才は誰にも負けないそうだ)
試しに、俺の使っている剣を持たせてみた・・・・のは、いいのだが。
まるでなんというか、小さい子供が自身より大きな物に振り回されているような・・・・・なんかそんな危うい感じだったのを覚えている。
一応言っておくが、俺もことさら“力勝負”方面には自信はない・・・・・・・足の速さには自信があるんだけれども。
なので、俺の振るう剣は平均よりも軽い作りになっている。
それも持てないって、マジか。
朝食を食べ終えた後で、俺はふっと、リンヨウに聞きたかったことを聞いてみた。
「そういえばリンヨウ、初日にこの部屋で焚かれていたアロマだけど、最近置かれてないよね?どうしたの?」
「あー、あれね・・・・えっと・・・ハヤテが苦手そうだったから下げたんだ・・・・・じゃあまた夕食の時にね」
「うん、ありがと。またね」
正直、初日はいい匂いだと感じていたアロマも、二日目以降からはなんだか苦手になってきたんだよなぁ。まあ元々臭い酔いしやすかったし、ラッキーっちゃラッキーだったけれども。
ちなみに一番苦手なのは車の中の臭い。
まあとりあえずそんなことを考えながらも、俺は支給された服に手を通した。
この服もまた、良い素材で作られているみたいだ。
二日目以降に渡されたシンプルなこの服は、民族衣装とまではいかないが、主にこの国で着られている服らしい。
白いワイシャツは、まるで羽のように軽くってシルクのような手触りだ。そして何処か清潔感を感じさせてくれる。
ちなみにズボンはシンプルに黒、アラビアンパンツっぽい形だ。
ベルト代わりの布を腰に巻くと、俺はカバンを背負って部屋を出た。
カバンの中身は、初日と変わらない。
なんとなくだけど、これを背負っていると何処か安心するんだ。
ああ、そういえば。
りゅうおばあちゃんのあの小さい巾着袋。返すの忘れてたな。
ヨーロッパの朝食は、日本とは違ってシンプルみたいです