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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
20/42

3/4

今回、勇者召喚のメンバーの名前がわかります




キィンッキィンッ!


剣と剣のぶつかり合う音が鳴り響く。

ここは、城の中にある兵士専用の訓練施設である。


俺は、両手に剣を持った形で対戦相手へと向かい合った。

俺が持っているのは、いわゆる双剣というヤツだ。

通常の剣よりかは小振りだが、その分振りが早いため俺は普通の剣では無くこちらを使っている。

決して、普通の剣が持てなかったからとかではない断じて。


対する相手は、俺と同じく勇者召喚によってやって来た、オレンジの髪のあの不良っぽい人。

名前を戌江 久美というらしい。“くみ”じゃなくて“ひさよし”ね。

彼が手に持つのは、少々重さのあるワンハンドソード。別名をバイキングソードともいう。

今は着崩していた制服では無くて、シャツタイプの彼の学校の運動着と長ズボンのジャージを履いていた。



ジリジリと向き合い、間合いを詰めていく。






────────────────




あれからニ週間が過ぎた。端折りすぎだとかの突っ込みは聞かない!



あれからのことなのだが。まあ当然のことながら、寝る前にまとまらなかった考えなんて、朝を迎えた時点でまとまっているはずがない。


夕食を持ってきたのと同じ兵士が朝食を持ってくるまで、結局俺はベットの上でぼーっとしているしか無かったのであった。



ちなみに朝食は、様々なクロワッサンやベーグルとチュロスっぽいのだった。


パンだけのシンプルなメニューだが、ジャムはマーマレードやチョコ、イチゴなどたくさん種類があったし、何より焼きたてのパンは外はカリカリっとしていて、中の生地とふんわりとしていて・・・ジャムも甘さ控えめであっさりとしていて食べやすかった。



朝食を食べ終えたその少しした後、食事係らしい兵士とは別の兵士が訪れて、俺達は初日の応接室とは違う別の場所へと案内された。


案内してくれた人は、30代ぐらいの、恐らくはそれなりに経験を積んでいる人、だと思う。




その兵士に連れられて、俺達は一度城内から出て城の敷地内の、その更に奥まった場所へと向かった。そこは緑が豊かで、彩りも華やかな花々の咲き乱れる庭園だった。奥の方で、白い石造りの噴水から水が噴き出すのが見える。


そんな美しい庭園を通り過ぎて、さらに奥の方へと進んでいく。





「アリスに出てきそう・・・」


しばらく歩いたとき、優等生風の子がそう呟いたのが聞こえた。

・・・・・なるほど、これは確かに絵本などでしか見たことがないような幻想風景だ。


周囲にはふんわりと、花の甘い香りが漂っている。

木蓮の花のように大きな花弁が、まるで桜のように満開の状態だ。

桜並木のように、俺達が歩いている道の両脇に植われている。

時折風に飛ばされて花弁が舞っているが、花の花弁はユリのような形だが色は桃色の花だ。きっと現代には無いあの花は、あれはなんていう名前の花なのだろうか。



そして、そこから更に歩いた先にそれはあった。

多分城の外れの方まで歩いたかもしれない。



後で聞いたところによると。そこは、いわゆる聖域という場所だったらしい。

普段は鉄の重い門で閉ざされているらしいその場所は、今は俺達を中に招き入れるようにして大きく開いていた。


ちなみに、本来は王族以外はそこに入れないらしく、俺達を此処まで連れてきた兵士は入り口で待機となり、俺達だけでその中へと入って行くこととなった。




門の先は洞窟で、下にはスカイブルーの美しい透き通った水が流れていた。

川というよりは、水路みたいだ。その上に通路の代わりとして、白い石で作られた橋が架かっており、どうやらその橋の上を歩いて先に進むようだ。

洞窟の中だからだろうか、中の空気はひんやりとしていた。



一定の間隔で、青白い光のランプが洞窟内を照らしてくれているためか、すすむのに困るほどは暗くはなかった。


ひんやりとしたその洞窟内は、時折ぴちょんっぴちょんと水滴の垂れてくる音が聞こえてくる。

俺達は、とりあえずその先へと進んだ。




しばらく先に進むと、かなりひらけた場所が現れた。まるで鍾乳洞のように、つるつるとした感じの乳白色の岩肌と、水溜まりのような段々が扇状に広がっている。こういう状態のをなんて言ったっけ?思い出せない。


そのひらけた空間の中は、青白く光るランプがいくつか置かれており、その場所を何とも言えない幻想空間として作り出していた。





「・・・わぁ」





誰かが感嘆の声を漏らした。

とにかくそのぐらい美しい光景だった。これはまさに聖地と言えるだろう。だけれども、ゆっくりじっくり眺めている暇は正直言って今はない。俺達は後ろ髪をひかれながらも、その更に先へと進んでいった。


そんな美しい景色の先もまた、最初の道と同じような洞窟内だった。15分ぐらいは歩いただろう。道の終わりは突然訪れた。





そこは、今まで通ってきた自然にできた洞窟ではなく、明らかに人の手が加わっていた。

丸いホールのような、中世のヨーロッパにありそうなお城の石造りのような、兎に角とても広い内装で窓からは日の光が柔らく差し込んでいる。

ホールの中は水で満たされており、所々で水が湧いているのが見える。なるほど、ここから水が流れてきているのか。うっすらと、甘い匂いがほのかに香った。


いつの間にか、今まで歩いてきた橋の上には真紅の美しいカーペットが敷かれていて、橋のその先、ホールの真ん中は円形の台のようになっていた。

そこに、大きな扉が置かれている。




石で作られた、白くて大きな扉だ。アンティークな彫刻が施されており、上には扇を開いたような、半月形のステンドグラスがはめ込まれたファンライトがついている。


しかし、本来は白く美しく輝いているであろうその扉は灰色に汚れ、所々と薄黒く変色している箇所がある。




そんな扉の前に、第一王子こと、アストルフォス・ルミニエールが立っていた。




「お待ちしていました、勇者様。さあ、どうぞこちらへ」


王子に招かれるようにして、俺達は階段を上がってそこへと歩く。


「この扉が、皆様を元の世界へと送り届けるための扉となっています」

「あの、本当に私達を元の世界に戻しても大丈夫なんでしょうか・・・」


優等生のような子が、おずおずと王子へと声をかける。

その問いに、王子は悲しそうに微笑んで答えた。




「はい。我々は皆さんに事前に確認も取らず、無理矢理招いてしまいました。本当は無理にでもお願いしたいところですが、皆さんの意思を無視するわけにも・・・・大丈夫です、まだ時間はありますから」


そう説明する王子の顔は、どこか辛そうだ。それはそうだ、国を救える勇者。待ち望んでいた人物。きっと俺だったらもっと無理にでも頼み込むだろう。自分達は今、それぐらい手放したくない存在だ。




「さあ勇者様、私が今道を開きますので早く・・・」

「ちょっと待った」

「勇者様?」


扉を開けようとする王子を遮ったのは、あの活発そうなさわやか男子。彼は、何かを決意するかのように少しの間考え込むと、再び王子へと話を続けた。


「魔王退治の話・・・俺は受けるぜ!」


それを聞いた王子の顔が、驚きで染まった。




「し、しかしよろしいのですか?我々も無理には・・・」

「けれど、その勇者召喚の儀式も大変なんだろ?聞いたぜ、俺達を召喚した第一王女様が倒れたって話は。今もまだ目を覚まさないんだってな」




あの王女様・・・そんな酷い状態になっていたのか。


自分の身体がそんな事になってしまうのは、きっと彼女自身もよく知っていたはずだ。それなのに、下手をしたら死んでしまうかもしれないのに、そんな危険なリスクを百も承知で俺達を召喚したのか・・・・







国を、この世界を守りたい・・・・ただそれだけを胸に秘めて・・・



「それによ・・・ほおっておけねーよ。だって、よ。このままじゃこの世界は滅ぼされちまうし、それにいつ次の呪いが襲い掛かってくるかわかんねーんだろ?それに今も魔物のせいで苦しんでいる人がいるんだ・・・たしかに、戦うのは怖いけどさぁ・・・けれども、それで帰れます、じゃあはいそうですかじゃあ帰ります。なんて言って元の世界になんて帰れねーよ・・・・・だから俺は戦うぜ、この世界のために!」

「ゆ、勇者様・・・」

「私も、おずおずと帰る事なんてできません!今帰ったら、絶対後悔する、そんな思いなんてしたくない!」


次に名乗りを上げたのは、優等生風の子だった。ガタガタと震える足を叱責するように立ながら、そう言い切った。


「僕も戦います!困っている人をほおっておく訳にはいきません!!」



次に小学生の子が名乗りを上げる。それを聞いていた残りのメンバーも、次々と名乗り出た。



「自分も戦うぜ、ここで逃げたら男が廃る」

「私も戦うよ。正直言うと・・・うーーーんめちゃくちゃ怖いけど、でも無視することは出来ないもの!」


熊のような体格の人と、狐のような子も名乗りを上げる。不良っぽい人は何も言わないが、それでも一歩下がり自分は帰らないという意思を表している。






残るは俺と・・・同じクラスメートの佐曽利だけ。


「あたしも・・・戦うよ。帰れないわけじゃないんだし」



彼女も手を挙げてそう言った。残るは俺だけだ。







ふっと思う・・・この国で、大勢の人々が死んだ。そしてきっとこれからも弱い人達から死んでいってしまうだろう・・・・あの食事を運んでくれた兵士だって、まだ臥せっている王女様だって・・・・



大事な人を亡くした人もいるはずだ。


きっと。俺のように・・・




もしもそれが未然に防げるのなら・・・俺は・・・おれは・・・・お、れは・・・・・・・・























「俺も戦います、これ以上被害者を出したくはありません」


そう宣言した俺を、佐曽利がチラリと見た・・・そんな気がした。


「勇者様っ・・・・ありがとうございます、ありがとうございます!このご恩は決して忘れません!!」

「ああ、俺達に任せておけって。俺は獅子吼 泰政!これからよろしく!」

「ありがとうございます、シシク様!」

「私は蠅河 由布子。よろしくお願いします」

「はい、僕の名前は九頭龍 雅俊です。頑張ります!」

「自分は熊西紀 知念といいます。不器用な男ですがどうぞよろしく」

「孤々野 玉奈っていいます、よろしくお願いしますね」

「・・・・・・戌江 久美」

「佐曽利 杪です」

「え、と・・・・・・・鷹野 颯です」


「ありがとうございます、ハエカワ様・クズリュウ様・クマニシキ様・ココノ様・イヌコウ様・サソリ様・タカノ様!!」









全員が、魔王討伐を心に決めたその瞬間だった。













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