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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
【夢幻空疎の楽園聖都市】中篇
15/42

第一話⦅-2018年8月03日-⦆1/3



「鷹野 颯」(たかの はやて)、それが生前の俺に与えられた名前だった。

関東にある、県立高校の2年生。

ちなみにクラスは2-6で、一学年8クラスまである。

昨今は少子化で、2クラス程度しか無い小学校や廃校になった高校もある中では、結構生徒数は多い方では無いのだろうか。

ちなみにそのうちの2クラスは女子クラスなんだけど。


まあそれなりに、都心の方にある学校だからかもしれない。

都心とはいえ周囲は田んぼで、窓からは土手が見えるのだが。


利点は、クーラーが無くても涼しいと言うことだろうか。

でも烏が弁当や光り物を狙うから開けっ放しは出来ない。

実際に一度体育の授業の際、窓から自身の体より大きめな袋を咥えて窓から飛び立つ烏の姿は、あまりにもシュールすぎて今でも笑ってしまう。


・・・・良い点を探そうにも、何故かディスリになってしまうな。

これ以上はやめておこう。





電車一本でも乗り遅れれば遅刻確定の、この地元から遠く離れたこの高校を選んだのは・・・・・・

きっと、地元の誰にも出会わないことを、心のどこかで望んでいたからかも知れない。



別にいじめがあったからとかではなく。きっと、どこか誰も自分のことを知らない。


そんな場所へ行きたかったんだ。

そう・・・きっと俺は“一人”になりたかったんだと思う。





中二っぽい?ほっとけ










・────2018年8月03日金曜日─────・




この日はまさに猛暑日だった。

今年は・・・・気温37度?・・・・・・なんて、ふざけすぎてる気温なんだ。

今年は7月に入ってからというものの、去年の記録31度を軽く超えての、いきなりの限界点突破。


これもう日本の気温じゃない。ハワイとかなんかその辺の気温だろ。しかも日本は湿度が高いから、南国特有のカラッとした空気ではなく、じっとりとしたこう嫌な湿度を伴った空気で・・・

これ以上この気温が続いたら、頭がおかしくなりそうだ。28度が涼しいと感じるなんて可笑しすぎる。


そして正直に言えば、30度で猛暑だと騒いでいた昔が懐かしい・・・


本当は、クーラーのよくきいた家でゴロゴロとしたいところだったのだが。

今日は生憎と最後の理科の補習授業を受けに、学校へと行かなければならない日でもあった。



あの・・・・・・まさに肌が焼けている感覚のする燦々と照りつける日の下を、歩かなきゃいけないのか・・・・?


10分外に立っているだけで、汗でシャツが重くなるあの太陽の下を・・・・?




死ぬわ。

いやこれ冗談じゃなくてマジで。


とはいえ、そう文句を言っても補習授業は待ってなんてくれない。

嫌々と俺はベッドから起き上がると、シャワーを浴びに風呂場へと向かった。




女子ではないがさすがにこうも汗臭いと、1日朝晩2回も風呂に入ってしまう。













ちなみに俺に両親はいない。事故で・・・交通事故で死んだ。

それは俺がまだ幼稚園かそこらの時だったと思う。



丁度両親が二人で出かけたときの事。国道を逆走してきたトラックが、猛スピードでぶつかってきたそうだ。

当時はニュースにもなったらしい。

近所に住んでいたおばあちゃんが面倒を見てくれなかったら、俺は一体どうなっていたのかなんて・・・・・・想像はしたくない。



正直言って、両親の記憶なんていうのは殆ど無い。そりゃあそうだ、事故があったのは俺が丁度三歳いくかいかないかの頃だったんだから。

お生憎ながら、俺の記憶はそこまで立派なものでもなかったみたいだ。



事故があってから、俺はおばあちゃんに連れられてこの町にやってきた。


前に住んでいた所は、都市開発の一環で今も都心化が進んでいる。

それに引き換えここは周囲に田畑が多く、比較的のんびりとした印象がある。


今ではおばあちゃんとは、同じ団地の隣に住んでいるお隣さん同士だ。


さすがにいつまでも、おばあちゃんに頼りきりになるわけにはいかないと・・・

高校に入学し、アルバイト先を決めてから俺はおばあちゃんにそう言って、一人暮らしを始めた。



いや、隣に住んでいるから完全な一人暮らしではないのか。



生活費は、両親が残してくれたお金とアルバイトとで何とか生活できている。

今でこそ住む家は別れてしまったが、今でもご飯時や休みの日は互いの家を行き来している。





「壁、抜いちゃおうかしらねぇ」


なーんて言いながら大家さんに交渉しに行こうとしたおばあちゃんを慌てて止めたのは、今やイイ思い出だ。



・・・・・発想が物騒すぎるよおばあちゃん・・・・









そういえば。


両親がいない・・・それを知ると、可哀想と周囲は言うのだが。

一体俺の何が可哀想なのか今すぐ誰か教えてほしい。

幸か不幸かなんて、そんなのは自分自身が決めることであって他人が図っていいものじゃない。

親がいなかろうが、今の暮らしには満足しているので。そして幸せなので、不幸ではない。決して。













───────────────






トースターで簡単に焼いたパンを食べて、俺は学校に向かう準備をする。

バターを塗ってパンを齧りながら、何気なくテレビを見た。




まあこれ、おばあちゃんが「テレビを見ながら食べるなんて行儀が悪い!」と怒られるんだが、気にしなーい気にしなーい。

鬼の居ぬ間になんとやら、だ。

朝はきっちり食べろというのが、我が家の方針だ。どんなに急いでいても、お茶の一杯は飲んで行けというのはおばあちゃんが今でもよく言っていること。




簡単にレンチンしたソーセージをむしゃむしゃと食べて、お湯に溶かしたインスタントの粉末スープをズズッと啜る。


うきみはコーンタイプより、クルトンが入っているほうのが俺は好き。

スプーンを咥えながら、ピッピッと目当てのチャンネルに変えていく。



毎朝よく見るのは、某さわやかお兄さんのいるニュース番組。

これは小学校からの習慣。

昔は動物血液型占いとかやってたよね、ここ。タヌキとかキツネとか。





今日のトップニュースは・・・・・・・・どうやら今週も、相も変わらず同じ内容のようだ。

昨今はどうも珍妙な事件が流行っているらしい。



拘留中の男が脱走したとか、山中で男の子が行方不明になったとか。

そういう類のモノではない。


動物園の動物が忽然と消えたりとか、水族館の魚が居なくなったとか、博物館の化石が盗まれたとか。そんな感じの内容の、ちょっと不思議な事件だ。


大抵の動物園などでの盗難だと、希少な動物や小さい猿とかペンギンとかヤギとか。そういうものを想像する事だと思うが。

この事件において盗まれるのは、殆どが大型の動物。象やサイ。ライオンにハイエナ、豹に虎に蛇・・・といった具合である。


水族館も然り、シャチやサメなどが盗まれている。

博物館も、T-REXやラプトル等の肉食恐竜の化石等々が盗まれたばっかりだ。



そんな事件が今、世界中の動物園や水族館。博物館などで多発しているらしい。


世界を股にかけている専門知識を持った犯罪集団の犯行として、目下捜索中とのことだが、未だにチリ一つとして何の証拠も発見されていないのが現状だ。


今見ているニュースで丁度騒いでいるのは、今年の初めに二度目に発見された世界最大のクジラの化石。

名前忘れたけど、アレだ。クジラが出てくる小説の、作者の名前を由来にしたとかなんとかゴニョゴニョ・・・・・世界的に珍しい全身の化石とか、騒がれていたのは覚えているんだけどなぁ。


とにかくそのクジラの化石が、アメリカの博物館から忽然と姿を消したそうだ。アメリカのなんちゃらな大統領像があるなんちゃらな博物館。なんちゃらな映画2の撮影場所になったあそこ。なんちゃらが多すぎる?まぁ察してくれ。



しかしなんともまあ、化石なんて盗んでどうするんだか・・・・・・・

絵画とか宝石とかならちょっとわかるんだけども。







そう考えながら、朝食を食べ切った俺はプツンとテレビを消した。
















「おや、おはよう颯ちゃん」

「おはよ、りゅうばあちゃん」


いざ学校へ行こうと玄関から出たところで、丁度隣に住んでいるおばあちゃんとばったり会った。


俺はおばあちゃんの事を、りゅうばあちゃん、と呼んでいる。



両親も、俺が生まれる前は散々世話になったらしい。

今年で70にもなるのに、今でもいつも元気に自転車を乗り回している。電動自転車じゃないぞ?普通のママチャリでもない。

なんとギア付きの自転車だ。



どうやら今日は、スイミングの予定らしい。水着の入った、それ専用の透明カバンを肩から下げている。



「夏休みなのに学校かい?」

「うん、補習で・・・」

「そうかいそうかい。お勉強、頑張りなさいね」


そういいながら、ばあちゃんはにこにこと笑いながら、俺の頭を撫でる。

りゅうばあちゃんから見れば、俺はまだまだ小さい子供に見えるらしい。

基本はおっとりとした小柄な人だが、時々前記の様な過激発言もする為油断のならない人物でもある。




俺達は仲良く並んで、自転車置き場へと向かった。



俺は通学では普段自転車は使わないが、こうやって朝に丁度鉢合わせたりすると、、朝の世間話兼見送りも兼ねて一緒に自転車置き場に向かっている。




いや実は2か月前に段差にけっつまづいて、手首捻ったのが心配だとかそんなんじゃないし。


歳の割に骨折しなかったのは、毎日おやつ代わりで食べているニボシと毎日飲んでいる牛乳のおかげだ。

カルシウムは大事にね。





「ああそうだ。今日のおやつは、颯ちゃんの好きなマコロンにでもしようかねぇ」

「おばあちゃんそれを言うのならマカロンだよ」


そうだったねぇ、そう言いながらおばあちゃんは自転車にまたがって走って行ってしまった。



早い、歳の割に自転車走らせるの早い。

しかもちらりと見えたが、ギアは一番重い設定にしてあった。

人は見かけによらないって、まさにこの事だよなぁ。





さて、おばあちゃんの作ってくれるお菓子はおいしい(現実逃避)


シュークリームだってガトーショコラだってお手の物である。

しかもシュークリームに到っては、一度も萎んだ状態の失敗作を見たことがない。いやいやホント。


クロカンブッシュを初めて見たときの、あの謎の感動は今でも忘れないよなぁ。





繰り返すようだが、おばあちゃんは70過ぎている。もういい歳の人だ。






さて、自分も学校に行こうかと、バス停へと向かおうとした時だった。

カチャリと足元で音がした。どうやら何か踏んだようだ。



足元で何かが日の光に反応して、きらりと光った。




「なんだこれ・・・袋?」


そこには、匂い袋のような小さい袋が足元に落ちていた。

完全には踏みつぶしてはいなかったらしい。セーフセーフ。



袋は黒い生地の布で、雪の結晶のような白く淡い色の模様が描かれている。手触りは、ちりめんともシルクとも違う、何とも良い触り心地の生地だ。


ってこれ、おばあちゃんが何時も持ってたやつじゃん。確か鍵に括り付けていた。

携帯・財布を忘れても、いつもこれだけは忘れなかったというのに・・・・・




いや携帯・財布も忘れちゃ駄目だけれど。


よくよく見てみれば、細かく編まれた紐の部分が切れていた。ああなるほど、だから落としたのか。


手に持ってみれば、袋は想像していたよりはちょっと重い。チャリチャリと中で音がする。入っているのはネックレスとか何かかな?




そういえば、この袋について俺は小さいころに聞いたことがある。

おばあちゃんは。


「大事なもの」


そう言って、懐かしいような悲しいような顔で、ふふふと笑っていた。

俺は中を見るような無粋な真似はしない。とりあえず袋を、大事にポケットに仕舞った。



学校から帰ったらおばあちゃんに渡そう。








あ、それよりもバスに遅れる。

市内循環バスだから、今逃すと次は1時間後だ。

俺は急いでバス停へと向かった。



ついぞ始まりました中編です・・・・・始まっちゃったのかぁ。

こちらはゲイルさん改めて、颯くんの話になります。


何故彼は風の村にいたのか。

そして転生する前、一体何があったのか・・・・

それがわかる・・・・・・と、いいなぁ。


書き溜めたものを、ちまちまと修正しながら出しているのでこちらも投稿は早めですしおすし。

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