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「伏せてください!」
その声が聞こえてきたと共に、僕はハッとして反射的に体を伏せた。
体が・・・・動く。
そんな僕の頭上を、剣のように大きな弓矢が次々と通り過ぎていき、髑髏の眉間に深々と突き刺さった。
パリンという音とともに、突き刺さった個所が割れる音がした。
さらに追撃をするように、鎌鼬の様な“刃”を思わせる風が次々と髑髏に襲い掛かり、そして髑髏が怯んだ(ように見えた)その瞬間の隙を突いて、まるで槍の様な大きな矢が刃風を伴って勢いよく打たれる。
勢いは殺されず、バリンッという音がして髑髏に当たると、それを今度は粉々に砕いた。
砕かれるその瞬間、まるでガラスを引っ掻いたような、甲高い細い悲鳴のような音と共に髑髏はゴンっと音を立てて落ちる。
恐る恐る確認すると、どうやらもう動かないみたいだった。
「大丈夫ですか?ゲイルくん」
玄関扉の所にいたのはシエルさんだった。
自分の身体と同じぐらいの大きさの弓をその手にしている。
そういえば、シエルさんは元ハンターだったっけ。
ごめんなさい、今まで正直疑ってました。
「ありがとうございます、シエルさん。僕は・・・」
「話している暇はありませんね、立てますか?」
「は、はい」
どうやら僕は、いつの間にか腰を抜かしていたらしい。
僕はシエルさんに助けてもらい、何とかそこから立ち上がった。
「ここはもう危険です、早く逃げましょう」
「あの、でも母さん達が・・・」
「テンペストさん達なら大丈夫ですよ。島から脱出するための船に乗っています。僕がここに来たのは、もしかしたら息子が戻ってきているかもしれない、とテンペストさんから聞いたので」
「そう・・・ですか、ありがとうございます。ところであれは・・・」
床に転がっている髑髏へと目を向ける。髑髏は、まるで宙に溶けるようにして粒子状に分解されている最中だった。
「・・・あれは〝キ〟です」
「あれが・・・」
母さんから〝キ〟の話は聞いていた、でもまさかこんな事態の中で遭遇するとは思っていなかった。
あれが、ハンターギルドが産まれた理由の一つ。大戦時に作られた敵国の生物兵器。
そしてそれは災害指定のモンスター。一体いるだけで国一つをも簡単に崩壊するという・・・・・・・
「とりあえず、急いで脱出しましょう。ついてきてください」
「は、はい」
僕は急いでシエルさんについていき玄関へと戻る。
外を窺えば、村は先程よりは更に炎の勢いが少なくなったような気がする。
燃えるものがなくなってきたからだろうか。でも、それでも残っている炎の勢いはまだまだ強い。
「シエルくんは怪我は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですか」
「わかりました。本当は脱出用の船が停泊しているところまで飛んでいこうと思ったのですが、地上はまだ炎が激しいので無理そうですね。ですので走って向かおうと思います」
「はい」
「先ずは、ゲイルくんは物陰に隠れていて下さい。僕が少し外を見てきます。安全が確認できたら呼びますね」
「わかりました・・・・あの、気を付けて下さい」
「はい、ありがとうございます」
シエルさんは、僕を不安にさせないようにとニコリと笑い頷くと、玄関から外へと静かに出る。
外の様子を窺い、用心深く弓矢を構えながら、階段を一歩一歩と静かに降りていく。
僕もシエルさんに続くように、何時でも出られるように準備をする。そういえば、あのハンターから貰った双剣が腰にさしてあったっけ?いまだに、ひんやりとしたような、そんな不思議な感覚が伝わってくる。
僕はそう思いながら、腰の剣を確認しているときだった。
それは丁度、シエルさんが階段の中腹まで降りたときだった。
再び、耳飾りがキィインと音を立て始める。
それは、その一瞬の出来事だった。
シエルさんの体を、小さなレーザーのようなものが貫いたのは・・・・・・
「・・・っ!!かはっ」
シエルさんは、そのまま手すりに前のめりになると、そこから吸い寄せられるようにして地面に落下していった。
「し、シエルさん!!」
僕は慌てて下を見る。そこには、体に穴をあけたシエルさんの体がぐしゃりとした状態で地面に転がっていた。
そのぽっかりとあいた胸からは、どんどん血が流れていく。
早く手当てをしないと。
今度こそ飛び出そうとした時だった。
シエルさんの傍に、誰かが立っているのが見えた。
ふっと、その人物がこちらの方へと顔を上げる。
そいつは・・・・・・・・・いや馬鹿なっ。
顔を上げたそいつは・・・・・
僕だ・・・・・