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Rad des Fatalität~希望の風~  作者: 甘藍 玉菜
一章【夢幻空疎の楽園聖都市】前篇
10/42

4/5

再び戦闘回です。





大きい、とにかくデカすぎる。

さっきの2匹も充分にデカかったし、ハンターがその前に退治していた2匹もデカかった。




しかしコイツは、そいつらの比では無い。



発達しすぎたそのサメ肌は、前記のサメ達のような鱗のようなサメ肌ではない。

むしろ鱗を通り越してまるで甲冑のようだ。不気味なまでにどす黒く染まっている。


しかし、その肌の進化が肉体と追い付いていないのか。

体中には、まるで肌がひび割れたかのような亀裂が無数に走り、その裂け目からは赤い肉が見えている。


そして、サメ特有のスマートな体型は最早原形を留めてはいない。全身の筋肉が発達しすぎたかのような、異様なまでに寸胴な体型をしている。

開いた口は大きく裂けていて、こちらも肉が見えている。

異様に発達したその歯はサメ特有のノコギリのような歯では無く、クチバシのような、まるで1枚の刃のようだ。



コイツを例えるとすれば、改造に改造を重ねすぎてしまった装甲車のような魔改造戦車。


モンスターとは、化け物とは・・・

まさにコイツのことを言うのだろう。







「油断するな、また来るぞ!」



さっきまで気を抜いていたせいか、化け物が再び迫ってきた時には反応が一瞬遅れてしまった。

幸いなことに氷の壁が盾となり喰われることは無かったが、盾は最初の一撃で粉々に砕けてしまった。



コイツ、顎の力が強い。



再び僕たちを狙ってか、海中からこちらの様子を伺っているのが見える。

それを狙うようにして、ハンターが氷柱を何本もつくり出すと、ソイツへと狙いを定めて次々と落としていった。



しかし、最初の1匹には突き刺さったそれは、ソイツには何本かは当たっただろう。

しかし致命傷を与えるほどの一撃が当たったとは到底思えない。

つまり、まったくもって効果が無かったのだ。


ハンターが、追撃だとでもいうかのように再び氷柱を降らせる。今度はデカく大量に。



しかし化け物は、それらをまるで馬鹿にするかの如くひらりと身をひるがえして全てを回避する。

図体に見合わずの俊敏さだ。

そしてさらにその身をよじり、まるでお返しだとでもいうかのように、その太く丈夫に発達した尾を思いっきり岩肌にぶつけたのだ。



崖全体が、まるで地震でも起きたかのようにグラリと揺れるのが解る。縄もそれに合わせて大きく揺れるが、どうやら今回の縄は丈夫らしい。

上でクロームとフウの、二人の悲鳴が聞こえるが、どうやら安全圏まで避難しているみたいだ。


崖が崩れ、岩が下にドボドボと音を立てて落ちていく。




下のハンターを目で確認すると、どうやら落ちてきた岩は全て回避したようだ。

しかし彼は縄から離れ、海面近くの先程とは別の岩場にいる。




再び化け物が動いた。

今度はハンターを狙うようにして、尾を彼に向かって振り上げた。


「危ない!」


ドゴォッという音と共に、彼のいた岩場が完全に崩れたのがわかった。

しかも今のはさっきの体当たりよりも強かったらしい。

今度は崖が、更に激しく大きく揺れた。

岩肌には大きな亀裂が入り、いつ何時崖が崩壊してもおかしくない状態になる。





そしてその揺れに合わせて、ギシリと縄が大きく揺れ、僕とセイルは宙に投げ出されるように浮き上がる。


マズイ、このまま行けば崖に叩きつけられる!

咄嗟にセイルを守るようにして、ぎゅっと抱き締める。




僕は衝突を覚悟したが・・・・・・・




訪れたのは、ボスンっという冷たく柔らかい・・・

そう、まるで新雪に飛び込んだような感触だった。

というか、雪の中に実際に僕たちは埋もれている。



え、雪?今夏なのに一体何処から・・・

まるで岩肌から現れたかのように、そこには雪の塊があった。



「なんで雪が・・・・」



僕はとりあえず腕の中にいるセイルを確認する。

どうやら気絶してしまったらしく、規則的な呼吸音が聞こえてきた。

化け物は、今度は目視出来ないほど深く潜り込んだらしく、その姿を確認することが出来ない。



海の上に、氷の塊が浮いているのが見えた。

その上にハンターがいる。


どうやら彼も無事だったらしい。防寒具のような外套を脱ぎ捨てると、その中からまるで雪のような白い防具が現れた。

ドイツの黒軍服のような、アレを白に反転したようなデザインだ。ベルトなどは青で統一されている。

長い裾をバサリとはためかせて、彼は氷の上に立っていた。



今更すぎるが氷も雪のどちらも、水の魔力の進化先の一つである。

しかし同時にこの二つの習得は難しい。

何故ならこの二つは水が元となっているが、似ているようで作り方は全然違う。

氷を魔力で作る場合。中心に核を作り、その周囲に水を集中させて魔力によりその水を凍らせている。


だが雪の場合。

周囲に細かく魔力を分散させ、“空気中の”水分をその分散させた魔力により凍らせているのだ。


この人は多分、雪国の方の種族なのかもしれない。



とりあえず、今はセイルを安全な所に避難させなければ。僕は急いで縄を登ると、クロームとフウの元へと向かった。




「にーにぃ!」

「にーにぃいきてるぅ!」



どうやら、こちらはこちらで怖かったらしい。

二人は木にしがみついていたが、僕の姿を確認すると一目散に駆け寄ってきた。僕も思いっきりしがみついていてモフモフとしたいところだが、生憎そんな暇は無い。


今は、猫の手も借りたい。




「3人ともよく聞いて。母さんとアネモスさん、それかシエルさんを呼んできてほしい。出来るね?」

「え・・・にーにぃは?」

「お兄ちゃんは、母さん達が来るまでハンターさんの援護をしているよ」



弟妹達は、何か言いたそうにしていたが、やがて一目散に港へと走って行った。僕も、出来る事をしなければ。

正直もの凄い怖いけど。


今、手元には。漁用の銛と網と縄がある・・・・・・・そうだ。




僕は急いで崖の方へと戻る。

丁度、サメがハンターのいる足場を狙って飛び掛かった所だった。

いや、ソイツをもう“サメ”と呼んでも良いものなのだろうか。


ハンターは、瞬時に別の場所へと氷の足場を作るとそこへ飛び移る。そして、大口を開けて飛び掛かったサメへと、さっきまで自身が立っていた足場を巨大な杭に作り替えると、その口目掛けて落とした。

バリンッとサメが氷を噛み砕く、しかしどうやら口内は表面より柔らかいらしい。海中へと潜ったサメの口からは血が流れるのが見えた。


化け物のように進化を遂げたこのサメは、寸胴な外見とは裏腹に俊敏さが上がっているらしい。

そして装甲のような肌もあいまってか、中々トドメの一撃が出来ないでいるのだ。



だけどもし、一時的にでもこのサメの動きを止めることが出来たら・・・・傷のようにひび割れた肌から見えるその肉へ思いっきり氷柱を突き刺すことが出来たら?




「ハンターさん!」


僕は急いで彼に声を掛けた。いくらプロとはいえ、魔力にも限界というものはある。


「なんだ、どうした小僧!?」



どうやら3つめの足場らしい、そこに彼はいた。

流石に疲れてきたのか、肩で息をしているのが見える。




「僕が足止めをします、一瞬でも動きを止めるのでそこを狙って下さい!!」

「・・・わかった、だが無理はするなよ?」

「はい!」


僕はそのまま、再び海へと飛び込んだ。今度は風を纏わせた状態で。


海中は、相変わらずサメの血と砂埃で濁り視界が安定しない。先ずはこれをどうにかしないと。

僕は、渦を複数作るとそれを分散させるように放った。

これは、今僕が出来る精一杯の大技だ。


分散させた渦は、血と砂埃を巻き込むようにして渦を巻く。

やがて渦により血と砂埃は拡散され、海中は先程よりは幾分かマシになった。


そして僕の視線の先に・・・・・・化け物のように変貌を遂げたカルカロクレスが現れる。


ゆっくりとこちらを、吟味するかのように様子を伺っている。

ゆっくりゆっくりと僕の周囲を探るように回るように・・・・・・・









そして勢いよく大口を開けて、猛スピードで襲い掛かってきた!

僕は自分の身体に纏わせた渦を最大限に大きくすると、その状態で更に足に渦を集中させて、スクリューのようにして回避した。

だけどこれで終わりじゃ無い。


先程、僕の体を支えていた縄。

片方は崖の上の木に結び、もう片方には網を括り付けてある。

回避する寸前、そしてサメが僕の真横を通り過ぎるその一瞬。


僕は、網に渦を纏わせてサメの尾ビレへと思いっきり放った。


渦を纏った網は、グルグルと尾ビレへと巻き付く。

やがてピンッと縄が張り、まるで釣られた魚のようにサメの行動範囲は狭まった。

釣りをした人ならわかるかもしれないが、この状態の魚は危ない。

釣り糸から逃れようとするように、サメがバタバタと暴れ出した。


最大限に身をよじり、必死に抵抗する。流石に巻き込まれたらたまらない。

僕は急いで海から、近くの岩場へと上がる。それは、それとほぼ同時だった。


海から上がった僕が見たのは、空中一面に並んだ氷柱だった。

まるで某ゲームのキャラが繰り出す必殺技みたいだ・・・・・そういう考えが頭をよぎった僕は、きっと疲れていたに違いない。


アイツの必殺技って、なんて名前だったっけ?




慌てて岩場によじ登ると、身動きのとれなくなったサメ・・・そのひび割れたような肌から覗く軟らかい肉。

そこ目掛けて氷柱が、数え切れない数の氷柱がサメ目掛けて降りそそいだ。





周囲は静けさに包まれている。

サメに絡ませた縄を見ると、だらんと緩んでいた。今度こそ終わったのだろうか。

ハンターを見ると、小さな足場を作って崖の方へと移動していた。




僕も戻ろう、そう思いサメに繋いであった縄へと手をかけようとしたときだった。


ビンッと縄が張り、下へ下へとまるでサメが逃げようとしているかのように張り詰める。



「うわあっ」


サメの強い力により、再び崖が大きく揺れる。

まずい、ココで逃がしたら今までの苦労が!



「・・・これを使え小僧!」


崖の上からハンターの声が聞こえた。


目の前の空気が一瞬で冷えたそのあと、目の前に二振りの剣が現れた。

空気中の水分が凍ってできたそれは、まるで牙のような形をしている。

護拳と刃の部分がくっついたような、そんな形だ。


僕は咄嗟にその剣を握った、不思議と手に一瞬で馴染んだような、そんな不思議な感覚がする。

しっかりと握りしめているのに、氷のあの独特な刺すような痛い冷たさは感じられない。

むしろ、魔力が込められているからか、若干熱を持っているような感じだ。



「私は体質的に泳ぐことができん、ソイツは弱っている。小僧、お前がトドメを刺せ!!」

「・・・・わかった!」


僕は、双剣を再び握り締める。サメを繋いでいる縄は、今にも千切れそうだ。

僕は覚悟を決めると、三度目の海へと飛び込んだ。


海中はカルカロクレスの流した血で更に赤く染まっているが、下へと潜ろうとしているソイツの姿は今度はハッキリと見て取れた。

満身創痍、瀕死の重傷・・・食へと貪欲に動いていたその本能は、今は生への逃走として体を動かしている。


やがて、死に物狂いに逃げようとしていたサメと目が合った。感情の無い真っ黒に染められた目だったが、僕はその目の奥に、僕とハンターに対する強い怒りがあるように見えた。

サメはその動きを止めると、僕の方へと頭を向ける。


それは僕を食用では無く、自分自身をこんな状態にした仇への殺意に満ちていた。










やがてその時は来た、サメは再び僕の方へと向かってくる。



再び僕へと襲い掛かってきたサメをかわす。今度は腹の方へと潜り込むように。

そして素早く体勢を立て直すと、サメの突進のそのままの勢いを利用して、柔らかくも固くもない喉元へと、ひび割れた肌の隙間を目掛けて刃を突き立てた。


ズプリと、鈍い何かを切った感覚が手を伝うのがわかる。

ブチブチとその喉を引き裂くように僕は、体を持っていかれないように剣に力を込めた。





そしてサメは、そのまま深い海へと沈み今度こそ2度と襲っては来なかった。










    







僕がハンターに助けられながら崖を登ると、丁度弟妹達がシエルさんを連れてきた所だった。


とりあえず、僕は再び説教モードに入った。







──────────────





シエルさんはちょっとオドオドしながら、僕達を見守っている。



「おい小僧、気持ちはわかるが、そんなにガミガミ怒鳴っていてはチビ共も言いたいことが言えまい。もう少し冷静になれ。約束を違えてまで行動したということは、そうするほどの、そうしなければならないほどの理由と覚悟があったはずだ。先ずはそれを確認してからでもいいと思うが?」



背後からかけられたハンターの言葉に、僕は少し冷静になった。確かに、この子たちは今までこんな感じで約束を破ったことはなかった。

いや、部屋の掃除だとかちょっとした悪戯だとか、そういうことでの些細なことなら何度かあったが。


今日みたいに、命の危機になるようなことは一度だってない。

僕は、少し息を吸って吐いた。

しゃがんで、ちび達に目線を合わせる。



「・・・今日は本当にどうしたんだ?今までこういう約束は破ったことがないだろ?」

「あ、の・・・それは・・・」


言いよどむ弟妹達に、ハンターはハンターで思うことがあったのかさらに助言する。



「チビ共、小ぞ・・・お前たちの兄は、お前たちを心配してこそ怒鳴ったのだ、嫌いだから怒鳴っているわけではない」



それを聞いて、ポツリとクロームが呟いた。




「だってきょうにーにぃの・・・にーにぃの・・・たんじょうびだったからぁ」


たんじょうび・・・タンジョウビ・・・誕生日。

そうだった・・・今日は僕の誕生日だったんだ


どうにも10を過ぎた辺りから、自分の誕生日が曖昧になってきた気がする。



「にーにぃは、なしだいすきだから、でもなしないしおにいちゃんざんねんそうだったから・・・よろこんでほしかったからぁ」


ぐすぐすと泣きながら、クロームはそう言った


「そ、か・・・ごめんな、ありがとう。でもお兄ちゃんはお前たちに何かあってほしくないんだ、だからもうこんな無茶はしないでくれ・・・でもお兄ちゃんは気持ちだけでもすごく嬉しいよ」



拳を落とした箇所を、今度はゆっくりと撫でてやる。

ちび達はシュンとしているが、若干うれしさで羽毛が膨らんでいる。




 

もちろんその後合流した母さんに、ちび達と、そして無茶をした僕も含めてこってり絞られたのは言うまでもない。




しかしまだ、油断は禁物ですよゲイルさん。

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