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不正な介入の末路

 俺は山に仕掛けた害獣駆除の罠を全て確認して麓に降りた時、あの神を気取るAIの放送をFMラジオで聞いた。


 最初は全く信じて居なかったしゲームのCMか何かだと思っていたが、数分後には状況は一気にに変化して、世界中に現れたモンスターと呼ばれる存在が、自らの前に現れた事で事実であると思い知らされる事になった。


 モンスターは人口が多い都会ほど数が多くなり、かつ強大な力を持つ凶暴な物が多いらしく、初日に東京は恐竜のような、ドラゴンと呼ばれる大型モンスターの大量発生で機能を停止して、日本は政治の中枢を喪失した。


 そんな混乱の火中に有る日本では、『オーク』や『転生者』などと呼ばれる奴ら、神気取りのAIが作ったゲームのプレイヤーは互いに争い、同時に他の人間たちを自身の欲望の糧とするため虐殺し、時に奴隷にする非道を繰り返していた。


 俺が住む神山村は都会から離れた田舎、政令指定都市と言われるような都会は高速を使っても三時間はかかる僻地、お陰で散発的に発生するモンスターもかなり弱いモノしか居ない。


 今の所、『オーク』も『転生者』もそんな過疎地である神山村には姿を見せることはなく、俺はあの巫山戯た報道の後も、なんとか捕まらずに生きている。


 だがモンスターの脅威が無くならない限り、そう長くは生きる事は出来ないだろうと感じる程に、現状は絶望的な状況だ。


 最初に現れたモンスター……、それはチンパンジー位の大きさの醜い顔をした奴でラジオの情報を元にするなら[ゴブリン]と呼ばれる最も弱い存在らしい、と倒した後の放送で聞いた。


 偶然にも軽トラに乗っていた害獣用の槍と、藪を切り払う剣鉈があったので辛くも撃退することが出来たが、奴らは俺の住む集落の足腰の弱い老人達を数の暴力で襲ったらしく、戻った時は集落で生き残ったのは俺だけだった。


 集落中を我が物顔で歩き回る奴らを軽トラで跳ね飛ばして進み、その血肉や骨が詰まって動かなくなるまで跳ね飛ばし、そのあとは槍と剣鉈で何とか追い払いながら、一軒一軒を巡り生存者を探した。


 俺が確認した時には既に村は壊滅して生存者は誰一人残っていなかった。


 それどころか奴らは人を、俺の恩人達を、隣人の遺体を貪り食っていたのだ。


 目の前で繰り広げられるあり得ない現実、遺体を食い千切ろうとしている[ゴブリン]たちを我武者羅に殴り、槍で刺し殺し、村に残っていた隣の老夫婦の軽トラで轢き殺して周り、俺はどうにか大恩ある人達の遺体を守ろうと必死に戦った。


 だが多勢に無勢の現実は、そんな俺を願いをあざ笑うかのように、奴らはいくら殺しても減ることもなく湧き続け、そこらじゅうの家で皆を食っていく姿に出くわした。


 疲労と嫌悪感からか足がもつれ何度も倒れそうになる中で、奴らを追い払おうと駆けずり回っても全ての遺体を守る事はできず、日の暮れた頃には殆どの遺体とゴブリンは姿を消していた。


 村中のどこもかしこも血まみれで、所々火災を起こして真っ赤に染まり、平和だったはずの集落は悪夢としか言えない有り様、まさに魔女の釜の底もかくやという状態だった。


 その中で俺はたった一人だけの生存者として、怒りと悲しみで泣きながら僅かな希望を握りしめて生存者を探しまわったが、何度も何度も胃の中身を吐き出して端から端まで走り回っても、変わり果てた集落には誰も生存者は居なかった。


 理不尽な絶望だけが暗い闇を残す中、それでもあの醜い化け物達、ゴブリンが来た時の事を考え、半壊した軽トラの中で震えながら、孤独感と泥のような疲れとともに眠りについた。

 

 それが世界が変わってしまったあの日の記憶、この時の俺は「これ以上の地獄は無い」と、何度も悪夢にうなされながら、それでも明日は絶対に僅かに残った肉片でも何とか弔いたいと思っていた。


 だがそんな俺の小さな願いすら、この世界には甘すぎる理想、愚かな願いだと現実が襲ってきた。


 次の日はもっと悲惨だった、ゲームでは最弱等と言われる[スライム]と呼ばれる粘液の塊の様な存在が、村に残った血の匂いを嗅ぎつけて集まってきた。


 奴らは動きは鈍重だが、槍で刺そうと柄で叩こうと一切の効果が認められなかった。


 どんなに攻撃しても怯みもせず近寄ってくる上に、強酸性なのか狩り用の槍が直ぐに錆びて使い物にならなくなり、俺は周りに集まる不気味な半透明の粘体に追い詰められていった。


 こいつらの中で溶かされて死ぬ、俺の最後はそうなるのだろう。


 そんな己の最後を諦観した時、少しでも情報を集めようとして付けっぱなししていた軽トラのラジオから、[スライム]は火が効果的だいう言葉と「どうか生きる事をあきらめないで」という誰かの願いが俺の耳に届く。


 その言葉を聞いた瞬間、俺の心になんとしても生き残りたい、生き残って村の皆を弔いたいという気持ちが蘇って全身を駆け巡り、まるで炎ような熱さが胸の中に湧き上がった。


「こんな、こんな終わりが納得できるかあああ!!!」


 自らを溶かし喰らおうとする粘体、迫り来る死の気配の間をすり抜けて、途中で奴らの吐き出す酸で手足を何度も焼きながら走りぬけて、何とか納屋に駆け込む。


「これでっ、これでお前ら全てを焼いてやるッ!」


 俺は目の前にあったガスボンベで動くタイプの草焼き用のバーナーを右手に、農機具用のガソリンが残された携行缶に手を伸ばし、入っていたガソリンを周囲にばら撒く。


 ゆっくりと迫り来る奴らを睨みつけ、気化したガソリン特有の匂いに包まれながら、俺は手に持ったバーナーに着火した。


「殺してやるっ、焼き殺してやるっ!」


 辺り一面の不気味な粘体が言葉など理解できないと解っていながら、叫びながら操った炎は奴らを焼いた。


 ラジオで流れた情報は正しかったらしく、突いても殴っても何ともなかった化け物共が初めて怯みだし、炎の中で小さくなっていくのが目に映った。


「バケモノがっ、人間を舐めるなッ、貴様ら全部燃やし尽くしてやるッ」


 効果があると分かった俺は納屋から納屋へと走り回り、そこにある可燃性の燃料等をぶち撒けながら、目の前の不定形の化け物どもを炎の中へ叩き込んでいく、途中で自身も火傷を負うがそれすら構わずに焼き殺していく。


 そうして奴らを燃やしながら炎を撒き散らして何件目かの納屋に辿り着いた時、何か耳の奥を直接触られるような奇妙な違和感が生まれた。


『警告 このエラーメッセージは不正な(チート)介入ログオンを行ったユーザーに対して送られる警告です』


 違和感わ無視して再び走り回り燃料をぶち撒けながら[スライム]を燃やし尽くしていると、怒りで真っ赤に染まった頭の中に、更に奇妙で不快な 幻聴が鳴り響く。


『警告 不正な(チート)ユーザーに警告します、貴方の階位(レベル)上げ行為は認められていません、直ちに活動を停止して不正な階位(レベル)上げを終了してください』


 脳に直接響く癇に障る声に、俺は怒声で持って応える。


「黙れえええええええ!人間を、人を舐めるなあああああッッッ!!!」


 身体の中で何かが断続的に切れる音が響き、その音と一緒に視界が真っ赤に染まる、それでも俺は構わず奴らを燃やし続ける。


『警告 これ以上の不正チート行為は身体に重大な危険を及ぼします、直ちに活動を……』 


 何度も何度も同じ台詞が脳内に響き、全身に激しい痛みが駆け巡るが気にしない、激しい動悸で心臓が破れたっていい、こいつらを俺は、俺は、絶対に赦せない!


『緊急事態と認識し、不正(チート)プレイヤーの周囲五キロのモンスターをデリートし、不正チートプレイヤーを強制停止します』 


 最後にそんな声が響いたと思うと、まるでゲームのリセットボタンを押したように、まるで何もなかった様に化け物どもは姿を消した。


 奴らが消えたことを認識した瞬間、俺は全身に古い配電盤が漏電した時のような電気ショックを、耐え難い激しい痛みを感じる。


「アッ、グ、ガッアアアアアアアア!!!!!」


 その威力はどんどん上がり続ける中、このまま意識を失う訳にはいかないと悲鳴を上げて耐え続けるが、終わり無く上がり続ける痛みのボルテージにとうとう耐え切れなくなって、俺は意識を手放してしまう。


『対象の不正(チート)プレイヤーの停止を確認、ゲーム内容をロールバックします』


 電子音声じみた幻聴の言葉は、まるで邪魔者が居なくなったと言っているようだった。


 これが意識を失う寸前に聞いた最後の音声で、その巫山戯た内容に俺は文句の一つも言えず、二度と戻って来ること出来ないであろう、終末の闇の底に沈んで行くのだった。 

なろうテンプレらしくオークでも転生者でもない、ただの一般人である彼の運命はここで終わりを迎えます。

彼が迎えた救いのない終末に不満がある、納得出来ない方はアナザーへお進みください、その他の方は続きをどうぞ。



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