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満月日和  作者: 海月 星
第一章 生と死と
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プロローグ

初投稿です。暖かかい目でお願いします。

 ──死ねればよかった。


 全てを諦めて、何もかもを手放して、自分の出来る事だけを見て。

 元より自分の手には終えない事だったではないか。

 それがいつ、どこで、どうやったら『出来る』と勘違いしたのか。

 馬鹿らしく、憎たらしく、虚しく、悲しく。

 体を動かす事が、息をする事が、生きている事が、苦痛に塗れている。


 ──心が摩耗する。


 擦れて、千切れて。

 流れる血液はただ痛みを循環させているだけだと錯覚してしまう。

 体も神経も五感も感情も常識も認識も記録も意思も思想も願いも手を伸ばしたという事実さえ屋上から真っ逆さまに落ちて壊れたガラス玉のように。

 最早砕け散った理性の破片は単純な意思、否、単純な多くの感情が模様のようにこびり付いた。


 ──神経が麻痺する。


 噛みちぎられた左腕が上がらない。

 涙を拭う為の両腕は使い物にならない。

 血が滲み、肉が裂けて骨が見える。

 熱い。痛い。苦しい。

 だというのに、それすらも覆うような激しい憤りと悲壮。

 肉体的な痛みを凌駕するほどの感情を今まで持ったことがあっただろうか。

 平和な世界で、平和な日常で。理不尽に立ち向かおうとその手を伸ばしたことが、あっただろうか。


 ──嫌だ


 声にならない声が、言葉にならない旋律が。不穏な悲しみを孕んで響き渡る。

 純粋な思いは叫びとなって。どす黒い感情は涙となって。

 それでも消えない激情は、胸の中で自身を嘲笑うかの如く荒れ狂い続けた。


 ──助けて


 咆哮と呼ぶに相応しく、されど誰かを戦慄させるものではない。

 吐き出される叫びは誰に聞かれる事もない。

 虚しく空に消えていく。

 彷徨い続ける亡霊のように。魂のない生者のように。

 そして、行く宛のない赤子のように。

 叫びはただただ、大きくなる。


 ──痛い嫌だ苦しいなんでだって苦しいなんで私が誰が悪い誰を恨めばいい何を恨めばいい自分は何もできなかったあいつは何もしなかった恨む何を苦しいだって自分は痛い正義の味方なんかじゃない苦しい嫌だ誰が悪いなんでこんな苦しい嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ──!


 混ざり合った感情が大きな吐き気を呼び覚ます。

 胃の中にあるもの全てを撒き散らしてしまいたい。吐き出して喚き散らして。何も知らなかったと公言したい。

 けれど体は意に反してそれを行わない。

 行き場を失った醜い吐き気は胸に無理やり居場所を作る。

 それが自分への戒めだとつきまとう。

 隣で流れ行く川は、美しくも儚い朝日の光を反射させていた。

 木々の間を風が通り抜け、梢がそれに伴い揺れ動く。

 よくある風景。

 かけ離れた日常。

 何よりも、美しい眺めだ。

 けれど自分だけが、世界からきっぱりと切り離されたようだった。

 誰もいない。誰も知らない世界。そんな空間だった。


 本当なら今すぐ立って“あの人”を探さなくてはならないのに。

 一秒でも早く、“あの人”の元へたどり着きたかったのに。

 手を伸ばして、もう一度笑って『ありがとう』と伝えたい。『ごめんなさい』と伝えたい。

 なのに。実際は無様にも地面へ這い蹲り喉が引きちぎれるほど叫んでいるだけ。

 ただ、それだけ。

 脳に制止を求め、痛みを発する喉。

 焼きつくような痛みは、しかし、制止する価値の無いただの痛みだった。

 手に、服に、顔に、体に。

 こびり付くアカイエキタイが血生臭い悪臭を漂わせる。

 服の裾は悲しいくらいに引き裂かれ、そこから見える痛々しい傷の数々に目を向けることはない。

 絶え間なく溢れ出す液体にすら、感覚を許さない。

 【敵】を殺して【敵】に切り裂かれ。

 どちらともわからぬドス黒い液。

 それが何より怖かったのはつい最近の事だというのに。

 誰かを切り裂くのも、誰かに切り裂かれるのも。その後、溢れ出すエキタイも。ただただ怖かった。

 なのに今は何故かそれが気にならない──気にする事ができなかった。


 自分の中の“ナニカ”が歪な物へと変形していくのがわかる。

 自らの手で憎むべき相手の首を締め付けるように。その大切な、大切だった“ナニカ”を握り潰す。

 狂気に満ちたその行いを、止める人はもういない。

 心臓が引き絞られ、虚しさ、悲哀、虚無が絵の具のようにかき混ぜられた。

 痛みが、苦しみが生きている証拠だなんて、なんて憎たらしいのだろうか。

 生きている。自分は今生きている。

 執着したはずのその結果は、今や嬲り殺してしまいたい。


 ──痛い


 死にものぐるいの結果が、“コレ”だと言うのならば、この先の“生”は絶望でしかない。

 死よりも惨めな、生よりも残酷な何かが待ち受けている。

 もう戻れない。もう抜け出せない。

 例え、その身、その心が生き残ろうとも、


「ああぁぁあぁああああぁあああぁぁあああぁぁあああああ!!!!!!!」


 ──南 柚月という存在は、もうどこにも存在しないのだろう。

更新は少し遅めかもです。申し訳ありません。

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