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17-7 萌えるけど燃えないしゴミでもない

お久しぶりです……

いろいろ忙しかったのと、辛うじて余裕がある時は別作品を優先していたという事情からこれだけ間が開いてしまいましたが、また何食わぬ顔で更新していこうと思います。

「アリア、投げる用の刃物ありったけ出して。

 エドワードさん操作お願いします。弾幕作って、とにかく近づけないようにするんです。アリアも援護射撃お願い」

「わ、わかった!」


 袖口に腰に太ももに、それどころか細いナイフを胸の谷間にまで隠していたアリアンナは、それを次々抜き放って放り出す。

 大量の刃物は床に落ちることなくエドワードの操る磁力に絡め取られて宙に浮いた。


「みんな、こっちに寄って!」


 アルテミシアが号令を掛け、魔杖が安置されていた純白の台座の周りに全員が集まる。


「本当にいけるのかよ、これ!」

「大丈夫よ! この子、()()()()()()()()()冴えるから!」

「いやでもギリギリだからね!? お姉ちゃんは敵の接近に警戒お願い!」

「アタイはどうすりゃいい?」

「待機で! 何か来たら迎撃を!」


 何事か相談しているらしいと見て取った『転生者狩り』の男が、走り出した。死の右腕を掲げ、舌なめずりしながら、地を這うように姿勢を低くして猛進する。


「来た!」

「とにかく近づけさせないで!」


 アリアンナが矢を放つ。情け容赦無く目と口を狙い、しかし男は右手でこれを防ぐ。速度は落ちず。

 そこへ、それぞれに異なる複雑な軌道を描きながら幾本ものナイフが飛んだ。


「あでえ!」


 鉛筆削り機の内部機構のように、ナイフの群れが男の両足を螺旋に切り裂いた。

 アリアンナの投擲用ナイフは非力なアリアンナでもダメージが与えられるよう『鋭刃』の魔化を施されたマジックアイテムだ。謎の防御力を持つ男に対してもやり方次第でダメージを与えられる。


「うひ! うひひひぃぃぃぃーっ! ……≪衝撃波ショックウェーブ≫!」

「おっと」


 男を中心に見えざる力の波動が放たれた。

 空気が揺れ、放射状に床に広がったヒビが当たり判定を可視化する。

 モロに食らえば纏わり付くナイフが全滅していたところだが、直前にナイフの群れはぱっと男の足から飛び離れていた。


「お返しするよ!」


 アルテミシアの振った星の魔杖から、エドワードの身体くらいの大きさの火の玉が飛んだ。先程防御のために吸収した魔法だ。

 魔法を使う際にミュージカル的に両手を広げた棒立ちの男に、巨大な火の玉は直撃する。


「うぎはっ!」


 口から煙を吐いて男がよろめく。

 隙ができた男目がけ、文字通り矢継ぎ早でアリアンナの矢が襲いかかった。


「あぎ」


 うち一本の矢を男は防ぎきれず、右目に命中する。

 しかしその矢は突き刺さらずに跳ね返され、涙のようにどろりと流れた血もすぐに収まった。

 巻き戻しの映像を見ているように火傷も消えていき、切り裂かれた足も見る間に肉が盛り上がって元通りになる。服は元に戻らないが、元からボロボロなのであまり変わった気がしない。


「堅いし、すぐ回復されちゃうよ!?」

「いいの! 大丈夫!」

「ぐぎいいいいい! 早く早く死ねえ! ≪炎烈飛刃プロミネンススラッシュ≫!!」


 男が手を振り下ろすと、その軌跡の形に炎が生まれた。

 三日月型の炎が床に一直線の亀裂を入れながら迫る。矢でもナイフでも止められないが、しかしアルテミシアが杖を掲げると、アルテミシアの目の前で手品のように消え失せた。


「お返しっ!」


 そしてもう一本の亀裂を引きながら炎の斬撃は帰って行く。

 男はぬるりと粘り着くような動きでこれを回避した。だがその逃げた先に、またナイフが襲いかかる。


「うぐぎい!」


 狩りをする鳥のようにすれ違いざま切り裂いていく飛行ナイフに、男は苛立ち混じりに唸るような声を上げる。そして右手をぶんぶん振り回し、避けきれなかったナイフを一本塵に変えた。

 血走った目を剥いて、憤怒の形相で男はアルテミシアを睨む。


 ――焦れてきた焦れてきた!


 男は狂気的な倒立後転で距離を取る。

 ナイフの群れは追わない。あくまで足止めして近づけないのが目的だから、離れすぎたら手前に引き戻す動きをしているのだ。男はそれを見て動きを止める。イカれた神官が邪神に捧げる祝詞みたいなものがブツブツと聞こえ始めた。


「詠唱!」

「でかいの狙ってるわよ!」


 あの狂った襲撃者は、チート級の魔力を持つ術士だ。

 『近寄れないなら魔法で』という判断になるだろう。


「マナちゃん、なるべく強力で相殺されそうにない大技準備!」

「うぇっ!? わ、わかった!」


 判断は一瞬。『高速思考』のチートを持つマナは自分の中で妥当な答えを一瞬でひねり出すことができる。

 マナが身に纏っていたフォースガードを脱ぎ捨て、アルテミシアの背後でも詠唱が始まる。

 詠唱がふたつ。ふたりの口だけが動いているような息詰まる時間だった。


 ――不用意に撃てば返されるのは向こうももう分かってるはず。どう来る!?


 やがて男の詠唱が結ばれると、男はグンと狂気的な伸びをして、枯れ木の枝のような手を振り下ろした。


 ――今だ!


 アルテミシアは星の魔杖を、元あった台座の上に叩き付けた。


「……≪炎纏九頭蛇インフレイムドヒュドラ≫!!」


 辺りが真っ赤に染まった。

 まるで男の身体が急に膨らんだかのように、巨大な炎の蛇がいくつもいくつも生み出され、それぞれに弧を描いて宙を泳ぐように襲いかかってきた。

 右から左から上から、先を争うように。


 ――時間差付きの包囲攻撃! 確かにこれはっ……!


 先程の≪崩天崩陽フォーリンスカイ≫で実証済みだが、この魔杖はいくつかに分割された攻撃であっても一連の魔法攻撃として吸収することができる。

 ただしそれは、直接杖に当たった分だけだ。残りはしっかり着弾して爆発していた。つまりアルテミシアが受けきれない形の攻撃だと防御しきれなかった。

 その様を、あの狂人もしっかり観察していたようだ。


 いや、防御しきれないだけならまだしも、受け漏らしがあると()()()()()()()()()()

 チャンスはこれ一度きり。男がカラクリに気付いていないうち、所見殺し狙いだというのに。


 ――やるしかない!


「エドワードさん、足場作って! スペースデブリみたいに!」

「無茶しやがる!」


 既にアルテミシアの狙いが分かっているらしいエドワードは、ここでアルテミシアが何をしようとしているかもすぐ呑み込んだ。

 磁力の力で多くの刃物が宙に浮き、柄を内側に揃えて足場を作った。


 そして炎の大蛇が迫り来る。

 アルテミシアたちと……術者であるはずの男目がけて。


「なななななんだとぁーっ!?」


 そっくりコピペをしたように生み出された炎の大蛇がどこからかともなく現れ、男にも襲いかかっていた。男は比較的ゆっくりした弾速の炎を追うように突進しようとしていたのだが、しかし自分に迫ってくる魔法を見て足を止めざるを得ない。


 『星の魔杖・少女の智慧(ザ・リトルリドル)』を収めたこのダンジョンのギミック。星の魔杖の特殊能力にちなみ、使用者に魔法が返ってくるというものだ。魔杖の入手とともに解除される仕掛けだが、元あった場所へ魔杖を突っ返すことでアルテミシアは仕掛けを再発動させた。


 だがアルテミシアの方に向かっている魔法まで消えたわけではない。

 アルテミシアは再び魔杖を手に取り、宙に舞った。

 浮かんだ剣の柄を蹴り、先陣を切る炎の大蛇目がけて跳躍し、杖を構える。


 ――吸収!


 炎の嵐が漏斗に流れ込む水のように杖に吸い込まれていった。

 だがこれは分割された中の一発でしかない。アルテミシアは空中で身をひねって向きを変え、跳躍の先に浮いていたナイフを蹴りつけて反転した。

 向かう先には次の炎弾。


 ――吸収っ! 吸収っ!!


 ピンボールのように跳ね回りながらアルテミシアは立て続けに炎の大蛇を食らう。


 だが、ここで残りの『首』が動きを変えた。

 だいたい大雑把に台座を包み込むように迫っていたところ、針路を微調整して刃物の星雲の中を飛び回るアルテミシア目がけ包囲攻撃を仕掛けてきたのだ。


 来るならむしろ好都合。

 だが一度に全方位から襲われると……


「アルテミシアっ!」


 レベッカの悲鳴。


 ――『死の影』は見えない。被弾……許容っ!


 アルテミシアは歯を食いしばり、食えそうな分だけに狙いを定めた。

 正面から迫る炎の塊を呑み込み、直後。

 杖を右に突き出しながらアルテミシアは頭を庇った。


 むせ返るほどの熱風が吹き抜け、ふわふわの髪を揺らす。

 目を閉じても瞼を通して灼炎が焼き付いたかのように感じたほどだが、しかし、それは熱いだけだった。

 確かにそれは熱かった。しかし致命的な熱を感じることはなく、ただスカートの裾をばたつかせて吹き抜けていった。


 ――あれ、ノーダメージ? ……翼膜外套やばいわ。


 ポーションによる身体強化があるから多少は耐える見込みがあった。しかし、いくらなんでも毛一筋燃えないというのは異常だ。原因はおそらく、新たに入手したグリーンドラゴンの翼膜の外套だろう。……たぶん。


「ホームランっ!」


 フェイントのように一匹だけマナの方を狙った炎の大蛇がエドワードの炎の大剣に殴り飛ばされて、どういう作用なのかそのままアルテミシアの方に飛んできた。


「ファールフライ!」


 吹っ飛んできた炎の塊をアルテミシアは杖に呑み込む。

 これで向かってくる魔法は打ち止め。

 全回収はできなかったが、元の威力を考えれば充分すぎるほどの力が杖に充填されたはず。


 間髪入れず。


「お返し……しちゃうよっ!」


 視界が白一色に染まるほど輝いた。

 アルテミシアが杖を振ると、より合わせた縄のように絡み合った炎の大蛇が飛び出した。ライフル銃の弾みたいに螺旋を描いてもつれ合いながら巨大な炎の塊が猛進する。


 それを追うように。


「引き千切れんなよ、裂け蔦幽霊! ……≪四苦八縛叫喚デッドオアアゴニィ≫!!」

ォォォォォォォォッ!!』


 呪いの砲弾と化したカルロスが()()された。

 分かりやすく言うなら式神攻撃。死霊魔法はあまり攻撃向きではないが、使い魔とした霊に魔力を注ぎ武器とする魔法がいくつか存在する。

 これを打ち消せるのは神聖魔法くらいだ。だが対人攻撃で神聖魔法を使ってくるわけがない。男の準備している『大技』が何だったとしても、この魔法と打ち消し合うことはなかっただろう。


 ダンジョンが生み出した≪炎纏九頭蛇インフレイムドヒュドラ≫が男に襲いかかり。

 彗星の如く炎の尾を引いて、アルテミシアの『撃ち返し』が猛追し。

 物理的な圧力すら伴って黒紫の光を纏ったカルロスが飛翔する。


「ぽげらばぁ!?」


 三つの魔法が男を交点として交錯し、寸の間の後、大爆発を起こした。

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