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9-30 ナニカサレタヨウダ

u2Bogb5EoJdd『やぁ、気分はどうだろうか』8ix1beC0Xej6EMQ9O8UMxq4DgGy

KEIL0jfw『どうやら成功したようだね。僕の言葉が分かるかい?』7GgdAfuYfkLjHWauMvuwVhG

9qSYlkHsQZd2xfWyP6umDgFBE『おっと待ちたまえ。怒るなよ。むしろ自我が保ててたこと、感謝してほしいものだ』Low3SZapfQAiTl

G8ktVyXjmluAxJ420F0v4『言っただろう、理論的には完璧だと』AeXNjEqNt49DXRwDUy7CNgR

ftVcFSQ1hz9cqMW『あとは実験するだけだったんだ』uPnxpuQCye6K3HSJcy3Ay7

Wk39peUNTLqsDC4FBzu4kN38『条件は言っておいた通りだ』wKxKrv5

V4LYXNEJOC3n8NhoXfjaUU『その姿で10人ほど、兵を殺してみたまえ』ExCJY331AcBNLXW7Q8qZ

vrAiK2Na9『そうすれば、ちゃんと死ねる・・・・・・・ようにしてあげるから』DvNMhXk

3wewyhgLgVAoabp00SAGA4ZIN0SMvnvE7bJj56613lOG5epvNyBcyCW8iYU『ああ、そうだ……ひとつ付け加えておこう』lrrg3

FNz『緑の髪をした人間の少女が、もし現れても手を出すんじゃないよ』ecH4oYsMz

v7JckE4xmYz1TJcd8i4UeW8Whak30dn5n1eY09dS0keWF『彼女を傷つけたら、約束はご破算だ』FBFQg

oNPGdEvbquOj『分かったね? 分かったなら行ってくると良い』dkHg9ibC8kIiaknSZZvY

jLoIEgPotcM6Twbpp8Z4zL『……健闘を祈るよ』


 * * *


 一目見てアルテミシアは、正直、拍子抜けした。


「なんか……ちっちゃくない?」

「私達が戦った『獣』の……半分くらい?」


 そこは、『歪みの獣』の出現地点であるとしてエルフ兵が常に布陣している場所……から、ちょっとズレた森の中。

 エルフ兵達と共に現場へ駆けつけたアルテミシアが見たのは、汚らしい黒の影がわだかまったような巨体。紛う事なき『歪みの獣』。ただし身長は2メートルほどで、長身なエルフの中にあってはそう大きくも見えないものだった。


 『獣』は、既にエルフ兵によって包囲されていた。

 円柱状の体にフレイルのような腕が何本も付いている、前衛的なイソギンチャクみたいな奴だ。腕を振り回して暴れているが……それだけと言えばそれだけだ。

 

「なんでぇ、小物じゃないかい。

 まあ、あんな大物を倒した後だ。出るにしても小物になる可能性の方が高いだろうけどね」

「あ、そういう仕組みなんですね」


 フィルロームも拍子抜けした様子だった。


「……ところでここ、兵が布陣してるポイントとはズレてるみたいですけど。わたし達が倒した奴みたいに監視部隊を壊滅させたわけじゃないなら、なんでこの『獣』、ここに居るんですか」

「たまーにあるのさ、ズレる事が。ま、あたしゃ陣を敷くポイントの方がズレてるんじゃないかって昔から言ってたんだが、相変わらず布陣する場所は1mmも動いてないね」

「やる気が無いお役所の仕事みたい……」


 出現地点に詰めていた兵と巫女、練兵場から応援に駆けつけた者ら。

 ここから『獣』が謎の変形合体でも見せない限り、もはや趨勢は決しているだろう。


 そう思って野次馬モードになりつつあったアルテミシアののんきな考えは、『獣』の雄叫びで吹き飛んだ。


【 ―― Print("オラオラァ! ブチ殺してやるぜクソエルフども!") ―― 】


 ――えっ!?


「あいつ、今、喋りませんでした!?」

「叫んだね」

「じゃなくて人間語で何か言ったような……」

「空耳じゃないの?」


 きょとんとした顔でレベッカが言って、アルテミシアの方が首をかしげた。

 確かに喋った気がしたのだが。


 『獣』は腕を振り回しながら周囲を睨み付けるような動作をしている。それが、なんだか奇妙に見えた。先日戦った『獣』は、もっと機械的に……すごい初歩的なAIで動いているかのような雰囲気だったのに、こちらの動作はなんとなく人間的だ。


 その違いを感じ取っているのはアルテミシアだけではなかったようで、包囲するエルフ兵にも、訝しげな顔をしている者が居る。


 と、アルテミシアは、『獣』が目の無い顔で自分たちの方を見たような気がした。


【 ―― Print("人間って、こいつらか? 緑の髪は居ねぇぞ……?") ―― 】


 奇妙な感覚をアルテミシアは味わっていた。

 言語そのものの意味は分からないのに、頭に直接、言葉の意味をすり込まれているかのようだ。


「やっぱり、喋った……? 何を言ってるの?」

「えー? 叫んでるだけだと思うけど」


 人間。緑の髪。

 まるでアルテミシアの事を知っていたかのようだ。

 そして、しっかり見ているはずなのに見えていない。


 『獣』が一瞬、考え込むような隙を見せた。それは、異質で異常な存在とは言い難い、人のような隙だった。

 それをエルフ達は見逃さなかった。


『放て!』


 号令一下、包囲するエルフ達の矢が『獣』の体を削る。

 あえて体の外縁部を狙い、また中には腕の接合部を見事に射貫いて落とす者もある。

 泥のような体は、傷つけられても血の一滴すら流さないが、徐々に削られて体積を減らしていった。


【 ―― Print("くそっ! なんだよ、この体は……! クソ弱ぇじゃねぇか!") ―― 】


 悪態をついた(ようにアルテミシアには聞こえた)『獣』が、囲いを突破を狙うかのように猛進する。

 しかし、包囲網はより素早く退き、追い、『獣』と一定の距離を置いた包囲状態を維持した。

 そして次の矢が放たれ、『獣』はさらに小さくなった。

 足が抉られ、転倒する。


【 ―― Print("なんだよ! 俺、ここまでされるほどひどいことしたかよ!?") ―― 】


 スライムのように這いずることしかできなくなった『獣』が、泣き言を漏らす。


【 ―― Print("ちょっと……貰っただけだろう、薬草を……!") ―― 】


 ――なに、こいつ……?


 恨み言を適当に吐き散らかしているだけかと思いきや、妙に具体的なエピソードが出て来た。

 もちろん、何の事かは分からなかったが……


 その間にも矢は射掛けられ続け、ついに行動不能と判断された所で、兵達が道を空け、巫女が姿を現す。

 浮き世離れした雰囲気の、エルフの女性だ。彼女は白装束を身に纏っており、滑らかに樹を削って金細工の飾りが付けられた錫杖を鳴らす。


【 ―― Print("こんなの、縛り首より非道いじゃねぇか!") ―― 】


 巫女から這いずって逃げるように、もはや手も足も無い『獣』が身じろぎする。

 その叫びは悲痛ですらあった。


【 ―― Print("い、いやだ、いやだ、いやだ、やめろ、よせ、消える……") ―― 】


『≪死門ステュクス≫!』


 巫女の影が、黒々と色づき、草の上を這い撫でるように膨張し、迸る。そして。


【 ―― Print("ぎゃあああああああっ!") ―― 】


 断末魔と共に、影が『獣』を飲み込んだ。

 黒が黒を食い、木漏れ日の中に解けるように消えていく。


『……消滅を確認』


 エルフ兵の隊長がそう言った後もアルテミシアの耳の奥には、『獣』の断末魔がこびりついていて、誰かが冷たい爪を背中に突き立てているかのように、嫌な汗が止まらなかった。


「おねーちゃん……」

「……マナちゃん!?」


 急に後ろから声を掛けられて、アルテミシアは弾かれたように振り返った。

 お留守番をしていたはずのマナが、何故かそこに居る。


「どうしてここに……」

「えっとね、『けもの』がでたから……さふぃおねーちゃんのおしごとだから」


 本人もよく分かっていない様子だが……要領を得ない彼女の言葉から推察するに、サフィルアーナの巫女としての使命感に突き動かされてここまで来てしまったのだろうかと、アルテミシアは見当を付けた。あるいは体に染みついた習慣みたいなものか。


「そっか。でも、もう『獣』は退治されたから……」

「へんだよ、あれ」


 すましていればクールビューティーで通りそうな顔を、夜中にトイレへ行けないお子様のように不安げに曇らせるマナ。

 アルテミシアと目線を合わせるためしゃがみ込んだ彼女は、きゅっと肩に抱きついてきた。


「さふぃおねーちゃんが、へんだってゆってる。『けもの』は、しゃべらないもん。なのに、しゃべったよ。やだってゆったよ?

 へんだよ……こわいよ……」


 たどたどしい口調で恐怖を訴えるマナ。

 だが、それはマナではなく……200年以上をこの森で過ごし、巫女として『獣』と戦い続けてきた、サフィルアーナの経験に基づく違和感だった。


 その言葉はアルテミシアにとっても衝撃的だった。


 ――これはもしや……『獣』の声が転生者だけに聞こえてる!?

   あれは、何!? ううん、そもそも『歪みの獣』って、何……!?


 足下が崩れ、奈落へと墜ちていくかのようにアルテミシアは錯覚した。

 目の前では、エルフ達が戦いの労を労い合い、無事を喜んでいる。

 しかしアルテミシアには、そんな光景すら色あせて薄ら寒く見えてしまっていた。

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