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1-7 厄罪師の産声

例によって、数字の所は読み飛ばして大丈夫です。

あんまりこういう描写が多くても何なので、次はどうしても必要になるまでやらないと思います。

 ポーションをひとつ作り上げ、これでチートスキルの効果は証明された。

 しかし、治癒ヒーリングポーションを作る過程で、他の効果が山ほど出て来た。タクトアルテミシアとしては、あれも作れるか試してみたい。

 

「あの、迷惑でなければもう少し薬草を貸してくれません?

 試してみたい調合があるんです」

「迷惑なもんか。かえって悪いくらいだ。

 森で採った薬草ならいくらでもあるぞ。ポーションどころか普通の薬も滅多な事じゃ買ってられんからな、だいたい薬草でなんとかしてるもんなんだ」


 すぐさまタクトアルテミシアの前に追加の薬草が並べられた。


 ――『膂力強化』ってのがあったな。つまりドーピングだよな?

   冒険者相手に売れそうだし、自分でも使えそう。まずは、あれが作れないか試してみるか。


 すり鉢を一旦、水洗いし、そこへ残りの薬草を少しずつ入れていく。


 ――多分、このゼンマイみたいなのがメインだ。


 ぐりぐりと茎を潰すと、すり鉢の回りに再び文字が浮かんだ。


 発現効果:なし 

 『Lv1麻痺毒 3/100』『Lv1膂力強化 1/100』『Lv1魔力補給 2/100』


 ――それで、ここに赤い草をちょっとだけ入れると……?


 変化は劇的だった。


 発現効果:なし

     『Lv1麻痺毒 57/100』『Lv1膂力強化 48/100』『Lv1魔力補給 3/100』

     『Lv1風邪薬 4/100』『Lv1抵抗力強化 3/100』


 ――やっぱり! 組み合わせによっては、投入量に関係なく「ボーナス値」が付く!


 まだ茎一本と、赤い草をひとつまみ入れただけなのに、膂力強化と麻痺毒の値が急上昇している。

 考えてみればさっきのヒーリングポーションの時も、こうした不自然な値の動きがあった。二番目の材料である茎をわずかに入れた途端、『治癒』の値が急上昇したのだ。

 複数の材料を混合させたために発生する、化学反応のようなものだろうか。いや、魔法薬だけに魔学反応?

 後は、頭打ちが起こらない比率を探りながら全体の量を増やしていけばいいはずだ。


 ……と、思ったのだが。


 ――この組み合わせだと麻痺毒と同時に膂力強化が出る……


 発現効果:Lv1麻痺毒 Lv1膂力強化

     『Lv1治癒 75/100』『Lv1整腸 9/100』『Lv1解毒 20/100』『Lv2麻痺毒 122/200』

     『Lv2膂力強化 100/200』『Lv1魔力補給 52/100』『Lv1風邪薬 6/100』

     『Lv1抵抗力強化 41/100』


 茎状の薬草と赤い草は、どちらを入れても『麻痺毒』の要素と『膂力強化』の要素が同時に上昇した。

 うまく片方だけが閾値を突破し、片方だけが頭打ちになる組み合わせは無いかと思ったのだがこの組み合わせだと上限値は完全に連動しているらしい。

 膂力強化を出そうとすると、もれなく抱き合わせで麻痺毒まで付いて来てしまう。


 ――そう言えば、さっき治癒ヒーリングポーションを調合してるとき、一瞬、麻痺毒が膂力強化より下になった気がしたんだけど……


 さっきは緑の葉っぱをメインの材料にしていたはずだ。

 タクトアルテミシアはそれを少しずつ入れてみる。麻痺毒・膂力強化の数値が徐々に下がっていくが、その差は一定ではない。広がったり、縮まったりを繰り返し、そして、あるところで遂に数値が入れ替わった。


 発現効果:なし

     『Lv1治癒 89/100』『Lv1整腸 14/100』『Lv1解毒 34/100』『Lv1麻痺毒 88/100』

     『Lv1膂力強化 90/100』『Lv1魔力補給 60/100』『Lv1風邪薬 6/100』

     『Lv1抵抗力強化 46/100』


 タクトアルテミシアは思わずほくそ笑みそうになった。パズルを解いたときの快感だ。


 ――この比率で混ぜた場合だけ、一瞬、膂力強化の値が麻痺毒を上回る! 比率を保ったまま量を増やして、最後に麻痺毒だけが100を切るよう水で薄めれば膂力強化だけを発現させられる!

 

 調合の手順を頭の中で組み上げながらも、タクトアルテミシアは頭をフル回転させて人生設計を練り直していた。

 

 ――確か、毒薬の調合だけで名を残した犯罪者なんかも中世に居たはず!

   ボルジア家とか敵対者に毒を盛りまくって政治的地位を固めてたって言うし……

   って言うか、麻薬みたいなポーションもあるんじゃないか?

   この際、弱くても構わない。暗黒街に潜んで暗躍し、薬作りの腕だけで世界を震撼させる悪女とかどうだ?

   ……いや待て、悪女はやめよう。やっぱどうにかして男に戻るポーションとか……


「ふうっ!」


 ちょっと休憩して、タクトアルテミシアは伸びをした。細かく材料の投入量を調整するのは、神経を削っていくような作業だ。


「終わったの?」

「まだです。でも、お目当ての薬を作れる比率が見つかりました」

「不思議ー。何も覚えてないのに、お薬の作り方は覚えてたなんて……どこで習ったのかしら?」

「どこ、でしょうね……」


 タクトアルテミシアは曖昧に言葉を濁した。記憶喪失という設定はなかなか便利だ。

 

 相変わらずアリアンナはずっと調合の様子を見ていた。調合が珍しくてしかたがないらしい。あるいはタクトアルテミシアの観察を楽しんでいるのかも知れない。

 グスタフも斧を研ぎつつ様子を伺っていたが、そろそろ斧がドラゴンの2、3匹斬り殺せそうな鋭さになってきたので名残惜しげに立ち上がる。


「アリア、今夜は用水路の修繕の件で、村長の所で寄り合いになったから遅くなるぞ。マリアも手伝いだから、適当に晩飯の支度をしといてくれ」

「分かった!」


 斧を抱えてグスタフが出て行った。

 冷静に考えれば農作業用に違いないのだが、隆々たる体躯のグスタフが斧を抱えていると『何と戦う気だ』と思えてくる。

 

「晩ご飯……どうしよっかな。干物を貰ってたから焼いちゃうか。

 お粥も作っとくからね。同じのばっかりでごめん、病人食になりそうなの、これくらいしかなくて」

「そんな、食べ物をいただけるだけでもありがたいのに……へくちっ」


 急にくしゃみが飛び出して、いつの間にか体が冷えている事にタクトアルテミシアは気がついた。


 ――なんか今、洒落になんないほど可愛いくしゃみしたな、俺……


「大変! 暖炉の火力、上げようか? ……じゃなくて毛布かぶった方が早いか。寝間着一枚じゃ寒かったかな」

「そ、そうですね……この格好で調合するのは、寒かったかも知れません。そうだアリアンナさん。寝間着、借りちゃってごめんなさい。言おうと思ってたんですけど、忘れてて……」

「いいのいいの、クズ屋さんに売るしかないような古着だし……

 あっ、そうだ! アルテミシアが着てた服は洗濯しといたんだけど、あれ着る?」

 

 アリアンナが提案する。

 確かに、森の中で倒れていたときは違う服を着ていたような気がするが……

 

「たぶん、あっちの方が温かいよ。って言うか着ろ! 着てみせて!」


 妙にテンションが高いアリアンナを見て、タクトアルテミシアはちょっと嫌な予感がした。


 アリアンナは部屋の隅にある長持から服を引っ張り出してきたのだが、それを見てタクトアルテミシアは目を丸くするしかなかった。


「不思議だけれど、綺麗で素敵な服ね。街ではこういうのが流行ってるのかしら」

「……こんなの着てたのか」

「えっ?」

「いや、こっちの話です」

 

 白いブラウスはまだいい。胸の下から腰まであるコルセットベルトも、まだ普通のファッションという気がするのだが……

 パステルブルーのジャケットは袖口や首回りに、金とも銀ともつかない不思議な金属で装飾が施されている。

 逆さまにしたチューリップの花みたいなフレアスカートは透き通るようで透き通っていない不思議な素材で、薄緑から白へとグラデーションがかかっている。

 ケープとマントの中間みたいな白い織物。肩の辺りに留めるらしいピンは、一本の細長い金属をねじ曲げ、花の形にしたようなデザインだ。

 ベルトに鈴なりのかわいらしいポーチは、いかにも冒険用のアイテムでも放り込めそうな印象。

 そしてトドメに、革の質感がよく出ている編み上げニーハイブーツ。


 現代地球人の感性から一言で感想を述べるなら『コスプレにしか見えない』。

 いったい全体、この体はどこの誰で、なんでまたこんな格好をしていたのだろう。それともアリアンナが言う通り、街ではこんな服が流行っているのだろうか。


 しかし、どんな衣装であろうとも寒いよりはマシだ。アリアンナの助けも借りながら、タクトアルテミシアはその謎の衣装一式に袖を通した。

 着心地は…………何とも言えなかった。


「かっっっっっっわいぃ~っ!」

「ど、どうも……」


 自分の体を見下ろせば、名状しがたき色彩がある。姿見が無くてほっとしたような、怖い物見たさでちょっとだけ残念だったような。

 とりあえず、寝間着より暖かいのは確かだったが、代わりに男として大切な何かを失ってしまったような気がした。


 * * *


 結局タクトアルテミシアは、その格好のまま調合を再開した。

 この短いスカートであぐらを掻くわけにはいかず、滅多にした事のなかった横座りで。


 ――座り方はどうでもいい。とにかく、これを完成させなきゃ。


 麻痺毒を出さずに膂力強化だけを発現させられる比率は、本当にかなり厳しかった。投入量が少しでもズレれば成り立たなくなってしまう。タクトアルテミシアは慎重の上にも慎重を重ねて調合を進めた。

 そして、最後の一滴の水を注いだとき、タクトアルテミシアは思わずガッツポーズを決めた。


「できたっ! 膂力強化ストレングスポーション!」


 すり鉢の中には赤い薬液が溜まっていた。瓶に移したら、それは紅玉色に透き通った。

 これで二種類目のポーションが完成。タクトアルテミシアは早くも、薬師としてやっていけるんじゃないかと思い始めていた。そう言えばヨモギアルテミシアも薬草だったはず。偶然とは言え、仮の名前にはちょうどいい。


「ストレングス・ポーション? それってどんなもの?」

「すごい力が出せる。……はずです」

「『はず』……」

「使ってみないとどれくらい効くか分かんないんで……でもこれ、グスタフさんから借りた材料だから、飲まないで返さなくっちゃダメですね」

「試しに半分くらい飲んでから返せば? 私もちょっと気になるし、多分お父さん分かんないよ」

「じゃ、お言葉に甘えて――」


 言いかけたタクトアルテミシアの言葉に被さって、甲高い悲鳴が響いてきた。

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