消えてしまう
やけに青い空が広がっていた。
「また来年だな」
祖父がそう言って僕の手を握った。
「うん。また来るよ」
僕の言葉に、祖母は笑顔を見せる。
ここからは一人で帰ることができた。
ただ、このままではなく、もう一人と会わなくてはならない。
「……今日で、一旦お別れだね」
少女が涼しげな表情で呟いた。
もうきっと気が付いているだろう。
「私って、もう生きてないんだ……」
僕は無性に何か言いたくて、でも何も言えなくて口を閉じていた。
「ねえ」
「どうかした?」
「忘れないでくれる?」
「うん。きっと忘れられないよ」
少女はおもむろに首のあたりをまさぐり、ちょうどシャツで隠れていた場所から首飾りを取り出した。
「はい、これ」
蒼い石が付いていた。
ただそれ以外にも、強い離れたくないという気持ちがなんとなく感じられた。
「ありがとう。大切にするよ」
遠くの方から電車が来た。
「じゃあね」
少しだけ、少女の声には涙が混じっていた。
僕は涙すら出ない程に気持ちが重かった。
ただ、泣き顔なんて見たくないだろう。
どう言えばいいのか分からず、結局僕は小さく
「また会おう」
とだけ言った。
それからはもう言葉をかわせなかった。
少女は最初に消えた時のように、水にすうっと溶けて見えなくなってしまった。
「……また会おう」
僕はもうそれだけしか言えなかった。
電車が駅を走り出したとき、何度も、何度も、ひたすら駅の方角を見つめていたのを覚えている。
「へえ~、そんなことが……」
友人は驚いたように目を見開いた。
「信じてくれるかな」
「当たり前だろ。どうりで首に首飾りなんかしてるわけだ」
「どこに行こうか」
久しぶりに思い出してしまい、僕は一刻も早く座りたかった。
気持ちが少し重くなった。
「ちょっと公園で休んだらどうだ?」
「ああ、うん」
生返事をしてのろのろと歩き出す。
噴水公園という、全く知らない公園に辿り着いた。
「なあ、ここどこだ?」
「……ごめん。良くわからない」
ちょうどいい場所にベンチがあった。
先客がいたが、それはあまり気にならなかった。
「お茶買ってくるよ」
それだけ言って立ち上がり、自販機に向かう。
すると、「先客」と同じ格好の人が自販機の下から水を取り出していた。
いや、取り出そうとしていた。
どこに落ちたのか分からないようだ。
「……!あった」
やっと取り出したときに、ふっと目が合ってしまった。
「あ」
「……あ、あれ?どうして?」
あの時の少女だった。
終わりです。
読んでくれて本当にありがとうございました。