生霊祭り
星が散らばる夏の夜。
祭囃子がなる道の左側を歩いていた。
「…また会ったね」
聞き慣れた声に振り向いた。
あの少女が、浴衣を着ている。
赤い色もよく似合う。
儚いのに確かにそこにいる。
陽炎が形になったような気がした。
このまま消えてしまいそうで、少し寂しかった。
「行こうか」
それだけ呟いて、何も言わずに右手を握られた。
「君は一体なんなんだ?」
ずっと気になっていたことだ。
その問いに、少女は首をかしげた。
「さあ……なんだろうね?実は、私にもよくわかってないんだ。でも不思議な事に、私はここに溶け込むことが、いつからかできるようになってたんだ」
この祭りは規模が大きく、町全体の活性化としても楽しまれている。
だから、僕は離れないようにと必死だったが、それでも一言も聞き逃さないよう耳を傾けていた。
「……ここに来てから15回目の夏だったかなあ、今もある駅のホームから落ちた時に丁度列車が走って来て、
気が付いたら、森に居た。このことはまだ、誰にも言ったことがないんだ」
乾いた音とともに、空を、月を、心の虚しさを、目の前の少女の笑顔を、花火が映し出した。
その顔は、下手な言葉では言い表せない程に透明に見えてしまった。
「……ありがとう」
誰にも聞かせていない話を、聞かせてくれたことへの、せめてもの感謝だった。
「私も、ありがとう。……誰も聞いてくれなかったから。私、普段は誰とも話せなくってさ。このお祭りの時期にだけ、話せるんだ。それでも、話す人が誰もいなかったから」
僕はどんな顔をしていただろう。
不思議そうな顔だろうか、呆然としていたか、怒っていたか。
未だによくわからない。
それは、僕の不器用さが表に出たともいえる。
放送はまだ、2発目を伝えていた。
「どこか、見やすい場所に移ろう」
僕はそう言って少女の手を引いた。
「河川敷に、行ってくれる?大きいほうじゃなくて、山の裏側の」
「うん」
少女の言うとおりに進んでいくと、やがて、人一人いないただっぴろい河川敷に出た。
しかも、花火がはっきりと見える。
辺りの木々や草花までも照らし出した。
先ほどまで濃紺一色だった空が色とりどりに染まってゆく。
「君はさ……ここに住むの?」
ふと、そんなことを聞かれた。
「いや、明日で帰るよ」
「そっ、か」
「大丈夫だよ、また来年にでも来るから」
寂しそうに下を向いてしまったので、慌てて励ました。
「………!」
途端に顔を上げた。
「ぜ、絶対だよ?」
「うん。絶対来る」
「ありがとう」
最後の花火が上がり、横を見ると、少女はいなくなっていた。
次で、おしまい