表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水葬列車  作者: レアチーズ
4/5

生霊祭り

星が散らばる夏の夜。

祭囃子がなる道の左側を歩いていた。

「…また会ったね」

聞き慣れた声に振り向いた。

あの少女が、浴衣を着ている。

赤い色もよく似合う。

儚いのに確かにそこにいる。

陽炎が形になったような気がした。

このまま消えてしまいそうで、少し寂しかった。

「行こうか」

それだけ呟いて、何も言わずに右手を握られた。


「君は一体なんなんだ?」

ずっと気になっていたことだ。

その問いに、少女は首をかしげた。

「さあ……なんだろうね?実は、私にもよくわかってないんだ。でも不思議な事に、私はここに溶け込むことが、いつからかできるようになってたんだ」

この祭りは規模が大きく、町全体の活性化としても楽しまれている。

だから、僕は離れないようにと必死だったが、それでも一言も聞き逃さないよう耳を傾けていた。

「……ここに来てから15回目の夏だったかなあ、今もある駅のホームから落ちた時に丁度列車が走って来て、

気が付いたら、森に居た。このことはまだ、誰にも言ったことがないんだ」

乾いた音とともに、空を、月を、心の虚しさを、目の前の少女の笑顔を、花火が映し出した。

その顔は、下手な言葉では言い表せない程に透明に見えてしまった。

「……ありがとう」

誰にも聞かせていない話を、聞かせてくれたことへの、せめてもの感謝だった。

「私も、ありがとう。……誰も聞いてくれなかったから。私、普段は誰とも話せなくってさ。このお祭りの時期にだけ、話せるんだ。それでも、話す人が誰もいなかったから」

僕はどんな顔をしていただろう。

不思議そうな顔だろうか、呆然としていたか、怒っていたか。

未だによくわからない。

それは、僕の不器用さが表に出たともいえる。


放送はまだ、2発目を伝えていた。

「どこか、見やすい場所に移ろう」

僕はそう言って少女の手を引いた。

「河川敷に、行ってくれる?大きいほうじゃなくて、山の裏側の」

「うん」

少女の言うとおりに進んでいくと、やがて、人一人いないただっぴろい河川敷に出た。

しかも、花火がはっきりと見える。

辺りの木々や草花までも照らし出した。

先ほどまで濃紺一色だった空が色とりどりに染まってゆく。

「君はさ……ここに住むの?」

ふと、そんなことを聞かれた。

「いや、明日で帰るよ」

「そっ、か」

「大丈夫だよ、また来年にでも来るから」

寂しそうに下を向いてしまったので、慌てて励ました。

「………!」

途端に顔を上げた。

「ぜ、絶対だよ?」

「うん。絶対来る」

「ありがとう」

最後の花火が上がり、横を見ると、少女はいなくなっていた。


次で、おしまい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ