透過
「久しぶりだね」
悲しそうに笑顔を浮かべて少女が呟く。
「…分かってほしかったんだ。自分がちゃんといるってこと。失敗作じゃないってこと。…でも、私の力で変わったことは何一つないんだ」
果ての無い青空を見上げながら、涙声で言った。
泣きそうになっているのがバレないように、僕も顔を上に向ける。
「…でも、こうしてばっかりもいられないんだ。いつもいつも、世界は絶えず変わっているんだ」
「うん…」
少女は溜息をつきながら顔を伏せた。
「今日はもうちょっとこの場所に居ようかな」
そう言って黙り込んだ。
「君はどんな色が好き?」
その問いが再び蘇った。
「…僕は…青色が好きかなあ…」
「そうなんだ!じゃあ私と一緒だね」
少女が顔を上げる。
思いがけず、明るい声が帰って来て驚いている。
「私、他の人よりたくさん飲み物を飲むって言われるんだけど…どうなのかなあ?」
そう言ってしまってから少女はハッと気づいたように顔を赤らめて俯いてしまった。
「…え…あ…ご、ごめん、なさい…」
「いやいいよ…謝らなくても。君のことがもっとよく理解できて嬉しいよ」
「あ、ありがとう…」
また少し涙声になって言った。
「…もう少し聞かせてくれるかな」
少女は涙ぐんで語りだした。
「う、うん。…私、結構よくいじめられるんだ。嫌な奴だって、変な奴だって。誰も友達になってくれないから、一人で寂しい時に、悲しさを忘れたいときにここにくるの。」
「…そうだったんだ。」
「何回もここに来て友達を探してたけれど、まだいないや。」
そこで少女はまた俯いてしまい、静かに目を閉じた。
「ねえ」
「?」
僕の呼びかけに顔を上げた。
「…僕と、友達になろうよ」
「…え?い、いいの?」
「うん。友達が近くにいるのって、心強いでしょ?」
「…ホントだ…。」
「よろしくね。」
「うん…って、もう時間だなあ。ごめんね、少し甘えすぎちゃったみたい。」
「大丈夫だよ。それじゃあ、またね」
僕が言うと、笑顔で
「うん!またね!」
と言って再び水に身を投じて消えていった。
最初よりも抵抗が無かった。
また会えるんだと思うと、気持ちが楽だったからだろう。
近くの水が渦を巻いている。
思い切ってその中に入って行った。
「皆さん、この子は森の中で発見されました。今日から友達です。仲良くしてください」
女性が少女を紹介する。
「なにこいつー⁉へんなの!」
「そう言わない!ほら、あなたも。」
しかし少女はもじもじして何も答えられない。
「…仕方ないね。それじゃ、仲良くするように」
「ちっともしゃべらないぜこいつ。ほらほらー!どうした?」
子供達が寄ってたかって石や木の棒を投げつける。
「や…やめて…やめてよう…」
散々悪口を言って石を投げつけて子供達は帰って行った。
「…私がこんなんじゃ、守ってくれる人にまで石を投げられる…どうしよう…どうしよう…?」
「わああ…綺麗だなあ…‼」
そう言って、駅の椅子に腰を下ろす。
「ここで全部、忘れられたらなあ。…消えていなくなれたらなあ。」
蝉の鳴き声がよりひどく鳴る。
少女は、体が透過しはじめているのに気が付いていないようだった。
一筋の涙を最後に、少女は見えなくなった。
「…こんなことが、あったなんて」
ボソッと呟いた。
そろそろ帰る時間だ。
この最果ての地で何があったのかが、まだ完全には分からなかった。