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水葬列車  作者: レアチーズ
2/5

山の中で

目を疑った。

あの少女は影も形もない。

陽炎の作り出した幻でも見ているようだった。

「…え…い、今のは、一体なんだ?消えた…?」

何度目を擦っても何も見えない。

透明な水色が町を覆っているだけだった。

10時15分。

昼ごはんまでまだ時間がある。

探しに行こう。

会って話を聞かなきゃ分からない。

…分からないんだ。


神社というのは、山の中にあるらしい。

蝉時雨が鳴り響く家の間を歩き続ける。

微かな記憶を頼りに、山への道のりを探っていた。


「ここかな」

立て札には『山道入口』と書かれていた。

舗装された場所が点在する山道をゆっくりと歩く。

生い茂る木々は日光を受けて緑色に輝いている。

じゃくっ、じゃくっと音を立てながら土を踏みつけていくと、眼前に大きな朱塗りの鳥居が現れた。

しかし、神社はとうの昔に使われなくなったようで、ツタが生え、苔むしている。

賽銭箱の中に蜘蛛の巣が張っており、過ぎ去った月日を感じざるを得ない。

「…どうしたの?」

驚いて振り向くと、先ほどの少女が立っていた。

「あの、君は一体…?」

「聞くのは…野暮ってものだよ?まあでも、答え探しなら手伝えるからさ、私のことを見つけてくれないかな?答えはきっと、その中にあるから……」

「??う、うん…。」

「それじゃあ、またね」

まるで蜃気楼のように姿がおぼろげになり、すぐに見えなくなってしまった。

…今回はあっという間だった。

とりあえず、辺りをふらふらと歩くことにした。


山をさらに登って行くと、途中に石柱が円形に突っ立っている場所があった。

その中心に奇妙な螺旋状の置き物があった。

しかしこの置き物も埃を被っている。

この茶色の草の汁のような物はなんだろう。

置き物には窪みがあり、水が満ちている。

「…この水、随分綺麗だな」

少し、触れてみたくなった。たった、それだけ。


水が渦を巻いて零れだす。


余りにも素早い、一瞬の出来事に思わず目を瞑ってしまう。

「!?なんだ、これは!?」

再び目を開くと、先ほどとは違う色が広がっていた。

「ふう…どうじゃ?」

すでに事を終えたという表情で老人が呟く。

その隣の老婆は自身の指の傷に薬を塗りながら無言で首を傾げた。

「…分からない?どういう事じゃ?」

やっと老婆は薬を塗り終えて口を開いた。

「姿が見えんから何とも言えぬわい。しかし…失敗かもしれぬ」

「ううむ…仕方ない。なら別の方法を考えよう。帰るぞ」

しばらく経って、闇夜にすすり泣きが聞こえた。

「…私は…ちゃんと、ここに…いるのに…」


「あれ」

なんだろうか?

再び辺りを見渡しても声は聞こえない。

夢にしてはあまりに生々しいが、現実だとしても信じられない。

突き抜けるような空が果てないまま続いている。

見下ろすと、水に沈んだ街が見えた。

透明で、底まではっきり見えるが、駅だけがぽつんと浮かび上がっている。

ガードレールのすぐそばまで満ちて少しも波風の立たない水をすくい上げる。

「信じられないことだらけだ」

時計は12時2分を指し示している。

…あの奇妙な場所で最後に聞いた声は、聞き覚えがあった。

しかし、誰の声だったのだろうか?

全く思い出せない。

何気なく電柱を見上げると、夏祭りのポスターが貼られていた。

もうこんな時期になったのか。

時間が経つのは早いものだ。

夏祭りに思いをはせていると、駅にまたあの姿があった。

すぐに向きを変えて石の上を歩いて行った。

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