賢政、恒興の気魄に兜を脱ぐ
さあ、そろそろ。
面白くなりますよ。
今、俺は西美濃三人衆の内の一人、稲葉一鉄と交渉をしいている最中である。
安藤守就は、義龍とギクシャクしているらしい。
今回は、『斉藤家』の使者として来ている。
斉藤家も、織田の脅威がある以上、早く同盟なり不可侵協定締結をしたいのだろう。
関ヶ原ほか『領地の割譲』は、あくまでも停戦合意のための前提条件に過ぎない。
先月策定した軍事境界線を提案されている。
去年、斉藤家側から一方的に攻撃されているので軍事同盟は結ばないが、相互不可侵ということで話をまとめた。
『不可侵協定』、あくまでもお互い戦わないという約束だ。
もちろんだまし討ちをしたことについて、は厳重に抗議を申し入れている。
お詫びの印に、美濃の特産物、賠償金を受け取った。(けっこう儲けた。)
これにより、浅井家は斉藤家と正式に和睦した。
信長からの圧力がある為、さすがに義龍もこちらに仕掛ける余裕は無さそうだ。
西美濃三人衆らとしても、背中を晒して尾張勢とは戦いたくないであろう。
まあ、こちらとしても本音を言えば、交易路を閉ざされるのはかなわない。
それに、あまり展開が早いと新規に得た領地を上手く支配出来ないからな。
暴れ川でもある木曽三川を舐めると痛い目に遭いそうだ。
今のところは予定以上に進んでいるので欲張る気は無い。
それよりも、西美濃三(四)人衆と信頼関係を築いてしっかりと味方につけた方が良さそうだ。
軍事的にはともかく商人の往来については、互いに協力をする事を取り決めた。
市場の飢餓感も上手く煽ったし、揖斐川水系や北伊勢、千草越え街道、大垣、方面の商圏に食い込みたい。
帰り際、稲葉個人にも「義龍・竜興が裏切った時も浅井とは中立しろ」と伝えた。
苦笑いしていた。
やつには『美濃改め』の際に、千草越えルートでお目こぼしをしてやった。
まあ、利益供与だ!
うちの商人を稲葉の元に派遣して、そいつらに運ばせてお互いに利益を上げた。
美濃モノを欲しがるヤツは一定数いるから、裏取引で高値で売れた。
これが、『 経済を握る 』 と言うことだ。
稲葉とほぼ入れ違いで、『恒ちゃん』が来た。
”信長のお使い”と、”戦の掛け持ち”ご苦労様である。
『美濃改め』を始めて以降、ちょくちょく浅井家に顔を出すようになった。
敵の敵は味方という理論かな?
とはいえ、さすがにいつまでも経済封鎖はしていられない、思い通りにいかなくてゴメンよ。
美濃との停戦で、縁が切れたかと思ったが……、逆に危機感を持ったらしい。
よく考えれば、美濃南宮山城に井伊直盛を置いている。
近頃とても有名な、井伊家である。
『井伊家』か、『伊井家』か判りにくいので、”赤地に金の『井』の旗印”を与えた、あの井伊家である。
赤備えの具足は、実は旗を渡す口実である。
信長にしてみれば、浅井家が井伊家を通じて今川家に協力すれば脅威だろう。
仮に軍事同盟でも組んだら、信長にとって致命傷の一大事だろうな。
なにせ、俺の長男の生母が、井伊家の嫡流だ。
ああ、だからこんなに焦っているのか。
納得した。
『恒ちゃん』も、顔に疲労の色が出ているわ~。
「……とのことです。」
俺もついつい織田家のことになると入れ込んで、妙に現実感がなくなってしまう。
(しっかり現実を見据えないとな~。)
「はっ?なに…」
「ですから、信長様は、妹を輿入れさせることに決めた由にございます」
「え、誰に?」
(そういえば、妹沢山いたよね~ほとんど覚えていないけれど……)
「ですから、『浅井賢政殿』に『お市様』が、輿入れされます!」
「……うそ?」
「これは、決定事項です!当方は 既に、輿入れの準備を始めております」
「なに言ってんだよ~、恒ちゃん?」
「文句は、信長様に言ってください!」
「よし、お断りの文を出そう!」
「拒否いたします!」
「なら、使者を立てよう!!」
「お断りの使者ならば、間諜として斬るそうです!!」
「じゃあ、正式な使者を立てよう!!!」
「婚儀の御使者として、有無を言わさず、丁重にお迎えいたす所存です!!!」
「俺に拒否権は?」
「ございません! 拙者の首一つで、ご勘弁願いたい」
「それは~、却下かなぁ~」
「ご配慮有り難く頂戴いたします、いやあ、目出度いでござる」
「恒ちゃんのいけず」
というわけで、なし崩し的に婚姻が決まった。
(まあ、史実本来のお嫁さんだし、もらった方がいいのかな?)
そう思いながら、なんとなくOKしてしまった。
秋だ、秋だ~。
収穫の季節だ
米の出来もある程度安定してきたし、余裕がある。
収穫目前に領地が割譲されるとは運がよい。
支配地域の余剰人員(3男以下)は近場の所で優先的に土地をあたえ、比較的開墾の楽な近郊の開拓に廻している。
ただし、徴兵義務はもちろんある。
浅井領は近年戦乱が少なく実りが多い為、噂を聞いた人が集まってきている。
(いくさは実質3日で終わらせた。対象を美濃に搾った、限定的な経済封鎖のみ実施した。
そもそも騒ぎとなった肥田城は、もとは浅井領では無い。)
領内に流入した者達を囲い込み開拓団を結成し、滋賀北東部の山、大野木や、古橋、関ヶ原の山の方の開墾をさせている。
木材を大量に確保しつつ、畑と牧場(豚・山羊・羊・牛・馬)を作る予定だ。
飼いやすい豚を先行させる積もりだ。
革もそうだが、肉を味噌漬け保存して『栄養源の食料』としたい。
開墾中心の開拓団とは別に、『屯田兵』として、有事の際には足軽として戦わせる部隊を作っている。
50から100人規模で集団作業に従事させていく。
いまのところ5千人規模の開墾兵部隊だ。
黒鍬に対して白鍬か?赤鋤、青斧、白鎌とでも名付けようか。
(いや、センスがないな。)
それよりも、環境破壊にならないように配慮しないといけないな。
西美濃領に関しては、堅実な経営をしていく方針だ。
一応、耕作地の拡大を視野に入れているが、守りやすい佐和山以北、そして関ヶ原を優先する。
南宮山以東は一応敵地である、武力介入はかなり厳しい。
家臣の領地の農家の庶子を雇い入れ大規模開発を行いたいが、事前協議や準備がいるので今は調整中だ。
簡単な検地をおこない戸籍管理をおこないたい。
石田・小堀にマニュアル作りと係員の教育指導を命じている。
寺から引き取った、小姓達が意外と役に立つ。
経済的余裕が出てきたので、配下の武将の次男以降を知行貫高制で召し抱える事を推進している。
兵農分離の下準備の下準備を行う。
兵は、工兵として土木作業にも従事させる、というかそちらがメイン。
目指すは『戦う土建屋』だ。
後は運送業、戦が無くても『働く騎馬隊』(別名小荷駄とも言うが有事は戦わせる方針なのだ)。
輸送メインの関船艦隊。
漁業従事の小早衆。
笑える!冗談? いや真面目です。
人を殺しても、何も生みだしはしないのだ、太平の世の中でも食えるようにしてやろう。
江戸時代になってから、俺の配慮のありがたみが判るだろう。
従来の兵農分離とは一線を画すが、俺的には、純粋な常備兵を持つほどの戦争はしたくないのだ。
だから必要時に動員可能なように、仕事をあたえながら浅井家配下にしておく。
その指揮官となるのが、今回召し抱える者達の役割だ。
有事の際の動員と生産の維持を図る為の仕組みを検討している。
別に戦国時代に転生したからといって、大戦や虐殺をしなければならないという決まりはない。
というか、する必要がないようにしたい。
理想主義だろうけれど、なるべく平和裏に日本を統一したい。
その為の努力だと思っている。
とはいえ、俺だって死にたくはないから、綺麗事だけで済ませるつもりは無いけどね。
これも、押しかけ女房でしょうか?
後、数話で
『お市がようやく登場します』