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長政?はつらいよっ!! 静かなる逆襲!!  作者: 山田ひさまさ
~ 浅井はやっぱりハードだねっ!! ~
20/23

『永禄の変(前編)』

永禄の変です。



― 浅井家 京屋敷 ―


歌合わせの会の後。


カルタ大会も無事に終了し、屋敷へと戻った。

「ふう、ヤレヤレ疲れた~」


そう思っていた矢先、急報が飛び込んできた。

『三好勢に不穏な動きあり』


俺は、あわてて御所へ使者を飛ばし警戒を促した。

「友松、すまないが御所へこの事を知らせてくれ! 急げ!!」

「ははっ」



― 5月18日深夜 二条御所 ―


「何? 三好に怪しい動きがあるだと」

寝間着姿の義輝は不機嫌だった。


「ははっ、浅井賢政殿の配下、海北友松様がそのように…」

「通せ!」

「はっ」


「海北殿、使者の件かたじけない」

義輝が直接使者の海北と言葉を交わした。


「勿体なきお言葉、念のためご準備をしてくだされ」

「うむ」

義輝は、浅井賢政からの急報を受け、二条御所を脱出する手はずを整え始めた。

難を避けて京を離れるために……。


 しかし、義輝の近臣は京から避難することは将軍の権威を失墜させると強硬に反対した。

「なにかあった時は、義輝公と共に討死覚悟であります!」


そのように言われれば、否とは云えない、義輝。

将軍とは云え従者なしに一人では動けず、不本意ながら御所へ留まりました。


義輝公は海北友松に、おなご衆を託されました。


― 浅井家 京屋敷 ―


「殿!義輝公は籠城する意向にございます」

「は、何だって!あの御所にそんな防御能力はないだろう?」

「武家の意地だそうで、慶寿院さま他女性方を落ち延びさせるようお願いされました」

「はあ? 女性の保護は判ったが、いったい何を考えている。 馬鹿なのか?」

「近習の皆様方が頑なに…」

「上様を逃がす役目の者が、逆に追い詰めてどうするのだ~、バカ者どもが」


早急に兵を集める必要があるので、弥太郎を急ぎ近江に遣わした。


 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


御所より逃げ出したおなご衆が屋敷へ移された。


「賢政様ぁ~!」

綾姫が不安げな表情のまま、俺に駆け寄ってきた。

いきなりの変事だ、可哀想にさぞ怖い思いをしたであろう。

不安にさせないように、俺は優しく抱き寄せた。


「もう大丈夫ですよ、この賢政が、あなたを護りますご安心してください」

「ううぅ、…はぃ」


不安にさせないように精一杯優しく宥めるしかなかった。

軽く頭を撫でながら、しっかり目を合わせて不安を取り除く。


「私がついております、何も心配要らないからね」

「はい、ふつつか者ですが、よろしくお願いいたします」

照れたように、はにかむ綾姫。


よかった、どうやら少しだけ笑顔を取り戻せたようだ。



 脱出計画を大幅に変更し、兵200名と磯野勝昌を付けて女性陣を先に近江へと逃がすことにした。

三好の意図が分からない以上、京に置いておく訳にはいかなかった。

身の危険のない、身分の低い者は実家にさがらせる。


 それでも足の弱い女性を引き連れての逃亡は大変だ。

たとえ情報不足で後々無駄となったとしても、念のため先行して逃がすしかない。

勝昌ならば任せて安心だ。

大急ぎで輿などの支度を調え、夜明けの逃走劇を開始した。


もう時間が無い。


~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


一夜明けて、5月19日


綾姫を見送ったそのあしで、俺は二条御所へ参上した。

《参上といえば聞こえがいいが、火急の折だ馬で駆け込んだのだった。》


「上様!急ぎ脱出のご用意を」


忍びの情報では、三好方は、清水参拝と称して早朝より人数を集め洛外に待機させていた。

その数は、かるく1万を超えるらしい。


「上様、お早く! 今であれば、馬で北へ逃げればまだ間に合います」

「うむ」


「上様に逃げよとは、浅井はやはり恥知らずな臆病者よ」

「「「そうじゃそうじゃ」」」


 ああ、どうやらここに莫迦が居たようだ。

死にたがりの莫迦か、現実を知らず土壇場で裏切る大馬鹿かどっちか知らんが、俺から見たらゴミである。

(三好の息のかかった引き留め要員が、この中にいるやもしれないな。)


ここまで首を突っこんでしまっては、もはや俺だけ逃げる訳にも行かなくなってしまった……。

(くそ忌々しい、……)


”バキィッ”

この俺に向かって偉そうな戯れ言をほざいた奴を、思いっきりぶん殴ってやった。


”ドカッ、がしゃ”

受け身すら取れず、無様に倒れる馬鹿野郎。

(ふん、ざまあ!)


言って置くが、今の俺は六尺余(188cm)あるんだぞ、正直サシの勝負なら負ける気なんかせんわ!



『よろしい、ならば全面戦争だ! 皆、上様を守りぬいて死ぬがいい。

 敵を前にして逃げようなどとするような奴は、俺が斬り捨てる!! 』


そう啖呵を切って、俺は覚悟を決めた。



 ……と言う訳で、俺は、友松以下30名の兵と御所に詰めた。


「ふうっ」


さあ、グズグズしてはいられない。

他の者は、戦闘準備のためにすでに走り回っている。


奉公衆にも、最新の武器と防具を貸し与えた。

(出来れば、なんとか生き残って欲しいものだ。)



二条御所には、いいようのない緊張感が走る。


《まるで、共通1次試験の試験会場のような、静寂と緊張感である。》


 そんな中、松永の軍勢150ほどが、御所に参上してきた。

みなに緊張が走る。


「はははっ、三好に先を越された模様です。 もはや逃げられませんなぁ」

妙に晴れやかな松永弾正久秀が、にやりと笑う。


「それはそれは、…降伏勧告ですか?」

俺は、いちおう真意を問いただした。


「いえいえ、それがしも籠城いたしたく参上しました」

「なにゆえに?」


「つまらない謀反の片棒を担ぐくらいならば、いっそ討ち死にをした方がマシでござるよ」

「なるほど」

やはりそうだったか。


「それよりも、賢政殿がいらっしゃるとは意外でしたが……」

「いやぁ、なぜか逃げそびれました」


「ははは、賢政殿らしい」

「面目ござらん」

(久秀は、死に場所を求めているのか? 俺はそう簡単に諦めないぞ。)


それからしばらくして。


 

三好一党が、清水寺参詣を名目に、1万の軍勢を従えて御所に押し寄せた。


「はあ、これだから田舎者は困る、清水寺は五条大橋の東の山の中だ!」

俺が軽口を飛ばす。


「まあ、しょせん四国の田舎の出ですからなぁ」

久秀が、軽妙に応える。


「「「「ははは~、まことに左様で」」」」

みなが、強気にカラ笑いをした。


ふう、間が持たんわ。


なんだかんだ言いながら、知らぬ間に奉公衆の人数が次第しだいに減ってゆく……。

(糞どもが、最初から逃げればいいものを)




― 運命の時 ―


 三好方は、公方様に訴訟があると申しいれてきた。

その訴状を捧げて、受け入れるよう要求してきた。


役目上仕方なく、奉公衆の進士晴舎が訴状の取り次ぎに出ようとした。


「上様に訴訟があると言って取り次ぎを求めていますが、あれはウソですね」

俺は、進士晴舎が訴状の取り次ぎに出ようとするのを止めた。


「なぜじゃ」

「1万もの軍勢で囲んで威嚇だけと思っているのであれば、お目出度すぎますね」

「くうっ」

「とりあえずヘタに刺激しないように、やんわり軍勢を下げるように伝えてください」


「ええい、お前などに指図はされん」

取り次ぎが往復する間に、三好の足軽や鉄砲衆は四方の門から侵入しようと攻撃を開始します。


それを将軍家主従40名、そして浅井・松永兵200名で迎え撃ちます。


すでに、義輝公は、俺達そして近臣たち一人一人と最後の杯を交わし終えました。

最後の水盃です。

みんないい顔をしています。


選ばれし精鋭は、以下の通りである。



一色淡路守、有馬源二郎、一色又三郎秋成、上野兵部少輔輝清、上野与八郎、結城主膳正、高伊予守師宣、彦部雅楽頭晴直、彦部(弟)孫四郎、高木右近、小林左京亮、河端左近大夫らが、兵を率いて防衛戦の指揮を執ります。



輪阿弥、 武田左衛門佐信景、杉原兵庫助晴盛、朝日新三郎谷田民部丞、西川新右衛門尉、匹田弥四郎、松井新三郎、西面左馬允、が配下と館の守りを固めます。


荒川治部少輔、 二宮弥三郎、寺司与二、細川宮内少輔、進士主馬允、飯田左吉、木村小四郎、松原小三郎、 粟津甚三郎、台阿弥、松阿弥、竹阿弥、大弐、金阿弥、心蔵主、粟津仙千代、摂津糸千代丸、 畠山九郎、大館岩千代丸が、将軍のおそばで戦います。


そして、三淵藤英、 細川藤孝、松永久秀、浅井賢政である。


(なんで、こうなるんだよ~)


~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


門のひとつが破られました。

取り次ぎをしていた正門です。


防衛担当部隊の一色秋成・上野輝清・ 高師宣・彦部晴直・細川隆是・武田信景・ 杉原晴盛らが、

配下の兵と共に守りを固めます。

鋒を聯ねて突出し、肉薄して賊と闘い数十人を斬りまくります。



御所の外では……。


 この時になって、府兵や、京師に在籍する者たちが、変事を聞きつけて集まって来た。

或は曰く、「早くお助けせねば」と。

或は曰く、「衆寡敵せず、もう助けてもダメでしょ」と。

結局、みんな見てるだけだったようだ。


 そんな中、 治部藤通、その弟福阿弥と沼田光長らが奮いたった。

曰く、「吾れら、死あるのみ」と。

槍を提げ持って駆けつけた。


御所にたどり着き、

「我ら、将軍義輝公と共に戦い、死のうと思う。頼むから中へ入れてくれ」と

(馬鹿正直に言っちゃいました。)


もちろん、敵である三好方は許すハズがありません、追い返されました。   

(平家物語の世界なら『心ある敵将』がはらはらと涙を流し、武士の鑑とばかりに笑顔で送り出すのでしょうがね。現実は非情です。)                



 そこで諦めないのが、この三人のエライところで…、騒ぎに紛れてちゃっかり御所に入り込みました。



 ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~


”ドン” ”パアン” 


「うあぁ~っ」


”ガシャ”


”ぎぎっぎ~いっ”


門が破られました。


「「「かかれ~」」」


「「「まもれ~」」」


”がきっ” ”ごすっ” ”ぎい~ん”


みなの奮闘のおかげか、ずいぶん持ち堪えています。

圧倒的に敵方の三好兵の犠牲の方が大きい様子です。


しかし次第に数の暴虐という名の海に呑み込まれてゆきます。



だんだん、騒ぎの音が近づいてきます。


殿中では敵の侵入を許してしまった進士が御前で切腹しようとしましたが、俺が止めました。


”ごつん”

「腹を切るぐらいなら、敵を斬れっ! 皆で20人斬ったら勝利が見えて来るぞっ」


「しかし……」


「儂も、賢政の云う通りだと思う」


「上様ぁ~っ」


 しかし、どう足掻いても多勢に無勢。さらなる侵入を許してしまいます。

どうやら門近くを守っていた松永勢が崩れた様子だ。


 三好兵が大挙して屋敷にまで侵入してくる。

身分卑しい下人どもが、土足で権威ある将軍御所を蹂躙してゆく……。


 将軍配下の奉公衆の手勢も必死で、応戦するが、いかんせん数が厄介だ。

勢いに乗る沼田光長、治部藤通、弟福阿弥は、鎌鑓で数十人を討ち取る働きを見せます。

彼らは、返事を聞きつけ敵を斬りながら御所へと駆けつけた猛者です。


三淵・細川兄弟も互いにかばい合い、奮戦しているようだ。

他の奉公衆も、将軍仕込みのかなりの猛者です、頑張って応戦しています。


将軍方の思わぬ奮戦振りに、三好方の兵たちは大いに驚き攻撃の手が鈍っている模様だ。



― 御殿にて ―


 いくら個々の技量では優れているとは云え数では劣勢だ、将軍の配下の奉公衆にも多くの負傷者が出る。

手当をするため順次さがらせる。

もはや、上様を御護りする手勢が僅かとなってしまった。


「上様奥へ!」


じりじりと奥の間へと、下がるしかなかった。



「すまぬな賢政、巻き込んでしまった。 もはやこれまでのようだ……」


 将軍足利義輝公は、力なくそうつぶやいた……。






賢政は、しっかりと巻き込まれました。


次回、後編です。

お楽しみに。

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