『虚々実々』
お待たせしました。
一晩寝て復活です!!
杭瀬川の対陣は、浅井家の勝利に終わった。
主力本隊以外に遊軍を投入出来る浅井家との戦力の差に破れたと言ってよいだろう。
西美濃三人衆が防衛側に参戦していない時点で、勝敗は決してしまっていたとも言える。
安藤守就は稲葉山城から動けず、稲葉良通・氏家直元そして不破光治が様子見では、
端っから勝負にならなかったと言ってもよいであろう。
まあ、誰もが浅井が勝つであろう事は予測していた。
浅井家の勝利を伝える伝令の報告は、ただの確認である、ハズだった……
報告を待ち望む主に
『浅井家勝利!』という、正式な報告以外の様々な報告が入ってきた。
西美濃に放っていた間者からの報告である。
『浅井賢政、刺客に襲われ重傷!』
『いや、軽傷らしいです』
『本陣は、南宮さんまで下がりました』
『別働隊は、依然活動中』
『賢政殿の安否は不明』
『指揮を井伊直盛に預け小谷に帰還した模様』
『浅井家、中美濃を調略中の由』
『西美濃三人衆が、浅井と共闘した模様です』
『刺客は、竹中の手の者であると噂されております』
『北方城落城いたしました』
『本隊は一旦、近江に引き返す模様』
まさに玉石混淆、本当のところがどうなっているのかが判らない。
織田信長は、清洲城にいた。
服部左京大夫に不穏な動きが見られる以上、本拠地をおろそかには出来ないのだ。
浅井家が、西美濃を確保したのであれば、すぐにでも共闘して稲葉山城攻めを行いたいというのに。
浅井の本隊が、後退している以上は動けない状況だ。
一方、竹中半兵衛は会心の笑みを漏らしていた。
家中の者に死兵となって『賢政』を狙うように指示を出していたのだ。
賢政がいかに卑劣な奸計を巡らせようと、奴さえ居なければ江北勢は動けまい。
周りの警戒が厳重で、多くの者が捕縛されてしまったらしいが、決して捨て石ではない。
「私の勝利のためだ許せ!」
しばらく目を瞑りじっと何かに堪えるようだ。
竹中の為に散っていった配下のため瞑目したのだろう。
「賢政を仕留めたかどうかは不明でありますが、浅井の動きは止めました」
そう、安藤守就に告げる。
「さようか、一軍では無く刺客が止めたか?」
北方城落城の知らせを受けていた守就は流石に消沈している。
「はいそうなります」
「ふう……」
「落ち延びてきた残兵をまとめたいのですが」
「わかった、こちらで指示しておく、あとは頼む」
肩をおとし立ち去る後ろ姿に覇気はなかった。
「……仕方がないか」
浅井に対しての当面の処置を終え、半兵衛はさらなる手を打った。
5月
尾張にて、一向一揆の火の手が上がった。
三河の一向一揆が飛び火して、尾張を襲ったのだ。
隣家に放った火の手が自身の庭に燃え広がって来たのである。
(ある意味自業自得である。)
寺や信者に明確な国境などはないのだ、逃げ込んだ先が尾張であっただけのこと。
まあ、そのように追い込んだ者が裏には居るのだろうが、一揆勢にそのようなことは関係がなかった。
尾張には信長の武名が轟いており一揆の規模自体は小さかったものの、被害がないわけではない。
早急に事態を沈静化せねば、農繁期に支障を来す。
一揆の対策に下手を討った信長は、手ひどい目に遭った。
本願寺との対立は避けたかったものの、どうしょうも無かった。
本願寺の支援を受け、服部左京大夫は勢力を強めた。
当面は無理をするつもりは無かったものの好機が来たとなれば話は違ってくる。
「織田の守りは意外と脆弱である、正面から当たらず搦め手から当たれ」
その指示の下、無名の国人・地侍が、肥沃な尾張を虎視眈々と狙う。
一揆という、農民の集団の影に隠れて、暗躍が始まった。
拡がる戦火の中、美濃・尾張の者達は忙殺され江北の賢政の存在を忘却していった。
― 小谷にて ―
4月3日
事後のことを、井伊直盛・遠藤直経、そして新西美濃三人衆に任せ、俺は小谷へと引き揚げた。
そして今、雲雀山で静養している。
静養だ、療養ではない。
刺客に襲われた時を回想すると、今でも心が痛む。
「「 浅井賢政あ~っ、覚悟お~おっ 」」
茂みからいきなり人が現れ向かってくる……
咄嗟のことに、頭が真っ白になった…
「刺客?」
そう脳裏に思った時には、すでにそこまでせまっていた……
身体が勝手に反応してくれた。
”シュヒュン”
”バサッ”
”ドスッ!”
そう、俺は……はじめて人を殺めてしまった……
戦国とは云え、正当防衛とは云え人を斬ってしまったのだ。
陣屋近くまで紛れるためか、刺客はなんの防具も着けておらず、俺の斬撃は刺客の腹部を容易く切り裂いた。
まあすぐに、警護の者が来てくれたおかげで大事には至らなかった。
「何奴だ?」
「若殿、申し判りません、この治右衛門…今一歩およびませんで……」事切れた。
ただ、斬った相手が、半兵衛に懺悔していた。
捕らえたもう一人に確認した。
”伊藤治右衛門”だという。
伊藤治右衛門、竹中十六騎の中でも名の知れた人物じゃないか?
こんな、貧農と見紛うまで身をやつし脇差し一つで死兵となって俺を狙ったのか。
まさか、そこまでして半兵衛は俺を亡き者にしたかったのか?
俺は恐怖した、そこまで人に恨まれたことなどない。
金に雇われた刺客だとしてもショックなのに、忠義を以て襲われては堪らない!
「ッ、すぐに直経を呼べ!」
「「ははっ!」」
極秘に、事を進めた。
事実のみを、関係者に伝える。
『浅井家勝利』 『北方城落城』という、正式な報告だ。
後は、美濃から離れるのみだ、旗本を集め江北に引き揚げる。
味方の国人達には、『俺は一旦、近江に戻る事』を告げた
本隊には、『本陣は、南宮山まで下がるよう』命令した
『その後の指揮を井伊直盛・遠藤直経に預ける』と言い置いた。
旗本別動部隊には、『浅井家は引き続き中美濃を調略する旨』を申し伝えた。
俺の安否については、『虚報に惑わされるな』と厳命した。
本陣に直経を置いておけば、江北の者には俺が健在だと判るだろう。
もし俺が本当に重傷であれば、直経なら『薩摩の敵中突破』か、『井伊の退き口』バリに万難を排してでも俺の元に戻るだろうからな。
その点は、恐ろしくも頼もしい俺の 『炎の特攻隊長だ』
噂が噂を呼んだ。
『浅井賢政、刺客に襲われ重傷!』
『いや、軽傷らしいです』
『別働隊は、依然活動中』
『賢政殿の安否は不明』
『西美濃三人衆が、浅井と共闘した模様です』
『刺客は、竹中の手の者であると噂されております』
『北方城落城いたしました』
「虚々実々とは、よく言ったものだ」
本当のことを触れ回っても、このさい仕方がない。
味方の動揺を抑え、自分の身の安全を図ることが最優先だ。
いかに、警護を密にしたとしても、ここまでの死兵は想定していない。
想定が甘い以上、無理は禁物だ目的は達成したのだから退くのが吉だろう。
竹中と織田が、噛み合ってくれればそれで良い。
今、稲葉山城を獲るつもりがない以上無意味だしな。
戦闘・戦術的な用兵では、竹中半兵衛に勝るものはそう多くはあるまい。
しかし、半兵衛の手はそれほど長くない。
国人領主としては最高峰と言える山でも大名クラスと比べれば、所詮はただの山となってしまうのだ。
竹中半兵衛は、稲葉山城という『中美濃の最高の要地』を手に入れてしまったが為、動けまい。
そこを維持するのが精一杯で、そこからそとへは抜け出せないのだ。
いわば、稲葉山城は半兵衛を閉じ込める檻でもあるのだ。
檻に入った猛獣に不用意に近づく趣味もない。
せいぜい、すき勝手にやればよい。
城を獲るのと、国を治めるのは別物だ。
半兵衛にその能力があるのか、これは見物だ。
軍師か、大名か、せいぜい国人止まりか、外野席から覧てやろうでは無いか。
あんな狂犬に近づくなど御免こうむる。
須賀谷の湯にのんびりと浸かりながら、俺はそう思った。
― おまけ ―
ある警備の者の目撃談
春の空気が爽やかだ、思わず居眠りしてしまいそうである。
と、そこに殿がおいでになった。
(やばいやばいちゃんとしなきゃ、遠藤様に殺される!)
「殿、どちらへ?」
「少し散歩がしたい、外へ出るぞ」
「ははっ」
颯爽と陣屋の外へ出られた。
(あ~俺もどこかでぶらぶらして~戦が無ければ、花街にでも行きて~よ)
そう思いながらも、警護のため少し距離を取って付いて行った。
「「ふぁはあ~あっ」」
殿は大きく伸びをされた、俺はそれに紛れて大あくびをした
と、その時!
「「 浅井賢政あ~っ、覚悟お~おっ 」」
茂みからいきなり人が現れ向かってくる……
「えっ?」
咄嗟のことに、頭が真っ白になった…
「刺客?そうだ殿を御護りしないと……」
そう脳裏に思った時には、刺客が殿にせまっていた……(不覚!)
”シュヒュン”
殿は悠然したまま、素速く刀を抜かれ…
”バサッ”
刺客を、…一刀のもとに、惨殺された…
”ドスッ!”
「わか…じうぇ…ません……」
横たわった刺客は無念の言葉を吐いたみたいだったが、すぐに事切れてしまった。
そう俺は……
とんでも無いものを見てしまった。
「つえぇ~、護衛なんていらね~じゃん!」
もう一人の刺客は、腰を抜かし盛大にションベンを垂れていた。
よく見りゃこっちはまだ子供だ。
ありゃりゃ、泣き出しちゃったよ、どうしよう?
その後、俺は、何故かそいつを俺の弟として引き取ることになってしまった。
戦争はいやですね。
命を狙われるのはたまりません。
データーが飛ぶのは、もっとイヤです!
暗黒軍師の、黒ウイルスに感染か?
パソコンに異変がっ!
おのれ~半兵衛ェ。