『 蠢 』. うごめく 策謀
『長政はつらいよっ!静かなる逆襲!!』
はじめます。
『桶狭間の激戦』 の詳細な情報が入ったのは、戦いから数日後のことだ。
世の中、桶狭間の話で盛り上がっている。
中でも、喧しいのが、天候さえも味方につけた、『信長の決死の突撃』
なにせ、今川の大軍に怯まずに全軍突入を敢行したのだ、並の統率力ではない。
尾張から、あの今川を退けたのだ。
もはや、彼を『うつけ』と呼ぶものはいない
そして、『井伊の退き口』だ。
直親に随伴した家臣のほぼすべてが討ち死にすると云う、恐るべき撤退戦だ。
深傷の義元公を叱咤激励し、自身の家臣団、全滅覚悟の強硬突破で見事、主君の生還を果たした。
全身血まみれの赤ずくめで、かの朝比奈や松平も呆然と彼を迎えたという。
『今川の赤鬼、井伊直親』の誕生である。
破れはしたものの、不屈の闘志を見せ、今川の崩壊を阻止した。
こちらも、その壮絶さに、皆が賞賛している。
『隻腕の義元』は、家中の動揺を抑えきった。
やれやれ、本当に歴史が変わったな!
これからは、軍政や練兵にも力を注ぐ必要がある。
誰にも先は読めないのだ、打つ手を出し惜しみする余裕は無い。
― 新しい歴史が、これから始まる。 ―
『いざ小谷!!』
俺は、江北の家臣全員を集めた評定を連日続けた。
みんなで、歴史を切り開くのだ。
『浅井は江北の為に』
『江北は浅井のために』
そして、そんな興奮もさめやらぬ6月のことである。
六角家当主、義賢様は、嫡男の義治に家督を譲って隠居し、剃髪して『承禎』と号してしまわれた
京での政治活動にて俺が素直に従ったので、安心したのだろうか?
(浅井家の従属を確認してしまった感があるからなあ。)
平井家から出した俺のの正室が懐妊したからか?
俺が内政に没頭している姿から、何かを見抜いたか?
それとも今川義元のあっけない敗北と、氏真の不甲斐なさになにか思うことがあったのか?
おいおい、あまりにいきなりすぎてビックリした。
まだ40歳になるかならんかですよね?早すぎませんか?
確か史実では、……俺が元服した後早々に戦いをふっかけて、少数で2万5千の六角義賢さんをぶちのめしたから落ち込んで隠居したんだよね。
(なにげに凄いでは無いか長政、完全にラッキーパンチだろうけれど。)
でもね、俺は大人しくしているよ。
信長の『桶狭間』みたいに戦いの詳細を克明に覚えていたら、俺も乾坤一擲の大勝負をやったかも知れないけれど、『そんな事もあったかな?』という記憶レベルでは、あまりに博打すぎるからしなかったぞ。
(ここら辺の諸事情はあまりよく解ってない。一級資料が揃っていないのか?単に俺が覚える気なかったのかだ。)
突然のことに対応が遅れそうになったが、四郎(義治)の奴が当主に就任するんだから、お祝いを述べないとい けないではないか。
平井の義父上がフォローして下さらんかったら、ぶっちこいてたぜ。
観音寺城では、慌ただしく準備がなされ、7月7日に義治の当主就任が行われた。
儀式の内容は、まあ普通だたいしたことなかった。
というか、完全に虚仮にされたぞ。
現状では、浅井家は同盟者としてではなく、臣下として控えるのはまだ納得出来るが……。
(浅井を重臣ですらなく、新参の一家臣として扱うとは……。)
末席なら、まだ『別格のゲスト』をふてぶてしく装えるが、俺に親しい小身の家臣を交えているところが小憎らしい。
まあ、これで奴の守護としての器量は見て取れた。
奴は守護の器に非ず、ただの『六角のバカ殿』である。
え、なになに、『誠心誠意、義治様に仕えろ』ってか?
いやだよそんなの詐欺じゃねえか。
せっかく、「近江の桶狭間」を俺が我慢してやったのに……。
まあ、史実遵守であれば、浅井は大名家として、いち早く独立し独自路線で行けば良いんだけれどね。
今のところ、敵がいない方が内政チートしやすいんだよ、『金よ、お金儲け!』
史実の通りに独立をすすめて二正面作戦すれば、俺の名声と兵の練度は上がるだろうが、敵が強すぎてすぐに疲弊してしまう。
たとえ上手く斉藤と歩調を合わせたとしても、六角相手ではまだ分が悪すぎる、完全に幕府を敵にまわす状態だ。
そんなこと常識では考えられん、必ず斉藤に後ろを取られる。
何とかしぶとく生き残っても、肝心な場面で力不足では、信長に江南を総取りされてしまう。
それでは面白くないよね。
肝心の上洛戦では、地元なのに軍3000とか少なすぎだ。
せめて6000出せば<なにがしか南近江の利権をとれただろうに。
あれでは、ただのお手伝い、オマケでしかない。
『調略で、敵の武将を引き込み部下にする』とか方法はあったはずだ。
だがプライドで要らん戦争をして、六角家中の者に「信用出来ない敵」として認定されたんだ。
長政は状況度外視で感情だけで突っ走る馬鹿だ。
俺は賢政だ、なんとか自重せねば。
一応、弟(長政?)にも変なことをしないよう目を光らせておこう。
俺は、不快感を押し隠し、なに喰わぬ顔でこの儀式に臨んでいた。
式の後すぐさま小谷へと戻った。
この話を聞いた家臣の暴発を抑える必要があったからだ。
その為詳細を知らないが、義治は酒宴の席で俺と懇意にしていた高野瀬肥前の守を激しく叱責したようだ。
「裏切り者!不忠者!!」とまで決めつけ、口汚くなじったらしい。
よくわからんのだが、裏でも相当圧力をかけたようだ。
堅物の高野瀬が気の毒だ、本当に四郎は陰険だ。
『とりあえずは良い子ちゃんしてようと思ってたらこれだ。
台無しじゃねえか」
でも義治相手なら俺も自重しない、これ以上の譲歩は大名として致命的だ。
「くそ~それでは、向こうの思惑通りか?」
ヘタしたら義治の粛正リストの上位に俺の名前があるんじゃないか?
新たに六角家の当主となった義治は、四郎と呼ばれる昔から浅井を目の敵にしていたしな。
まあ確かに、奴は俺と同い年だから、気になるんだろうし。
俺もある意味六角生まれの六角育ちだし。
俺のが遙かにお利口で六角家でも人望があるのだ。
比べられたら腐ってしまうのは判るのだが、正直迷惑だ。
義治としても、俺が敵なら踏みつぶせば良いのだが、現在浅井家は従属している以上は手が出せない。歯がゆいのだろう。
向こうは、やる気だろうか?
いきなり襲われてはマズイから一応、防衛の準備をしておこう。
前世の日本みたいに油断したら首チョンだ。
家臣を宥めてまで従属しているというのに、新当主に嫌われるなんて困ったな。
縁を出産の為に観音寺の平井屋敷に宿下がりさせようと思っていたけど、ヤバイ気がしたので小谷で産ませよう。
義父上もフォローよろしくと伝えた。
新たな主君に不安を感じ、アホ殿にそうそうに見切りをつけた高野瀬備前守(愛知郡肥田城主)が密かに俺に保護を求めてきた。
「え~。高野瀬の馬鹿野郎、まんまと義治の罠に嵌まりやがったか?」
優秀な忍者を多数抱える六角には、高野瀬の動向がバレバレだ。
というか完全に向こうのシナリオだろう?
義治にして見れば、高野瀬は浅井家に寝返った形となった。
六角義治は高野瀬備前守の浅井への寝返りに激怒し、すぐに肥田城に攻め寄せるよう下知した。
『義治め!浅井を嵌める気か!?』
まあ、実際には一色義龍と京極高吉が裏で糸を引いているらしいな、
(ああそうか、本当ならここで例の戦いがあったんだな?友好的すぎてイベントの相手が変わったとか?
バレバレじゃないのか?
ずいぶん舐められたものだな。
一応、俺の存念を詳細かつ簡潔に手紙に記して、平井殿に送った。
― 平井定武殿
新当主の義治殿が一色義龍・京極某に踊らされている。
あいつバッカじゃねえの?
義治は、近江守護の自覚がないのか?
おもちゃ(六角家)を手に入れて舞いあがっているのか?
俺の苦労が台無しだ!
俺は戦いを望んでいないのに、初陣の相手が六角家とは皮肉です。
でもまあ、六角と対決した時点で俺は死ぬしかないのかも知れませんね、いろいろ目をかけて下さりありがとうございました。
平井殿ご健勝で!他の皆様にもよろしくとお伝え下さい。
縁と生まれる子供をどうかよろしくお願いします。
敬具、賢政、拝。 ―
7月11日
六角軍の総勢は2万で、すぐさま肥田城を囲った。
総大将は義治、先鋒に蒲生定秀と永原重興、第2陣に楢崎壱岐守と田中治部大輔らが参陣していた。
肥田城は浅井・六角領の境界線近くに位置する為、放っておくわけには行かなかった。
「助けないと、浅井は腑抜けと天下の笑いもの、助けに行けば大軍に袋だたきでボッコボコ」
しかも、美濃の竹中さんが怪しい、ははは。
笑える、マジで四郎の馬鹿に頭を下げるしかないってか?
美濃では、義龍がいまだに唸っていた。
信長は、もはや、『うつけ』などと、あなどれん存在である。
現状での大規模な二面作戦は、絶対に避けなければならん。
とても危険な博打は出来ない。
西美濃の国人衆の要請もあり、密かに『六角の小倅』と誼を通じ、浅井家が領する、江北を伺っていたというのに……くそう。
「しかし、かような次期に、まさか六角が代替わりとは……むうっ」
そして、竹中重治も頭を悩ませていた。
半兵衛の進言が、御屋形様に取り入れらてはいるが……、
現在の所、『しばらくの間は様子見する』となっていた。
『代替わりを迎えた六角家』
今が、絶好のチャンスなのだ!!
美濃を守る為には、計略と大胆な行動をもって、先んじて浅井を封じる必要があるのだ。
竹中半兵衛は、浅井の躍進を危惧していた。
近年の浅井は、めざましく成長しており、今後、さらに大きくなるのは間違いないだろう。
勢力を拡大する浅井が、一体どこを目指すのか?
知れたこと……、浅井賢政の動きを読めば、目的は 『 美濃 』しかないのだ。
『浅井賢政殿』は、良き領主であるらしいのだが、『美濃にとっては侮れない敵』になる可能性が高い。
最も注意が必要な存在になるだろう。
あの浅井家が、自ら六角や浅倉の敵になるという事は考えられないのだ。
それなのに……、信長のせいで戦略を大きく変えざるをえないのだ。
「この策しかないか……」
・ 浅井が狙うは、美濃(それも揖斐川以西)である。
・ 現在の浅井家の最前線は、不破の関近辺、関ヶ原が係争中である。
・ 関ヶ原以西は、地勢的に桶狭間そのもの、いやそれ以上の難所である。
半兵衛の性格を顕すかのように丁寧な文字で書かれた、箇条書。
いったい半兵衛はどのような策を用いるのであろうか?
半兵衛が大きく立ちはだかります。
ちっともイージーでありません。