素敵な名前。
雰囲気小説です。
かなり短いので最後まで読んでいただければ嬉しいです。
『僕には素敵な名前がありすぎてさ。』
私は毎日学校の図書室へ通っている。
誰もいない。
しまいには受付の係までいなくなってしまった。
そんな寂しい部屋に
今日は一名の先客がいた。
知らない人。
先輩だな。
綺麗な顔をした男子だった。
そう思った。
整った輪郭、スッとした鼻、
青白い肌はいつも保健室でお世話になっています、
と言わんばかり。
健康には見えなかった。
あくまでも私にはそう見えたという話。
だが、その青白い色が
幻想的にも映った。
窓から差す六月の日の光が
その美しく淡麗な顔をさらに輝かせるのだった。
ふいにその先輩は
読んでいた本をパタンと閉じて
腰掛けていた椅子から立ち上がった。
そして、私に言った。
「…!
気付かなかった。
声をかけてくれれば良かったのに。
君…名前は?」
「えっと…。
清水由里です。
先輩は何て名前なんですか?」
「?
え、名前?あれ、覚えてない?
ま…いっか。
…ふふっ!
僕には素敵な名前がありすぎてさ。
忘れちゃった!」
薄く笑って。
そして
「会えて良かったよ。
じゃあ…またね。」
そう言うと足音もなく静かに図書室を出ていった。
「なんだそりゃ…。」
先輩が部屋をでていった後
私はポツリと呟いた。
呟いてみただけであった。
最後まで読んでくださりありがとうございます。