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1 腹ペコ僧侶

 

 大陸の東端にある一地方都市に、男はのんびり暮らしていた。

 その男はすっかり寂れきった教会の広間のベンチに寝転がっており、薄汚れたローブを纏っている。

 割れたステンドグラスからは夕暮れの陽の光が注ぎ、天井の木材には鳥の巣があり、今日も小鳥が元気に餌を求めて鳴いている。

 それを子守唄代わりに平和に昼寝に勤しんでいた男は、突如訪れた来客によって安寧の時間を奪われることになる。

「ごらぁ、糞僧侶はいるか!」

 お世辞にも善良な市民とは言い難い風体の男の集団が、教会の扉を乱暴に開け放し、先頭に居たスキンヘッドのリーダー格の男が呼び掛けた。

 それに対して寝転がっていた男は、大層眠そうに眼を擦っただけである。

 普通の人間なら、何事かと飛び上がってもおかしくない事態であるのに、男はあくまでもマイペース。

 その証拠にのんびりと起き上がって伸びまでやってのけた。

「んー……、何のご用件で? 寄付金なら、横の箱に入れておいてくれ」

 男のどこまでものんびりとした態度に、元々気が立っていた男達は早くも我慢の限界に達し、ナイフやメリケンサックを取り出して男に襲いかかった。

「この野郎がぁ!」

 リーダー格が横並びのベンチに挟まれた狭い通路を先頭となって突進、男に肉迫する。

 男は寝ぼけ眼に丸腰で、リーダー格はナイフを持って先手を取っている。

 取り巻き達は、あっさり勝負が着くと予想した。

「えーと、教会内では――」

 男は、素早いと言う言葉すら生ぬるい速さでベンチの下に置いてあった黒い金属の塊を取り出した。

 そして、それを突っ込んで来た男の額に押し当てた。

「――お静かに願います」

 リーダー格は自らの額に押し当てられたモノが何なのかを理解し、動きを止めた。

 その光景を目の当たりにした取り巻き達も動きを止めた。

 今まさに襲いかかろうとしていたリーダー格が、丸腰に思われた男の取り出した銃の銃口を額に押し当てられているのだ。

 下手に動けばリーダー格の脳漿が撒き散らされることになりかねない。

 互いに動かず、緊張した時間が流れた瞬間だった。

「……寄付金は、横の箱に入れておいてくれ」

「へ……?」

  男の発言の意味が分からず、取り巻きの一人が困惑の声を上げた。

「だから、用が済んだら帰ってくれ。 ……寄付金は横の箱にな」

「え、あ、あ……」

「それとも、俺がこの銃でお前らにありがたーい説教くれてやろうか?」

 銃を構えてベンチの間の通路に移動する。

 勿論銃口はリーダー格の頭に向けられたままだ。

 そう、それはさながら凶悪犯罪人の様である。

 その時だった。

「これ“激烈の凶犬”よ、弱いもの虐めはいかんぞ。 解放してやりなさい」

 教会に響いた、しわがれた声に男はやれやれと言った感じに首を振りながら銃を下ろした。

「行けよ。 ただ、その前に寄付金を……」

 言い終わる前に男たちは我先にと蜘蛛の子を散らすかのように逃げ去って行った。

 銃をローブの中に戻しながら、男は深々とため息をついたのと同時に腹の虫が鳴いた。




「あー……腹減った」

 男は再びベンチに寝転んだ。

 今や誰も使っていない為、埃を被っている上に老朽化によって木材が軋む音すらしている。

「だからと言って、無暗に寄付金をせがむのは感心せんぞ」

 教会の居住スペースから現れたのは、深い皺が刻まれ、白い髭が特徴的な老神父。

 男と違って小奇麗なローブを身に着けている。

「ジジイ、信仰と祈りじゃ腹は膨れんぞ。 それにあいつらは、俺が悪の道から更生してやろうとだな……」

「またか、馬鹿者め。 それとワシの事は司教様と呼べと何度言えば……まあ良い。 そんなことよりも夕食にしようではないか」

 男は司教の放った夕食という単語に大きな反応を示した。

「もしかして、九十七日振りに肉が食えるのか!?」

「あぁ……、お前の可愛がってる裏庭の子豚を調理して良いならな」

 そう言う司教の口からは涎が垂れ流されていた。

 その子豚は、男の所謂ペットであり、是即ち常に司教からその身体を狙われているのだ。

「えーと……、芋のスープで十分でごぜえます……」

 


 俺、年中腹ペコの見習い神父こと旧名、佐上(さがみ) 竜一(りゅういち)はある奇怪な出来事に直面していた。

 所謂、前世の記憶と言うのを引き継いで生まれ育ってきたのだ。

 前世の俺は地球の日本という国で高校生なる身分だった。

 そして、学生の敵であるテストが終わった帰り道、友人との帰宅途中に死んだ。

 何故死んだのかまでは分からない。

 そこでパッタリと記憶が途切れてしまっているからだ。

 死んだ後、テンプレの神様なんかと会うこともなく今の世に放り出された。

 お約束なら、貴族の家柄に生まれたり、勇者として召喚されたりするものだが、俺は孤児だった。

 この世界にも孤児院はあるらしく、生まれてしばらくは孤児院で育てられた。

 が、やはりと言うべきか院内は殺伐とした空気が流れていたのを今でも覚えている。

 寝床は床でも何処でも良かったが、食事は強いものが好きなだけ食っていたので、身体の小さな子や気の弱い子は配られた飯を即座に強い奴に巻き上げられてしまう。

 救いなどなく、当然のように餓死者が出たが、大した騒ぎにもならずに遺体は回収されていく。

 誰もそれをおかしいとは言わず、受け入れていた。

 俺は自分の分を食ったふりをして、その子達に分け与えた……なんてことは出来なかった。

 そもそも配られる飯の量なんて高が知れている。

 一度始めれば、それからずっと与え続けなければならない。

 そうなれば、俺は確実に餓死する。

 いや、俺だけでなくその子達も全員死ぬかもしれなかった。

 そんな打算的な考えで、俺は子供たちを見捨てた。

 苦しかったが、自分が生き残るためだと言い聞かして生きてきた。

 それから数年、何処から手に入れて来たのかは分からないが、小さな子達が銃を使ってガキ大将どもに反撃する事件が起きた。

 その事件の最中で、俺は自分に無かった能力を発見することとなった。 

  


 どうも、放置に定評のある伊村です。

 今回も、書きたいことを自分の書きたいように書いていく予定です。

 と、言ったものの課題やテストで今月中旬までは更新が難しそうです……。


 前作から読んでくれる方も新規の方もどうかよろしくお願いします。

 誤字脱字、指摘も含めて言いたいことがある方は感想欄に書き殴って下さいませ。

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