コウタの部屋
就業時間になり、ビルのエントランスでシュウ兄がエレベーターから降りてくるのを待つ。
何もすることがなくて、手持ち無沙汰に携帯を開き、くるくるとアドレス帳を眺めた。
アキ、シュウ兄、ユウ・・・
その名前が表示された瞬間、ドクリと胸の奥で何かが飛び跳ねた。
ユウちゃん・・・そう心の中で呼びかけると同時に、胸の高鳴りが強くなる。
そんな自分が存在する事自体、信じられない。正直、ここまで惹かれる相手は初めてだった。
彼女が始めて下宿にやってきた日。
ほんわかとした雰囲気とは反対に、アキと盛り上がるほどハキハキとした性格にまず驚いた。
そして、テーブルに空いた皿が出る度に片付けていく気の細やかさ。
その時までは、すごく気の利く人なんだなとしか思っていなかった。だけど・・・
アキが最初につぶれて自室に戻っていき、自分もまたシュウ兄には着いていけないとギブアップした時、ユウちゃんは全てを理解したかのように微笑んだ。
それが俺たち、シェアメイトと初めて会った日だというのに。
そんなユウちゃんの微笑みに、俺は安心して自室に戻ったのを覚えている。
そして、翌朝に二人が抱き合うように眠っているのを見つけて焦っている自分が居た。
何に焦ったのかは自分でも良く分からない。
けれど、シュウ兄とユウちゃん。その二人が抱き合っている事に物凄く苛立っていた。
何がどうなっているのかわからなくて、熟睡していたアキを起こし、リビングまで引き摺っていったことは、未だにアキにネタにされているほどだ。
だけど、それまで女にそれほど興味のなかった俺には、ユウちゃんとの出会いは今までにない大事件だった。