アキの部屋
トントントン、と手早く野菜を切っているユウちゃんの横顔を見て、思わずため息が出そうになった。
ユウちゃんがこのシェアハウスに来て以来、お兄ちゃんの態度は目に見えて変わった。
そう、きっかけはあの歓迎会。
今まで、私とコウタという下戸コンビに囲まれていたお兄ちゃんが久しぶりに見つけた相手がユウちゃんだった。
歓迎会の翌朝、リビングで二人仲良く重なり合うように眠る二人を見つけた私とコウタは、声も出ないくらい驚いた。
だって、だ。
これまで彼女らしい彼女のいなかったお兄ちゃんと男っ気のなかったユウちゃんがリビングのソファで寄り添う、というよりも抱き合って眠っていたのだから。
最初に見つけたのはコウタ。
事の状態を認識した後、平和に眠る私を叩き起こし、現場のリビングまで引き摺って行ってくれたのだ。
この時、直感で分かってしまった。
コウタはユウちゃんのことが好きなのだ、と。
高校時代、エースで校内の人気を独り占めにしながら浮いた噂のなかったコウタ。
同じく、可愛らしい顔立ちと華奢なスタイルでキャンパス内でも目立つ存在ながら、少しの人見知りが災いして男っ気のなかったユウちゃん。
もしも二人が同じ高校だったなら、付き合っていたかもしれない。
それほどに二人は、どこからどう見てもお似合いだ。
けれど、それは私の妄想の中の世界。
現実にはその間に私の実の兄、このシェアハウスのオーナーが仁王立ちして阻止しているんだから。