表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

戦う天使たち

【向日葵畑のあの子】

作者: 煩似 鏡
掲載日:2026/07/05

あの夏、まだ小学生だった頃、

向日葵畑に迷い込んだ。


その日は暑くて、空も青くて、

照らされた黄色が

とても綺麗だったことを覚えている。


けれど、背が低かったこともあって、

視界の先に見えるのは緑の太い茎ばかりだった。

見上げなければ見えない黄色は

太陽も合わさって眩しかったのをよく覚えている。


その後、

座る方が良く見えることに気づいて、

その場に座り込んで暫く眺めていたんだ。


けど、それがいけなかった。


帰り道がわからなくなった。

出口が分からなかった。

どこから来たのか分からなくった。


広く広く、遠い遠いところまで

黄色で埋め尽くされたあの場所で

迷子になってしまったのだ。

何処を見渡しても同じような景色ばかりで、

行っても行っても出られはしない。


途方に暮れて泣きべそをかいていた時、

『その子』が見つけてくれた。


「迷子?」


その声に、きっと恋に落ちてしまったのだろう。


見上げて見たその子は

純白のワンピースと麦わら帽子を纏って

長い髪を風に踊らせていた。


あの場に咲いていたどんな向日葵より

その子を眩しいと思っていた。


年もきっと上で、背は頭一個分高かったと思う。

優しく笑いかけて、差し伸べてくるその手に、

迷いも何もなく自分の手を重ねる。


「大丈夫!ほら、ついておいで」


その子について行って

広い広い向日葵畑を駆け回る。

長い間走っていたのかもしれない。

ほんの短い時だったのかもしれない。


その子の背を追うその時間を

それくらい長く感じた。


いつの間に見失っていたのだろうか。

気づけば向日葵畑の外に出ていて、

あの子はもういなかった。


お礼を言いたかったけど、

もういなかった。

その年の夏は

その子のことばかり考えていた気がする。




その場所を次に訪れたのは四年後、

もう中学生になっていた時だ。


あの子にもう一度会いたくて、お礼を言いたくて、

記憶と地図を頼りにあの向日葵畑に駆けていった。


たどり着いたその場所で自分の目を疑った。


あれほど広いと思っていた畑は

どう見ても、車十台分の駐車場と大差なかった。

この広さの中を迷っていたのか。

それともこの場所が縮められたのか。

しかし周りの建物は古いものばかり。


あの頃の感覚では

サッカーコート四つ分はあった気がする。

もっとあったかも知れない。

ただただ広かったはずだった。


仕方無く、その畑を歩くと

麦わら帽子が落ちていた。

やけに古いものだった。


邪魔だな、と思って手に取った。

何を思ったかその麦わら帽子を太陽に翳したのだ。

なぜか懐かしかった。頰は滴で濡れ始めた。

あの時、迷子になった時みたいに。


あの帽子をあの後どうしたかは

よく覚えてない。

けど、誰かが隣にいた気がする。






まだ戦争があった頃、

焼け野原になったその場所に

たくさんの向日葵の種を埋めた子がいたらしい。

戦争の最中、その町は少し賑わったそう。


何度かあった空襲で

その子供は行方不明となったそうだ。

それでもあの子が種を埋めた場所は

毎年、途切れることもなく、

あたりを黄色に染めたそうだ。





【終わり】

その話を聞かされた私は、そのヒトの後ろに黒髪の子供がいるのを見た。そして優しくそのヒトの頭を撫でて、きっとこう言った。『もう大丈夫だね』と。その子はそのまま薄らと消えていった。壁に飾られた向日葵の写真がやけに目に残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ