君と見た光の世界
ザーザーと雨が降る。明日は晴れるかな。明日は傘いるかな。明日は…。
「詩央里?」
肩が叩かれ、横から声がした。私は窓を見てぼーっとしていたみたい。
「大丈夫?」
「うん。大丈夫。ありがとう。」
振り向くと、優しい顔をした亮介がいた。
私たちは、いつの間にか付き合ってから6ヶ月が経っていた。特に喧嘩もなく、自分で言うのも良いカップルだと思う。最初は“君”付けで呼んでいたのがいつのまにか、呼び捨てになっていた。
今日だって一緒に図書館で勉強している。
来年も亮介と一緒に、上のクラスに入るために。最近は図書館に行き過ぎて、司書さんと仲良くなった気がする。
「明日楽しみだね。」
「うん。私も明日は晴れるかなって考えてたとこ。」
明日は初めてデートをして、亮介が告白してくれた思い出の場所、海遊館に行く日。
付き合って一ヶ月以来、行っていなかったからすごく久しぶりで楽しみにしていた日。
「晴れるはず。まあ晴れなかったら相合傘する?」
照れくさそうに亮介はそう言う。相合傘、亮介と仲が深まったあの雨の日。
色々な思い出が甦る。ハロウィンに行ったユニバや、夏に行った海。
亮介とした全てのことが私にとって宝物。
「うん。約束ね。」
そう言って笑い合う。
周りを見渡すと、多分受験を控えた同じ学年の子達がたくさんいる。真剣に勉強をしている。中学受験をしたから、今は遊んで良いんだと言う優越感になる。
「じゃあ明日の天気を待つだけ。じゃあそろそろ帰る?」
「だね。明日も予定あるし。」
机の上に広げていた、筆箱や問題集を片付ける。
図書館を出ると、ひんやりとした空気を感じる。
亮介の腕に私の腕をそっと絡める。そして私たちは駅へと私たちは足を進める。
電車に乗って、明日の話をして、解散した。
明日が楽しみ。
次の日
朝から一番会いたくない人に会った。
…元カレの瑛人。ウキウキした気持ちで駅に向かったのに、改札の前に瑛人がいた。
正直、顔なんて見たくもないし、声も見たくない。
改札の前のベンチに座った瑛人は、私の姿に気づいてはいなかった。
逃げるように改札を通り、電車を待つ。少しすると電車が来た。
亮介が乗っているという3号車に乗り、亮介と合流する。
ドアが閉まる直前に、瑛人が乗ってきた。よりによってどうして同じ車両に乗るのか。
「ねえ、亮介。あれ。」
そう言って、私はこっそり瑛人を指差す。
亮介は気づいたような顔をして、
「もしかして、元カレの人?」
私はコクっと頷く。
「じゃあ他の車両移動しよ。」
亮介は私の手を引いて、2車両目に移動する。
その時、前に瑛人と手を繋いでいた女の子とすれ違った。
あぁ、まだ付き合ってるんだ。2人のやり取りなんて見たくない。私は後ろなんか振り返らずに前の車両に行った。
電車の中では沈黙が続いた。
私がぼーっとしていたから、話しかけるのを躊躇ったんだと思う。
あんなにも最低な元カレを見て、私はショックになったのかな。
どうしてか分からないけど頭が働かない。忘れたいのに、忘れられない。
イライラして、亮介に当たったらどうしよう。気をつけないと。
いつの間にか、電車が目的地に着いた。結局、電車の中で何も話していなかった。
大切なクリスマスの日なのに、なんだか申し訳ない。
人の波に流れ、私たちも電車を降りる。周りを見ると、楽しそうに笑って、話しているカップルがいた。私たちだって仲良いし、不思議な対抗感が生まれ、少しだけ気分が良くなった。
「ごめんね、電車で無言で。」
急に話し出した私に驚いたのか、びっくりしたと言いながら亮介言った。
「ううん、詩央里こそ朝から嫌な思いしたでしょ。ゆっくり気持ち落ち着かせたらいいから。落ち着いたら、いつも通り楽しく話せば良いし。」
そう言って、私の手を取る。温かくて優しい手。いつ繋いでも落ち着く、そんな気がする。
「ありがとっ。私はもう大丈夫だから、いつも通り楽しもっ。ほら早く行こ。」
私は亮介の手を引っ張り、人混みをすり抜ける。
もう、私は本調子に戻ったはず。
海遊館の中はいつもよりも、人が多かった。
エスカレーターを上がると、もう世界は青色に染まっていた。
エイが泳いで、イルカが跳ねて、土の中をチンアナゴが泳ぐ。あまり見れない深海魚のクリオネだっている。
「ほんと綺麗...。」
思わず声が出る。隣で亮介が微笑む。
幸せな時間だ。
海遊館を出ると、外はもう暗くなっていた。
イルミネーションで、世界はきれいに輝いていた。
光の中を、2人で歩く。ここが可愛いとか、ここで写真撮ろうだとかたくさん話をして。
正面のジンベイザメはきれいに輝いている。
「ねえ、詩央里。」
「ん?」
亮介の方をチラリとみる。
「観覧車乗る?」
恥ずかしそうに亮介が言う。
「うん。乗りたい。」
来た時からずっと乗りたかった、観覧車。
私と亮介が結ばれた、大切な場所だから。
チケットを買って、観覧車に乗る。
ゆっくりとゴンドラが上へと上がる。
高いところが苦手な私でも、亮介が居れば全く怖くない気がする。
「ねえ、亮介。」
「うん。」
「私さ、亮介に出会えて良かった。亮介好き。」
他のことは何も言わないで、ただ好きを伝えた。
「俺も。これからもさ、よろしく。」
亮介は手を差し出す。
うん、と言って握手をする。
「メリークリスマス。亮介。」
「メリークリスマス。詩央里。」
下を見ると、きれいなイルミネーションが広がっていた。
これまでで一番素敵なクリスマス。
最後まで読んでくださりありがとうございました!
前作を読んだことのない方はぜひ読んでみて下さい!
現実に少しでも近いような、そんな物語を書いてみました。たくさん読んでみてください!




