第五話 ツンデレ魔法使い襲来
そこから数日リセッタの来店が無かったので、やっぱりやりすぎたか?と反省しながら普通のマッサージを普通に来たおばちゃんに施しながら俺は後悔していた。
(いや、リセッタも気持ちよさそうだったしつい調子に乗ってやりすぎたか?くそ、まだまだ修行が足りないな)
そんなことを思いながら施術を終える。
「いやぁ、道具屋のアネット婆さんから紹介されたけどアンタ腕は良いねえ。動かなかった肩が元通りだよ。なんで客があたし一人しかいないんだい?」
今日の客である近所の酒場の女将さんが痛めていた肩を嬉しそうに回しながら言った。
確かに女将さんの言う通り今日は客一人だ。だが閑古鳥の鳴くレノルズマッサージ店では客が一人来るだけでもありがたい。
「いやぁそれが俺にもわからないんですよ。腕には自信があるんですけどねぇ」
「元冒険者だって言うけど、あんた店の宣伝はしたのかい?宣伝は大事だよ!看板をぶら下げたぐらいで客が入ってくるなんて思ったら大間違いさ。モンスターは呼んでなくても来るけどね、客はそうはいかないよ。あたしが店を始めた時だってねぇ……」
「はぁ」
そこからしばらく女将さんの昔の苦労話が続き、俺は相槌を打ちながら聞いていたが、
「なんならあたしの酒場に宣伝チラシでも貼るかい?ちょっとは見て来る人が居るかもしれないよ。店には冒険者達もよく来るしね。あたしの肩を治してくれたお礼に無料で貼って良いから」
「本当ですか?!」
確かにこの女将さんのやっている酒場「雄鶏と烏麦亭」は酒と飯が美味い上にリーズナブルということで冒険者だけでなく街の人も多く集まる人気の酒場だ。
通常ならそこの掲示板に宣伝を貼り付けるのもひと月で結構な値段がしそうだが、
「まあサービスで半年くらいかね。そこでがっつり新規の客を掴んで離さないんだよ。後は口コミで広がっていくだろうさ。ま、しっかりやんなよ」
「ありがとうございます!」
これは嬉しいサプライズだ。俺はさっそく業者に頼んでレノルズマッサージ店の宣伝チラシを作り、目立つ所に貼らせてもらった。
「レノルズマッサージ店 女性専用マッサージ、心と体をほぐしていく疲れをとりませんか。美容と健康に、体の奥から気持ちよく美しく! 新規のお客様50%割引で 初回 3000ルクス 」
マッサージと言うと世間ではどうしても腰や体が痛い年寄りがするというイメージがあるからまだまだ若い女性の利用が少ない。そんな女性達にマッサージの気持ちよさを伝えていくのが俺の使命だ。
まだまだ駆け出しということで、初回は安い値段にして新規の客を狙う。後は女性が好きそうな美容という文字も足しておいた。
実際、女性の大事な部分を刺激してあげると女性ホルモンが分泌されて肌が綺麗になるという効果もある。
そんな感じの内容を上手く女性受けするように書いて作ってもらい酒場の掲示板に貼ると、いっぱしの店のオーナーになれた気がして俺は満足した。
次の日、
「酒場のチラシ見たんですけどー」
レノルズマッサージ店に一人の女の子がやってきた。
「って、本当にレノルズがやってるの?チラシを見てまさかと思って来たんだけど、あんたマッサージ師に転職したのね」
「げっ、ミリィかよ。なんの用だ」
「マッサージを受けに来たに決まってるじゃない。お客なんだから愛想よくしなさいよね」
マッサージ店にやってきた背の低いちょっと幼い見た目のピンク頭のツインテールをしたこいつは冒険者の魔法使いミリィだ。
パーティーを組んだ時は回復魔法を飛ばせない俺をさんざん馬鹿にしてきて、さらに「パーティーのお荷物なんだから」とか言って雑用やらこいつの身の回りの世話だとかこき使われていたので印象は最悪だ。
「ま、あの時からマッサージだけは上手かったものね。天職なんじゃない?」
「あー、ありがとよ」
「ちょっと、このあたしが褒めてるのになんで嬉しそうじゃないわけ?もっと喜びなさいよ」
「はいはい」
またこの調子だ。上から目線のうざ絡みをしてくるので
俺はこいつが苦手なんだ。
「んま、新規は50%割引とかみみっちいことしてるからあんまり期待はしてないけど、はい3000ルクス」
そう言ってミリィはピカピカの1000ルクス硬貨を三枚受付のカウンターの上に置いた。
ミリィが客なのは気に食わないが、チラシを貼った次の日に新規の客が来るなんて幸先がいいぞ、チラシの効果恐るべしだ。
「よし、じゃあマント脱いで寝台の上にどうぞ」
ミリィから荷物と黒色のマントを受け取って寝台の上に誘導する。気に入らないと言っても客は客、きっちりマッサージはするつもりだ。
「……ところで、チラシに書いてあった美容とかって、本当なの?疲れを取るだけじゃなくて」
寝台の上に座ったミリィはちょっと不安そうに俺の顔を見上げて言った。
「おう。今までの疲れを取るだけのマッサージだけじゃなく体の中を刺激して気持ちよく綺麗になってもらおうって女性向けのマッサージを始めてみたんだ。女性ホルモンが分泌されて肌にもいいぞ」
「ふーん?本当かなぁ、なんか胡散臭いけど、ま、いいわ。あんたのマッサージの腕は確かなんだし。でもちょっとでも変なことしたら燃やすからね」
俺の説明に胡散臭そうにしつつも、ミリィは物騒なことを言う。
コイツは火の魔法が得意だからな。本当に燃やされても困るので、あんまり刺激はせず普通にマッサージしとくか……。
と、思いつつ聞いてみる。
「ところでどこか気になる所はないか?怪我したところとか」
「そうねぇ、この前の遠征でキラービーの毒を食らって解毒してもらったんだけど、まだちょっと違和感あるかも」
「どれどれ……」
ミリィがキラービーに刺されたという背中の上あたりに手を当ててみる。
確かにあらかた毒は解毒されたようだが、奥の方にはまだ残っていて、それが神経を刺激しているようだった。
「…………うむ、これでよし。もう違和感は無いと思うぞ」
「あ、本当だ、スッキリした。やっぱりあんたこういうのは得意じゃない」
背中に手を当てて体の深部に解毒魔法を届けると、残っていた毒は消えていったようだ。
いちいち一言多いやつだと思うものの、顔を見ると満足したようなので良しとする。
その後も冒険者としての疲れが残っているミリィの肩やら足やら体の疲れを取るマッサージを続けていくと、
「……はぁ、久しぶりにあんたのマッサージ受けたけど、やっぱり気持ちいいわね」
すっかりリラックスしてミリィは寝台の上に横たわっていた。
「そりゃどーも」
「って、これじゃいつもと同じじゃない。美容マッサージはどこいったのよ」
「ああ、すまんすまん。お前なんか疲れが溜まってるみたいだからさ、つい」
「そ、そんなことわかるの?」
「そりゃあ、マッサージ師ですから。リセッタといいお前といい、冒険者ってのは無理しがちなのかねぇ」
「まあね、って、ちょっと、なんでここでリセッタの名前が出てくるのよ」
なんだかムッとした顔でミリィが言った。
「そりゃ、あいつにもマッサージしてやってるからな」
「へぇえぇええ、ふーーーん」
なんだその反応は。
リセッタの名前を出したとたん、なんだか不機嫌そうになったミリィを見て俺は不思議に思った。コイツとリセッタは結構仲はいいと思っていたんだが、知らない間にケンカでもしたんだろうか。
「よし、じゃあ美容マッサージに移るぞ。そのままリラックスしていてくれ」
「うん……」
ちょっと不安そうに寝台に横たわるミリィは少しだけ可愛く見える。普段もこれくらい大人しくしてればいいんだが、一応顔は美少女なんだし。
「よし、少し体が熱くなると思うけどそのままで」
俺はミリィのお腹の下の方に手を置くとゆっくり魔法力をこめていった。