SS10 僕を見つめる黒い瞳
あー、コーヒー飲みて―。
「ご一緒して・・・いいいかしら?」
「ああ・・・どうぞ・・・」
微笑を浮かべたレナに断る術を僕はもっていない。レナは俺の正面の席、カリナのとなりにスッと座り込んだ。そして、カリナの方へ顔を向けると、
「ごめんなさい・・お邪魔して・・・」
「え、あ、いいんです、いいんです。どうぞ・・・」
初対面の大人っぽい女子にカリナもどぎまぎしている。それくらい、レナはきれいだ。顔だちが整っているということではなく、立ち居振る舞い、話し方、全体の雰囲気が凛としている。
「えっと・・・こちらは、岡部玲奈さん。TN高の2年生だよ。」
「初めまして。わたし、一ノ瀬カリナです。SK高の1年です。岡部先輩、よろしくお願いします。」
と最高の外面全開の笑みで自己紹介しやがった。
「初めまして。先輩じゃなくて・・・彼と同じで、レナでいいわ。よろしくね。」
「あ、じゃあ、レナ先輩・・・あ・・・」
「ごめんなさい、いいにくそうね。そうね。レナ先輩でいいわよ。」
「はい、お願いします!」
「それで、こういち、この可愛い後輩とはどういう関係なの?」
レナは悪戯っぽく笑う。
「え、部活の後輩だよ・・。」
簡潔に答える。が、それは双方に、お気に召さなかったようだ・・・かなり。
「ちょっと、イッチ先輩雑すぎ!」
「そうね・・・ちょっと情報が少なすぎかしら・・・。」
明らかな不満を隠さずないカリナと冷静に鋭い目つきで俺を見るレナ。
好対照な不満顔に思わず吹き出しそうになるが、こらえた。そんなことをすれば・・・火に油を注ぐことになる。
「いや、でも、ほら・・・他になんて紹介したらいいか、ちょっと思い浮かばなくて・・・」
「ふーん・・・イッチ先輩なんか・・・冷たい・・・・」
ジトっとした目線をカリナは向けてきた。
「あら、何か・・・特筆すべき事項がありそうね・・・」
にやりと笑うレナ。ちょっとゾクッとしてしまう。
「え・・と・・・まあ、一番仲のいい、後輩・・・かな?・・・・」
「なんで、そんな不安そうにいうんですか?先輩」
「だって、仲が良いってのは、独りよがりの感覚だろう?相手もそう思ってるとは限らないだろう?・・・。」
カリナは、あっけにとられていた・・・。
「ふっ、ふふふふ・・・・」
俺とカリナのやり取りを見て、レナは笑い出した。カリナはむっとした表情をレナに向けた。
俺は首を傾げて不思議そうに・・・彼女を見つめた。
「ふふふ・・・ごめんなさい・・・だって、こういちが・・くくくく・・・・・そんな慎重に哲学的な物言いするものだから・・・」
レナの言葉を聞いた瞬間、むっとした表情をさらにひきつらせた。
「こ・・・こうい・・・名前・・・・呼び捨て・・・」
「あ、誤解すんなよ。俺とレナは、いつもそう呼び合って・・・る・・・」
はっとした俺はあわててとりつくろったが・・・。
「は、レナ?お互いに名前呼びすての仲なんですか!・・・」
導火線に日をつけたようだ・・・。
レナは目を伏せ、笑いをこらえながら、「ばか」と口を動かす。
「どーゆーなかなんですか?先輩?」
カリナの力強い目力に気圧される。
「え、と・・・どっちの先輩かなぁ・・・・カリナ・・・」
キッと目を細めるカリナ。
「どっちもです!」
と、言ったところで、流石に悪戯が過ぎたと思ったのだろう。
ふー、とひと息はくと、もうしわけ程度に俺に舌をチラと見せた。
「ごめんなさい、実は付き合ってるの・・・もう3カ月くらいかしら?」
「え・・・・」
目が点になるおれ。
目が潤みだすカリナ。
「なーんて・・・。冗談よ、冗談・・びっくりした?」
「はぁ~・・・びっくりした」
カリナは背もたれにゆっくり寄りかかった。俺も肩の力がぬけ、力なくいすにうな垂れた。
「ん?わたしが驚くのは、わかりますが・・・イッチ先輩はなんでそんなに驚いてんですか?」
「え、なんか、他人事っぽくて・・・もちろん・・・わかってるよ。俺とレナは友だちさ。」
はあ~とため息を一つついて、レナを見る。
「ごめんなさい・・・・なんか・・鼻の下伸ばしてへらへらしてるの見て・・・いじわるしたくなって・・・」
目を細めてレナは笑った。
「まったく・・悪い冗談だよ・・・」
そう言いながら、すっかり冷めたコーヒーに手を伸ばす。
紙コップを持つ手がかすかに震えている。2人の黒い瞳が俺の手に突き刺ささってきた。
6月はㇼラ冷え?かな。