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SS8 優しい雪のように 

打ち上げしたい。何がとは言わないけど。

 憂鬱な月曜日。学校の駐輪場に自転車を滑り込ませる。スタンドをかけ、いつも通り2重のロックをかける。

「よ、おはよう!」

背後から、竹下智に声をかけられる。

「めずらしいな、自転車か?」

「いんや、お前を待ってた」

「え?」

あれ?部でなんかあったか?何もないと思ってたけど・・・。

「いや、ちょっと・・・・顔かしてくれないか?」

「え、なに、カツアゲ?今日は200円しか持ってないぞ。」

「お前から金とるかよ・・・じゃあ、ここでいいわ。あのな、新人戦の打ち上げしたいんだと・・・」

「1年がか?まあ、いいんじゃない。」

という俺の答えを聞いて、智はやれやれ、という顔をする。

「それで、「先輩方も参加しませんか」って。」

とたんに俺の顔が曇る。

「え、だって新人戦のうちあげだろ?2・3年が行ったら、楽しくねーんじゃない。」

と言うと、智は今度、心底呆れた顔をした。

「あんなあ、こういち、打ち上げは口実なんだよ、こ、う、じ、つ!!」

口実?ああ、そういうことか・・・。

「なんとなく、わかった・・・。で、いつやるんだ?」

「今日」

ぶっきらぼうに言われる。

「はあ、今日?なんで?いきなりかよ・・・」

「お前なあ、メッセンジャーにされた俺の気持ちわかる?」

「わからん!」

「まあ、いいけどよ。いくだろ?」

正直行きたくない・・・。レナから昨日の答えを聞きたいから。

「いや、先約あるんで、今日は無理。」

「だめ。行くんだ。」

有無を言わさぬ勢いで否定される。

「・・・・どういうことだよ・・・正直に、言えよ智・・・」

「・・・」

なんだ。どうして顔を赤くしてだまる!

「・・おまえ、まさか・・・」

「ごめん!頼む一緒に来てくれ。その・・・」

「伊藤さん紹介してもらうんだろ・・・」

「・・・ああ・・・」

顔を赤くしたまま、うつむく智。

弓道部1年の伊藤恵子。カリナとは正反対の長い黒髪の清楚な感じの女子だ。今年の春、入部してきた恵子を見て、智は珍しく上の空になっていた。ストレートに気持ちを出せない彼は、不器用ながらも彼女にアプローチしていた。検討違いのアプローチは、まあ、伝わってないけど。

「それなら、別に俺がいかなくても・・・」

友だちとはいえ、他人の色恋沙汰に関わるのはごめんだ。上手くいけばいいが、この手の話はだいたい不首尾に終わる。そうなったときのことを考えると憂鬱になる。

「・・・あのな・・その・・間にはいってるのが・・・・」

「カリナか?」

軽くうなずく智。

そういうことか・・・。いきなり二人で抜けるのは不自然だ。2対2の4人で抜ければその場のノリで遊びに抜けたように見える。俺をダシにしてよろしくやろうってか。

まあ、カリナが考えそうなことだ・・・。

「・・・なあ、頼むよ・・・。」

「いや、じゃあ、3人で・・・」

「いや・・・その・・・もう、こういちOKだったって・・・」

地面を見つめて気まずそうに智は話す。

「・・・言っちゃたのか・・・」

こくりとうなずく、智。この貸しはでかいぞ・・・智。


放課後。またここか・・・。いつぞやのクラス会を催した、カラオケボックスのパーティールーム。なんで、またここに・・・。

「あ、イッチ先輩来てくれたんですね。」

と、カリナがいつもの屈託のない笑顔を向けてくる。

「ああ、智がどうしてもっていうからさ・・・。お前の差しがねだろ?」

と言うと、俺の手を引っ張って、部屋の端へ連れていかれた。

「ダメですよ・・・これマル秘事項なんですから・・・。ほかの1年も先輩方も何も知らないんですから・・・。イッチ先輩も、友だちのために、一肌脱ぎに来たんでしょ?」

静かにうなずく俺。

「・・・じゃあ、目立たないように・・・ごく自然に4人で遊びにく雰囲気作ってくださいよ・・・。」

ちらっと伊藤さんを見る。

「伊藤は大丈夫なのか?」

「・・・私と一緒に遊びに行くところまでは、何とか・・ただ・・・先輩方もってなると・・・まだ言えてなくて・・・」

「え、どうすんだよ・・・」

「だから、そういう雰囲気にもってってください・・」

「え、マジで?・・・そういうの苦手なんだけど・・・」

「がんばってくださいよ。私が恵子ちゃんと仲良くなるのに、どんなだけがんばったか、わかります?」

しばし考える。たしかにカリナと伊藤さんじゃ接点何もなさそうだもんな・・・。

「・・・わかった・・・何とかする。・・・ただ・・・カリナ・・・お前のキラーパスが絶対必要だ・・・」

するとニヤッとわらうカリナ。

「・・・しかたないですねぇー・・・いいパス出すので、決めてくださいね」

そう言って、カリナは俺から離れ、女子の中に埋もれていった。

「新人戦お疲れ様ーカンパーイ!!」

1年男子の森君の音頭で乾杯が不意に行われた。カリナと話していて、飲み物もない。

「はい、先輩!」

とカリナがコーラの入ったグラスを目の前に差し出してきた。

「頼んでおきました。コーラでいいですよね?」

「ああ」

そう言って手を伸ばす。

差し出した右手に写っては消えるミラーボールの瞬きが、まるで雪のようだった。


今日はどっちも更新できました。えらいぞ俺。

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