表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/44

SS44  S字カーブの向こう側で

日暮れが早くなり、北海道のバイクシーズン終了のカウントダウンが始まりました。

 半円状にとび出ている展望席へ、ヘルメットのベルトを外しながら彼女はゆっくり歩いて行った。展望席といっても駐車場から10mくらいしかなく、木を模したフェンスと粗末なベンチが3本ほどあるだけだが・・・。

展望台から海を挟んで遠方にそびえる山の稜線に、日はまさに落ちようとしている。放たれる、光はオレンジ色に輝き、世界はオレンジ色で満たされている。

彼女は半円状の展望席の一番先にへいき、ゆっくりと真っ赤なヘルメットを脱いだ。

 ヘルメットからこぼれる少し伸びた髪が、夕日から伸びる逆光を浴びて、まるで影絵のようにきらめきながら零れ落ちた。


きれいだ・・・・。


素直にそう思った。

思わす立ち止まり、浮かび上がる彼女の後ろ姿を心に焼き付けようとした。が、夕日の力強い光のせいで、思わず目をつむる。それでも、薄目を開けて、彼女のもとへと歩みを進めた。

彼女はじっと、夕日をきらめかせている海を眺めている。

目を細めたまま、彼女に近づいていく。

「れ・・・」

あと2,3メートルというところで、名前を呼ぼうと口を開いた刹那、気配に気づいた彼女は不意に振り向いた。

だが、鋭くつきささる、夕日のせいで、はっきりと目を開けられず、彼女の顔がぼんやりとしか見えない。彼女が微笑んでいるのが、かろうじてわかるだけだ。

うすぼんやりとみえる表情からは、彼女が今、レナなのかレイなのかすらわからない。

逆光に浮かび上がる彼女。

俺は「岡部怜奈」のシルエットを、ただただ、目を細めて眺め、立ち尽くした。

「・・・・・・・」

何かを言おうとしたが言えなかった。

話してしまえば・・・・・・

彼女が・・・・

どちらなのか・・・・・

わかってしまうから・・・・。


それが・・・・たまらなく・・・・・・・・・




こわかった。




ものの2、3分で、あたりは薄紫色と変わっていき、夜の足音がひたひたと迫ってくる。

夕暮れを見届けた彼女は、抱えていた真っ赤なヘルメットをかぶり、あごのベルトを締め始めた。それを見て、俺はCBの方へと踵を返した。

駐車スペースからCBを引き出し、出口向けた。スタンドをかけ、CBにまたがる。彼女は、すでにCBの右側に寄り添うにように立っていた。慌ててヘルメットをかぶり、あごのベルトを締めた。スタンドを払い、CBを直立させる。右手を挙げると、彼女は軽やかにタンデムシートにまたがった。

来た時と同じように、彼女の右手が俺の右腰をあたりに絡まり、ミラー越しに左手がグラブバーを握ったのを確かめる。キーをオンにし、セルを回す。

フォーン。

「もういいのかい?」と聞きたげなCBの排気音。

いいさ。

もう。

「そうか・・・」という代わりに、CBは小刻みなアイドリング音を響かせた。

少しアクセルをあおってクラッチをじんわりとミートさせていく。

押し黙ったままの俺たちを乗せて、CBは深紫へ変わっていく夕闇のロードへと走り出す。

ダウンする道を減速しつつ、最初の右コーナーへと向かう。上りながら右に折れ、すぐに左になるS字カーブ。彼女は、レナは・・・俺にとってS字カーブの向こうにいる存在だった。

アクセルでリズムをとって、切り返し、ぬけた向こうにいた存在。はじめは見えなくても自分を信じてアクセルを開けていけば、絶対に待っていてくれる友達。

 そうだろう?

ミラー越しに見えるレナの顔を見る。暗い中で、時折街灯に照らされる彼女の顔からは、何を感じているのか、全くうかがい知れない。



小一時間かからずに、いつものショッピングモールへ着いた。駐車場へ入り、出発した場所と同じ、隅のスペースへとバイクを停めた。

振り返り、左手を上げて降りるように促す。車体の左側に降り、彼女は俺に背を向けた。彼女は素早くあごのベルトを外すと、真っ赤なヘルメットを脱いだ。ヘルメットから零れ落ちる髪を見ても、今度は何も感じなかった。

 レナは、背を向けたまま、軽くしゃがむと、ヘルメットをそっと足元に置いた。

 そして、何も言わずに静かにショッピングモールへと歩き始めた。

目いっぱい体を捩って振り返る。

彼女の後ろ姿がゆっくりと小さくなっていく。

 そして・・・・・・

岡部怜奈は、木漏れ日のように光を放っていた自動ドアの中へ消えていった。


CBにスタンドをかけ、ゆっくり降りる。ヘルメットを脱いで、いつものようにミラーに掛ける。

そして…

アスファルトに置かれた、真っ赤なヘルメットをそっと持ちあげた。

ヘルメットから、彼女の残り香がかすかにした。



ヘルメットから髪の毛がこぼれるの、いいよね・・・?

あ、俺だけ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ